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ポップアート作家 ロイ・リキテンスタインの代表作を解説

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ロイ・リキテンスタインとは?

ロイ・リキテンスタイン(Roy Lichtenstein)は1923年アメリカ・ニューヨーク生まれの画家。アンディ・ウォーホルらと並び、ポップアートを代表する作家である。新聞連載の漫画の一コマを印刷インクのドッドも含めて拡大した絵画作品群で有名。

出典:https://www.artmarketmonitor.com/

1940年オハイオ州立大学美術大学に入学し、兵役期間を経て1949年に修士号を取得。卒業後も同大学で講師をしながら製図工の仕事で生計を立て、1951年に初の個展をニューヨークのカール・バック画廊で開催。その頃は最新の抽象表現主義の作品を制作していた。

ある日、自分の息子のためにミッキーマウスの漫画を描いた時、従来の絵画にはない強いインパクトと表現方法があることに気付き、画風を変化させる。1960年代初頭にリキテンスタインの代名詞となる漫画のコマを拡大した作品を発表し、ポップアート作家として注目を浴びるようになった。絵画以外にも彫刻や版画作品も手掛けている。

作品の特徴

漫画

ポップアートのテーマは大量生産・大量消費社会や大衆文化である。リキテンスタインは量産されるマスメディア(新聞)から漫画をモチーフにした。恋愛漫画や戦争漫画をシリーズ化した作品や、キャリアの後半では漫画以外のモチーフも取り入れている。

印刷インクのドット

印刷インクのドットとは、網点(あみてん)と呼ばれるグレイスケールやカラー画像を限られた色数の小さな点のパターンで表すことで印刷を可能にした手法。印刷インクによる細かいドットを均一に配置し、その大小や密度で陰影を表現している。遠目では平面に塗られているように見えるが、近付くと幾つものドットの集まりであることに鑑賞者は驚かされる。

輪郭線と三原色の色彩

作品に登場する人物や物は太い輪郭線で囲まれ、原則として色は三原色を用いた油彩で表現されている。赤・青・黄の三原色と白・黒に限定した色彩は単純でありつつも、強烈なインパクトを与える。後に三原色以外も使うようになり、表現の幅が広がる。

平面の表現

漫画と同じように平面性を強調した構成画面も特徴のひとつ。こちらもまた抽象表現主義の影響が残っていると言われている。クロード・モネやピカソなどの名画をオマージュして平面的に描いたり、絵の具を分厚く塗った立体的な「筆触」を平面に表現したりしている。下の作品《筆触》は、リキテンスタインのなかでも代表作の一つに挙げられる。

《筆触》(1965年)
出典:https://www.tate.org.uk/

リキテンスタインの代表作4選

リキテンスタイン自身を知らなくても、漫画モチーフのキャッチー作品はどこかで見かけたことのある人も多いはず。どれもポップアート史に残る名作だが、中でも特に重要な4作品を紹介。

《Look Mickey》

《Look Mickey》(1961年)
出典: https://www.wikiart.org/

自身の息子が持っていた絵本のワンシーンを元に、リキテンスタインが最初に大衆文化をアートに取り入れて制作した作品。抽象表現主義からポップアート表現への転換となる重要な作品として知られている。

《ヘアリボンの少女》

《ヘアリボンの少女》(1965年)
出典: https://ichigoichie.exblog.jp/

リキテンスタインは、1963年から65年にかけて、アメリカの漫画やテレビドラマの典型的なヒロイン像の顔をテーマにして一連の作品を制作していた。《ヘアリボンの少女》はそのシリーズの中でも一番と言っていいほどの代表作。この作品は、東京都現代美術館が1995年開館時に約6億円で購入して話題を呼んだ。現在も同館に所蔵されている。

リキテンスタインは、1963年から65年にかけて、アメリカの漫画やテレビドラマの典型的なヒロイン像の顔をテーマにして一連の作品を制作していた。《ヘアリボンの少女》はそのシリーズの中でも一番と言っていいほどの代表作。

《溺れる少女》

《溺れる少女》(1963年)
出典:https://www.wikiart.org/

《溺れる少女》も《ヘアリボンの少女》と同じテーマで描かれたもの。こちらは「ラブ・コミック」と呼ばれる恋愛漫画シリーズの作品で「メロドラマの傑作」とも評される。

メロドラマとは、感情の起伏を誇張した大衆的な恋愛劇のこと。大衆の期待のためにドラマティックに涙を流したり、微笑んだりする少女たちの通俗的な感情表現を強烈に描写した作品である。

