
山口歴に直撃取材!想像を超えるものが形になった瞬間《前編》
ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活動し、NIKE、ISSEY MIYAKE MENといったブランドとのコラボレーションも活発に行っているアーティスト、山口歴(やまぐち めぐる)。そんな山口歴の個展「LISTEN TO THE SOLITUDE」が開催されている。
今回の展示はすべてが新作。山口歴の新境地を見せる過去最大級となる作品2点や、マルチカラー作品、2人の写真家とのコラボレーション作品、そして山口にとって初となる立体の作品が、GINZA SIX 6Fにある銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUMでお披露目となった。
そこで今回は、本展のために一時帰国中の山口歴にANDART編集部が直撃取材を実施。注目の集まる立体作品《PROMINENCE NO. 1》に加え、山口歴の代表的シリーズである《MÖBIUS(メビウス)》の最新作など、作品に込めた想いを語ってもらった。
初めての立体作品への挑戦!想像を超えるものができた瞬間
ANDART編集部:
今回は山口さんにとって初となる立体作品が完成したんですよね!まずは初めて立体に取り組んだ感想から聞かせていただけますか。
山口歴:
ありがとうございます。今回初めて作ったこの立体作品は、初期案のイメージでは厚みがもっと薄かったんですけど、溶岩みたいな力強いイメージにしたかったのでもっと厚みを出したり、試行錯誤しながら進めていきました。

実はこの立体は、すでにあるストロークを使って実体化しています。例えばこの《MÖBIUS No. 17》メビウスの平面の作品のストロークも使っています。これ以外の作品からも今回のテーマに合うストロークをもってきて、形にして落とし込んでいます。
ANDART編集部:
ブラシストロークなので、基本的には平面を作るところから立体に残すところまで、すごく難しいと思うのですが、その辺りはやはり苦労もあったのではないでしょうか。
山口歴:
その点に関しては、3Dデザイナーの方にも協力していただいたので、本当に皆の力だと思っています。僕はこうして欲しい、ああして欲しいと色々イメージは伝えるんですけど、やっぱりその先の部分、最終的にいい形に落とし込めるかどうかは、個々の技術に拠るところも大きいので。ただ、この人じゃないとダメ!という方にお願いしました。結果的に、想像以上のものができたので、本当に良かったなと思っています。

地球の至るところに渦巻く、エネルギーみたいなものを表現したかった
ANDART編集部:
ちなみに立体のコンセプトは、太陽のエネルギーでしたよね。

山口歴:
はい、太陽などの、自然のエネルギーを表現したいと思ったのがきっかけのひとつです。元々僕が絵を始めたのも、ゴッホの絵に感動したのがきっかけでした。小さい頃、絵画教室に通ってたのですが、そこでゴッホの有名な作品《The Starry Night》を模写する授業がありました。それは「夜明けの星」をイメージして描かれたもので、ゴッホ自身が自然への思いを表現した絵だと言われているのですが、あれはまさに、空のエネルギーなのではないかと今は思います。
今回制作をしながら、そういう昔の記憶を思い出した瞬間があって、僕はあの時きっと、《The Starry Night》から無意識で色々なものを受け取っていたんだろうなと感じました。だから今回も、目には見えないけれど自然の中に宿る、そういうエネルギーみたいなものを素直に表現したいと思いました。

