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22/23年 世界の現代アートオークション市場まとめ

世界の美術品データバンクである「artprice.com」が発行した現代アートオークション市場のレポート「THE 2023 CONTEMPORARY ART MARKET REPORT」(2022年7月1日〜2023年6月30日)から内容を抜粋してご紹介します。

artprice.comより


22/23年の現代アートオークション売上高

史上4番目 22.9億ドル

2020年、未だ記憶に新しい新型コロナウイルスの大流行は、アート業界にも前代未聞の制約をもたらし市場を一時的に停滞させた。しかし、サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスの各オークション会社はすぐに立て直し、2021年と2022年には市場に一流の作品とコレクターたちが戻り、現代アート分野の売上高は27億ドルという過去最高額を記録した。

そんな21/22年という最良の年に比べると、22/23年は前年比15%減という控えめな結果ではあったが、売上高は22.9億ドルと申し分なく、史上4番目の成績となった。実際、この売上高はパンデミック時の2倍、20年前の9000万ドルの25倍である。また、取引量においては過去最高となる12万3千点以上となった。これは10年前の2倍、2000年代初頭の100倍の取引量だ。

超高額で落札されるロットは数件あったものの、一般的にここ一年で起きている戦争やインフレなどの世界情勢は、美術品販売にとっては不利に働く。多くのコレクターは売却を先伸ばしにするなど控えめな動きを見せているが、その動きを考慮しても、22/23年の好成績は美術品収集の需要の高まりとその継続を表しているといえるだろう。

年別 現代アートオークション売上高

取引数においては、5000ドル以下の価格帯の作品が大幅に加速。9万9000点近い作品が取引され、市場内で最も活況を呈した。何万点もの「手頃な」アート作品に比べると、ニュースになるような数百万ドル、数千万ドル規模の取引はアート市場内においては本質的にはミクロである。

パンデミック後の21/22年には、オークションで百万ドル代で落札されたロット数が372という歴史的な高水準に達した。今年は、290点の現代アート作品が100万ドルを超え、うち11点が1000万ドルの閾値を超えた。超高級美術品の販売量と価格の変動は、世界のオークション売上高に大きな影響を与えるのは当然ではあるが、それは美術品市場全体を表しているわけではない。

価格帯別 現代アート作品オークション落札ロット数

地域別

アメリカとイギリス

地域別の現代アートのオークション売上は、アメリカが8億5700万ドル(前年の10億ドルに対し19%減)、イギリスが3億7600万ドル(前年の4億8600万ドルに対し23%減)となった。マイナスしているとはいえ、この2カ国をあわせると世界の現代アートのオークション売上高の市場の54%を占めることになる。

アメリカとイギリスが大きくマイナスになった一方で、中国は7億4400万ドルの前年比5%減にとどまった。パンデミック真っ只中(19/20年)には45%もの落ち込みを見せていた中国は、パンデミック前(18/19年)の8500万ドルプラス(13%増)となり、ほぼ回復したと見られる。

22/23年 国別 現代アートオークション売上高TOP15

アジア

中国の躍進において最重要なのが香港の存在である。香港は中国の現代アートのオークション売上高の半分以上である4億1400万ドルを記録。これはロンドンより4500万ドル上回る額であり、中国全体の取引の3分の1以上(39%)を占める結果となった。

中国以外のアジアでトップ10にランクインしたのは、日本(4000万ドル/39%減)と韓国(2100万ドル/68%減)だった。両国とも今年は減速したものの、各市場は過去10年間で940%以上という飛躍的な数字を遂げており、現代アートへの需要がアジアで急速に高まっていることを示している。

各国がマイナスになったなか、そのトレンドに逆行したのがシンガポールだった。22年8月、15年ぶりにサザビーズがシンガポールでライブオークションを開催し、460%増の930万ドルを記録した。引き続き、東南アジアにおける美術品の需要の高まりとシンガポールのコレクターのポテンシャルには注目だ。

ブルーチップ・アーティスト

オークション売上高へ大きな影響を及ぼすのが、「ブルーチップ・アーティスト」(市場に作品が豊富に出回り、一定の高額価格を保つアーティストのこと)による高額作品の有無だ。実際、世界全体の売上高の85%以上(19億ドル)は、世界で最も売れている500人の現代アーティストの作品によるもので、現代アートの世界全体の売上高のほぼ3分の1は、わずか10人の作家の作品によるものである。しかし、先に述べた世界情勢により、22/23年は現代アート市場のトップ10アーティストのオークション売上高は、合計で前年比約1億8800万ドル減少した。

以下の表は、対21/22年に対し、現代アーティスト上位10人の順位変動を表したものである。22/23年、コンテンポラリーアーティストで1000万ドル以上の落札があったのはわずか4人(ジャン=ミシェル・バスキア、ジェフ・クーンズ、奈良美智、クリストファー・ウール)だった。バスキアに関しては、約6700万ドルという今年最高の結果を生み出した。

ジャン=ミシェル・バスキア《El Gran Espectaculo (The Nile)》(1983)
23年5月クリスティーズにて約6700万ドルで落札 artprice.comより