《Whaam!》

《Whaam!》(1963年)
出典:https://www.wikiart.org/

《Whaam!》は1962年から64年の間に手掛けられた戦争漫画シリーズの作品。2枚折りの絵画で構成されていて、左側はロケットを発射する戦闘機、右側は炎の中で爆発する飛行機が2枚のパネルで描かれることによって、物語性と空間に奥行きを出している。右側の「WHAAM!」は、日本語で言う「ドカーン!」の意味になるオノマトペである。

更新されるオークション市場価値

1997年リキテンスタインの死後も彼の作品の価格は上がり続けている。《ヘアリボンの少女》の購入を都議会で議論した際、「漫画に6億円」と批判を浴びたが、その上がり続ける価格を見ると、実はかなりの格安だったのだ。彼の作品の中で最も高額で取引された3つの作品を紹介する。

《花飾りの帽子の女性》約57億円

2013年、世界的に有名な競売会社のクリスティーズ・オークションで落札。ピカソのドラ・マールのポートレイト作品をオマージュしたもの。

《花飾りの帽子の女性》(1963年)
出典:https://www.wikiart.org/

《ナース》約117億

2015年、クリスティーズ・オークションで落札。

《ナース》(1964年)
出典:https://www.wikiart.org/

《マスターピース》約180億円

刑事司法改革の資金調達のため、アメリカの著名アートコレクターで慈善事業家のアグネス・ガンドによって売却された作品。ある漫画のコマのセリフを「この絵は傑作よ!近いうちにニューヨーク中があなたの作品を求めてくるわ!」と書き変え、リキテンスタインが自身の成功を予言した内容で知られている。

《マスターピース》(1962年)
出典:https://www.artpedia.asia/

アンディ・ウォーホルに与えた影響

1960年代、当時のニューヨークで全盛期を迎えたポップアートを代表する作家がリキテンスタインとアンディ・ウォーホルである。

ウォーホルが32歳の頃、『バッドマン』や『スーパマン』などのアメリカンコミックをモチーフに制作していたが、リキテンスタインの完成度の高い作品に触れて以来、このテーマからは手を引いた。色を塗っていない部分を緊密なドットを描くアイデアを思いつけなかったことにウォーホルはとても悔しがったそうだ。互いの競争を避けるために、漫画をモチーフにすることを諦めて、シルクスクリーン作品の《キャンベルスープの缶》を作ったエピソードは今でも語られている。

アンディ・ウォーホルについての記事はこちら

左:アンディ・ウォーホル 右:ロイ・リキテンスタイン
出典:https://sketcheverybloodyday.wordpress.com/

日本でリキテンスタインに出会う

《ヘアリボンの少女》以外にも、所蔵されている日本の美術館がある。常に展示されているとは限らないので、チャンスを逃さないためにも定期的にチェックしておきたい。または一般に流通しているポスターを飾ってみたり、通販でリキテンスタインが特集された画集などの本を購入して、家でゆっくりと彼の作品を眺めてみたりするのも良いかもしれない。

【横浜美術館】

所蔵作品:《泣く女》(1963年)、《夢想》(1965年)、《筆触》(1965年)、《ピカソのある静物》(版画集『ピカソへのオマージュ』より)(1973年)

HP: https://yokohama.art.museum/

《泣く女》(1963年)
出典:https://www.wikiart.org/

【国立国際美術館】

所蔵作品:《スイート・ドリームス,ベイビー!》(1965年)、《ルームメイト(スード・シリーズより)》(1994年)、《『Works by Artists in the New York Collection for Stockholm』より無題》(1973年)

HP: https://www.nmao.go.jp/

《スイート・ドリームス,ベイビー!》(1965年)
出典:https://www.davidbenrimon.com/

書籍『LICHTENSTEIN』

『Roy Lichtenstein 1923-1997: The Irony of the Banal (Basic Art Series 2.0)』
出典:https://www.amazon.co.jp/

まとめ

出典:https://www.sothebys.com/

リキテンスタインの作品は、二度楽しい。遠目にはインパクトの強い鮮やかな色彩とポップな漫画モチーフで美的感覚を刺激され、近くで見るとそれは正確な印刷インクのドットで描かれていることに感心する。

「それは何かの絵のように見えるのでなく、物そのもののように見えるのです」と本人が語っているように漫画を描いているように見せて、物自体の側面が強調されるように描かれている。まるで「アートとは何?」と作品が語りかけてくるようだ。これからもその問いについて考えながら、ポップアート代表作家の作品を楽しんでいきたい。


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文:ANDART編集部