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アーティストインタビュー

YOUANDART アーティスト・KATHMI アトリエ訪問インタビュー《前編》

YOUANDARTでお取り扱いしている作品をANDART編集部が深掘りするインタビュー企画、今回はアーティストのKATHMIをご紹介したいと思います。 今回は前編として、KATHMIが昨年に拠点を移したアトリエの様子についてお話をお届けします。昨年の7月に逗子にアトリエを構えて以来、どのような変化があったのでしょうか。今回は編集部が実際にアトリエまでお邪魔して、その様子を伺ってきました。

【KATHMI プロフィール】

10代の頃からグラフィックデザイン及びアートに携わる。九州産業大学芸術学部デザイン科を経由し、武蔵野美術大学視覚伝達デザイン3年次編入、中退。

NYや海外のストリートアートやミューラルにインスパイアを受け、現在は都内を中心にオフィスや店に数々のウォールアートを絵画する。色彩豊かに、パワーに溢れたタッチが特長的。リアルイラストレーションからデフォルメ、デザインまで見た物を応用して新しく作り出し、美しさや魅力的な理想を追い求める。

最近では、ARTBATTLE 2019 TokyoでChampionに輝くなど、近年注目されているアーティストの1人である。

逗子にアトリエを構えたのはいつですか。またどんなきっかけで引っ越しを決めたのでしょう?

逗子に越してきたのは、昨年の7月です。それまでは都内にアトリエがあって2部屋ある部屋を借りていましたが、もう少しゆったりしたところで創作に集中できる場所があればいいなと思って、物件を探し始めました。昨年はコロナの影響もあって世の中的にもリモートワークが一気に増えたり、会議もどんどんウェブに切り替わっている中で、拠点はどこでもいい、特に東京にこだわらなくてもいいという状況になって。そんな時にタイミング良く、新築で私のイメージに近いデザイナーハウスが見つかったんです。それじゃあ、ということで引っ越すことに決めました。最初は場所にこだわって探していたわけではなかったので、まさか自分が逗子に住むことになるとは思っていませんでした。結果的にはいい場所が見つかって、良かったなと思っています。

タイミングも大きかったんですね。心地よくて本当に素敵な場所で、アトリエとしてはまさに、最高の環境だと思います。

ありがとうございます。私は元々、福岡出身で、海も山も近い場所で生まれ育っているので、東京よりもこういう自然の多い場所の方がおそらく合っているんでしょうね。それから逗子は別荘地でもあるので、ゆったりとリラックスした雰囲気もあって、そんなところも気に入っています。何より、落ち着いて創作活動に集中できる環境に身を置けるというのは自分の中でも大きいですね。

このアトリエも緑豊かで静かな場所にあって、すぐそばに山もあるので、特に鳥の囀りが聞こえてくる朝は、本当に快適で気持ちが良いです。動物だとフクロウやハクビシンがいたり、植物もまた色々な種類の草木が群生しているので、日々発見があって楽しいです。少しずつ生態系に詳しくなっている自分もいます(笑)。

そうなんですね。ちなみに今は、基本的に逗子のアトリエで活動されていることが多いのでしょうか。

アトリエにいるのは、週の半分くらいでしょうか。都内でコンスタントに打ち合わせがあったりイベントもあったりするので、なんだかんだで週に2〜3回は東京に行っています。逗子が始発で、渋谷まで一本で行ける電車もあるので、アクセスも良くて、少し遠いですけど、実は便利な場所でもあるんですよ。

では、逗子と東京が半々くらいで、バランス的にも良さそうですね。ちなみにアトリエを逗子にしたことで、変化したことはありますか?創作への影響だったり、環境が変わったことで気づいたことなどがあれば教えて下さい。

それは本当に変わりました。私自身、アートは自分の心の深い部分から出てくるものだと思っているので、普段から多くの時間を過ごす環境がいいと、それだけで自然と心が研ぎ澄まされていく感覚もありますし、何より伸び伸びと自由に描けるのがいいなと思います。

以前は、いわゆる東京らしいアトリエで制作していたので、創作活動の拠点という意味では、自然に恵まれたところに移ったので、環境面では本当に大きく変化しましたね。

逗子にアトリエを構えてから作風が変わったということは特にないのですが、自分のこれまでの作品を整理したりこれからの方向性を考える上で、この一年はとても貴重な時間だったと実感しています。