3位のバンクシーは、前年に対し7900万ドル減少した。その理由は、21/22年に出品された作品と比較して高い価値がつけられる作品が減少したことと、オークションが全体的に落ち着きを取り戻したところにある。しかし、売り上げ高自体は減少したものの取引数は55%増加し、落札点数は1600点以上を記録した。世界情勢や質の良い作品がオークションに出てこない循環によって売り上げ自体は下がったが、需要はこれまでにない高まりを見せている。

超現代アートの動向

「超現代アート」(ウルトラコンテンポラリーアート)とは、明確ではないものの、1975年以降に生まれたアーティスト、または40歳以下のアーティストとして定義され、現代アート内で細分化した分野である。

2000年に入ってからオークション市場に参入する40歳以下のアーティストの数が急増し、特にパンデミック後の2021年上半期から2022年上半期にかけての3期連続で、オークション売上高を2億ドル以上に引き上げるなど需要が高まってきている分野である。22/23年は、約2億7350万ドルを記録。パンデミック以前の平均作品数は毎期とも約3000点程度であったが、2023年上半期には4500点以上が取引された。

2023年上半期 超現代アート作品オークション売却数

22/23年 ファインアート・NFTのオークション売上高全体において現代アートと超現代アートのシェア

大手オークションハウスも積極的に紹介

超現代アートのコレクターが最もアクティブな3都市(ニューヨーク、ロンドン、香港)に拠点を持つ、サザビーズ、クリスティーズ、フィリップスは積極的に若手アーティストを紹介している。今年はこの3大オークションハウスだけで、超現代アート分野の世界売上高の81%を稼ぎ出した。

2023年上半期は、特に人気の高い若手アーティストの出品は1〜3ロットに留まったが、その希少性の高さが超現代アート分野において一つの評価基準となる。

台頭する若手アーティストたちはペースやガゴシアン、ツヴィルナーなどの一流のギャラリーに所属し、各ギャラリーは市場での価格の暴走や急落を防ぐために流通量などをコントロールしている。そのためオークションなどで設定された価格より高く買おうとする意欲的なコレクターは一定数いるものの、一般的には超現代アート分野の作品が欲しい時、コレクターに試されるのは、ウェイティングリストに名を連ねて作品が手に入るまで待機する忍耐力である。

躍進続ける香港

2008年まで美術品オークション市場が存在しなかった香港は、現在では主要拠点の一つとしての地位を確立した。ササビーズ、クリスティーズ、フィリップスは香港に新本社や展示スペースを設立するなど、アジア人の優良顧客層獲得へ向けサービスを拡大している。そんな香港では、ここ近年で若手アーティストの作品が目を見張るような高値で取引されている。

香港の2023年上半期の超現代アート作品のオークション売上高は3900万ドル(239ロット)を記録した。これはイギリスを引き離し、アメリカ(ニューヨーク)の4100万ドル(688ロット)にあと一歩迫る勢いである。

2023年上半期 地域別 超現代アートオークション売上高シェア

香港は、西洋美術における新しいスターをオークション市場に導入するためのテスト市場になっている傾向がある。例えば、インスタグラムで人気を獲得したカミラ・エンストロム(34歳)の作品《Love Tastes Delicious》が、クリスティーズ・香港で見積もり1万5000ドルに対し、約7万3000ドルで落札されている。フィリップスはこれと同じ戦略を採用し、エンストロムの出品場所に香港を選び、《Purple Lake》を見積もり1万9000ドルに対し、4万8500ドルでの売却に成功した。

カミラ・エンストロム(インスタグラムより)
カミラ・エンストロム《Love Tastes Delicious》(2020) artprice.comより

NFT

ビープルの《Everydays: The first 5000 Days》が脅威の6930万ドルで落札されてから2年、22/23年のNFT市場は、合計1420万ドル、現代アート分野全体の売上高の11%を占めた。

暗号通貨の暴落によって市場は収縮したものの、サザビーズとクリスティーズによるとジェネレーティブ・アート(アルゴリズムや計算技術を用いた生成系アート)は、オークション市場でその地位を確立しつつあり、ますます多くの人々の注目を集めているという。実際、超現代アート分野の世界ランキング(2023年上半期オークション売上高ベース)で2位にランクインしたのはドミトリ・チャルニクのNFTの作品だった。

2位:ドミトリ・チャルニクのNFT作品《Ringers #879 (The Goose)》 (2021) artprice.comより

今年初めには、パリのポンピドゥー・センターがフランスの公立美術館として初めてNFTをコレクションに加え、MoMA(ニューヨーク近代美術館)はすでにNFTという形でデジタル・アートコレクションを展開している。

また、イーサリアムにおいては、技術発展により99.9%のエネルギーコスト削減に成功し、脱炭素化が進んでいる。これは大量のエネルギーを消費する性質が問題されていたクリプト・アートにおいて大きな障害を取り除いたことになり、デジタル・アートのさらなる発展へ確実に前進していることを示した。

1位:マシュー・ウォン《River at Dust》(2018) artprice.comより


ANDART編集部