ANDART編集部:
太陽がテーマとお聞きしていたので、実際の作品を見て青だったので新鮮な驚きがありました。ただ、考えてみれば青は、山口さんのブラシストロークを象徴するカラーでしたよね。
山口歴:
はい。太陽を表現しようと思った時に、赤や黄色を使って表現することもできると思うのですが、ブラシストロークの「青」で太陽のエネルギーを表現してみたいと思いました。
やっぱり僕、青がすごく好きなんですよ。青って根源的な色じゃないですか。空や海、それから地球の青だったり。あとは個人的には、多くの人が青という色をイメージする時に、自然や宇宙といった普遍的なものをイメージすると思うんです。
ANDART編集部:
今、お話を伺ってよく理解できました。山口さんの作品を見ているとアニメや漫画に出てくる衝撃波だったり「効果」のようなイメージを想起するのですが、何かそういったバックグラウンドはあったりするのでしょうか。
山口歴:
ありますね。ちなみにこの立体作品の形、円を描いて渦を巻いている感じ、わかりますか?ここは幼い時に見た、多分、ドラゴンボールのオープニングの太陽が出てくるシーンの記憶と少しつながります。というのも、この作品を作ろうと思った時に、そういう火が渦巻いているみたいなイメージがふと浮かんで。そこで「そもそも、どうして自分はこういうものを表現したいんだろう?」と思った時に、過去の記憶が蘇ってきたんです。
小さい時に好きでよく見ていたものって、原風景や原体験として強く残っているので、そこからの影響は結構大きい。いつもは忘れていますが、思わぬ瞬間に記憶の底からパッと出てきたりするんですよね。
その他にもデザインや音楽も好きなので、本当にあらゆる分野からたくさん影響を受けているなと思います。とにかく色々なことへの興味が尽きません。でも、そういう色々な要素がパーツになって組み合わさり、今の自分を作っているのだろうなと思います。僕に限らず、きっと誰でもそうだと思うのですが。皆それぞれの人生の中で影響を受けてきたものがあって、それらが組み合わさりレイヤーとなって、その人自身を構成しているのだと思います。
ANDART編集部:
そういう様々な要素が、山口さんの作品にも現れていますよね。そういう色々な要素が渾然一体となっているものがレイヤーに込められていると思います。
まさに新境地!山口歴の象徴とも言える「MÖBIUS」シリーズも、新たなステージへ
ANDART編集部:
話が変わるのですが、こちらの平面の新作《MÖBIUS NO. 17》は、最初は進みも早かったけれど、最後の方で苦労したとお伺いしたのですが、この作品についてもお聞かせいただけますか。

山口歴:
そうですね。これが出来た時に初めて、自分のなかで新しい扉が開いたような、これまでとは異なる感覚がありました。
アートバーゼルなどに行くと毎年必ず一人か二人、すごい作家に出会います。うまく言葉にできないのですが、「どうしたら、こんなのができるんだ?」というものができてしまうような、作家やクリエイターが。そういう作品を目の前にした時に、どうしてこんなにすごいものができるんだろう、なぜこんなにかっこいんだろう?と、ずっと思ってたんですけど、その「なぜ」がこの作品を作って初めてわかりました。
ANDART編集部:
まさに新境地ですね!この作品を見た時に、立体ももちろんすごいんですけど、やっぱりものすごい渦巻いているエネルギーとか、ただならぬ感じの印象を受けました。平面でもここまでできるんだと思って。今、違う扉が開いたっておっしゃいましたけど、それはどんな感じでしょうか。
山口歴:
それはやっぱり感覚で掴んだものなので、表現が難しいですね。言語化してもいいんですけど、僕自身の感覚だったりするので、自分なりの言語表現を以って皆さんに理解いただけるかどうかは、そこはなかなか自信がないです。
ちなみにこの作品は、実は色々なテクスチャーが入ってるんですよ。例えばここには、ジャクソン・ポロックのようなレイヤーが入っていたり、コラージュが入っていたり。スプレーで描いたり、その隣は水彩画の要素も取り入れています。海外で活動するなかで、自分のバックボーンである日本の文化を意識するようになり、今回はそれを「墨汁」を使用することによって表現に取り込みました。日本的なものを感じられる要素を作品に取り込みたくて、例えば墨汁とグラフィティスプレーを混ぜたりとか。ブラシストロークは西洋のものなので、そういうものと日本的な要素も含めた色々なものがレイヤーとして組み合わさっている、そんな作品になっています。

ANDART編集部:
なるほど納得です。山口さんは最も代表的とされる「OUT OF BOUNDS」シリーズを通して固定概念やルール、それから国境や境界線を越境していく、みたいなテーマを掲げてらっしゃったので、まさにそのイメージが今回の個展においても具現化された形ですね。様々な要素が組み合わさってはいるんですけど、全体として渾然一体となって調和しているイメージがあります。
山口歴:
ありがとうございます。今回の場合は、最終的に自分の想像を超えられたのがよかったですね。

〜後編に続く〜


文:小池タカエ