絵を描き始めてからちょうど10年くらいになりますが、代表的なところだと私はウォールアートをたくさん描いてきましたし、その他にも、和洋それぞれのテイストで描いてみたり、絵のタッチも繊細で緻密なものからダイナミックなものまで、色々試してきたんですね。そしてふと立ち止まって見たら、かなりの数の作品やポートフォリオが溜まっていていることに気づいて。これまで作品を作り続ける中で、「自分らしい絵ってどんなものだろう?」と常に自問自答しながらやってきたのですが、その辺りがこの一年で大分整理されて、これからの方向性が明確になってきたという感覚があります。

この一年の間に、親しい友人知人にも助けられて「こういうのがKATHMIっぽいよね」という感じで、色々と意見をもらえたのも良かったですね。今も考えながらさらにブラッシュアップしている最中ですが、そうやって自分の立ち位置や表現していきたい世界観を見つめ直すという意味では、自分自身に立ち返ることのできる環境や場所の力は大きいなと感じています。

良い変化が生まれたのですね。ではここで、ざっくりとKATHMIさんのアトリエでの一日のスケジュールを教えていただけますか。読者も気になるところだと思います。

はい。朝はちょっと遅めですけど、いつも10時位に起きて、それから仕事を始めます。午前中はメール対応だったり、クライアントとのやり取りなど、色とやることがたくさんあるので、主にそういった事務的な仕事をするための時間に充てていますね。

それから、お昼にはごはんを買いがてら、散歩に出かけます。近くにスーパーやコンビニがないので、買い物をするにも少し遠くて、目的地まで普通に歩いても片道20分位はかかってしまうんです。でも往復でトータル約1時間というのは歩くにはちょうど良くて、いい運動にもなるので、一石二鳥。ランチタイムの散歩は、すっかり日々の習慣の一部になっています。

ちなみに方向は、その日の気分に合わせて気の向くままに出かけていきます。海が見たい時は駅の方向へ、また山の方に行きたい時にはその逆の方向に向かって歩いて行きます。この間は一山超えてかなり遠くまで行ったのですが、その時に蛍を見つけて。日々散歩をしていると良いリフレッシュになるだけでなく、自然のちょっとした変化やふとした出会いにも恵まれるので、そんな発見も刺激になって楽しいなと思います。

アトリエに戻ってからは、気持ちを切り替えて仕事モードに。そのまま創作に入ることもあれば、本格的に描き始める前に、構想をしっかり練る時間を持つこともあります。その時々でテーマも変わるので、その時々で計画を立てながら進めるということもやはり大事なことなので。そう考えると案外、描いている時間は少ないかもしれないです(笑)。

でも一旦描こうとなると結構早くて、集中して一気に描き上げます。平均すると実質、描いている時間は一日3〜4時間くらいかも知れません。

1日の中で特に好きなのは夜ですね。まわりも静かでホッと一息つけるので好きです。

ものすごい集中力ですね!以前、YOUANDARTに出していただいている作品も一気に10枚くらい出して下さって、描かれるスピードもものすごく早いという印象があります。

確かに、集中力はあるかも知れません。それから一度集中モードに入ると、早いと思います。

ちなみに、「ARTBATTLE」というイベントをご存知ですか?

これは毎年、天王洲で行われているイベントなんですけど(※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、現在は開催を延期)私、2019年大会でチャンピオンになったんです。

元々はNY発のライブペインティングをテーマにしたもので、単に絵の上手さだけを競うためのものではなく、20分間という限られた時間の中で、絵を描く時のストーリーの見せ方だったり、パフォーマンスの面白さだったり、アーティストの熱意だったり。もちろんラストの仕上がりの素晴らしさというところも審査のポイントにはなりますが、そういう色々な要素をトータルで見て、最終的な勝敗が決まるというイベントなんですね。

私も以前、純粋に観客として参加したことがあるんですけど、これが本当に面白くて!キャンバスを囲んで、そこにアーティスト、それからライブペインティングを見に来るオーディエンスが集まってくるのですが、観客がいいと思うアーティストの周りにはわかりやすく、ものすごい人だかりができるんですよ。こういうライブ感に溢れているイベントはなかなかないのですごく楽しかったですし、良い経験になりました。

大勢の中での、ライブペインティング。まさに集中力とスピードが問われますよね。ちなみに当日描かれるテーマは決めていたのですか?

いえ。もちろんある程度、こういう方向性で、という大まかな枠組みは決めて臨んだんですけど、とはいえライブペインティングなので、当日何が起こるかわからない。そうなると、その時々のインスピレーションが大事になってくるので、あとは筆に任せるという感じで、その時その瞬間、純粋に湧いてきたものを大切に、色や形として表現していきました。

KATHMI作品

私はこういう和のテイストの絵も描くことがあるのですが、ものすごく時間もかかるので、即興的な要素も強いライブペインティングは、オーディエンスもいる分盛り上がりますし、スピード感をもって一気に描けるのもいいですね。

ちなみに私、元々海外のアーティストも好きで、西洋美術史をみていると、美術界で有名になった方って、やっぱり圧倒的に多作なんですよね。例えばピカソだと、万単位で作品を残していますし。そういう意味で、「量は質に勝る」と思っています。もちろん作品数が少なくても素晴らしい画家というのもいらっしゃると思うんですけど、個人的には、多作の方が全体としてはいいのかなと思ってます。だから、まずは量を描こうと自分で決めて、多作の方向に踏み切ったというのはありますね。

納得しました。多作と決めてらっしゃるから自ずとスピードも早くなるんですね。ちなみにANDARTに出してくださっている作品はどれ位で仕上げるのでしょう?

これはものすごく早いです。乾燥させる時間があるので、それを考えるとトータルで一週間くらいはかかりますが、描くのは実質1〜2時間くらいですかね(笑)。ご想像にお任せします。

ウォールアートの場合は、時間もかかるので1日7〜8時間位描いちゃうんですけど、こちらだとどんどん描いて量産できるので、「多作を極める」という今のテーマには合っているかなと思いますね。

そうなんですね。KATHMIさんの作品は一度に沢山買ってくださる方もいらっしゃるので。そういうニーズにも応えているということになりますね。私もこうして実際に作品を目の前にすると、先ほどおっしゃっていたその時のライブ感みたいなものがすごく伝わってきて、すごくいいなと思います。集中して描く上で、普段から何か意識されていることはありますか?

そうですね。こう見えても、昔は切り替えがなかなか上手くできなくて苦労したんですよ。猫が猫じゃらしに連れて行かれる感じで、目の前に興味のあることがやってくると、すぐにそっちにもって行かれてしまうようなタイプでしたから(笑)。でも最近はようやく周りの声も聞けるようになって、集中力もだんだんと上手くコントロールできるようになってきました。

それは、逗子に引っ越したことも大きいのでしょうか。

それは多分、大きいと思います。それから私、あまりアーティストっぽくないかも知れないですけど、普段からスポーツ誌を読んだりすることも多くて、スポーツ選手のメンタルトレーニングやコーチングにもすごく興味があるんです。

ビジネスマンも、スポーツ選手が良いパフォーマンスを出すためのメンタルトレーニングを参考にしているという話もよく聞きますよね。それと同じように、アーティストも良い作品を作るために心の在り方、メンタルの状態というのはすごく重要な部分だと思っています。それから、自分が好きないい絵って何だろう?と考えた時に、いずれその答えに行き着きたいなという気持ちも強くありますし。先ほどもお話ししたように、アートは作家自身の心の深い部分が自ずと現れるものだからこそ、いつもなるべく心を良い状態に保っていたいなと思います。

そういえば私が福岡から東京に出てきたばかりの頃、心の状態も結構殺伐としていた時期がありました。最初は慣れないしわからないことも多くて、とにかく一生懸命だったのでドーパミンをガーって出して頑張るんですけど、そういう状態だとやっぱり無理があって、長くは続かない…。もちろん集中力が必要な時はドーパミンも大事で、出ている時は当然パフォーマンスも上がるんですけど、それだけではダメですよね。結局、人間はバランスが大事なのかなと思います。どんなことにも一長一短あるので、集中もリラックスも両方大事だし、オン・オフの切り替えもすごく重要ですよね。アーティストとして活動を続けていくために、そういうことをずっと探り続けていたので、この一年で段々とその感覚を掴めるようになってきたのは自分の中でも大きくて、気づけて良かったなと思っています。

〜後編に続きます〜

YOUANDART作品情報

家に飾れるアート作品を扱うオンラインセレクトストア「YOUANDART(ユーアンドアート)」では、KATHMIの作品を取り扱っています。この機会にぜひご覧ください。

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取材・文/小池タカエ