
“花”の衝撃を伝える!YOUANDARTアーティスト・Yurika Kinoshita アトリエ取材
YOUANDARTでお取り扱いしている作品をANDART編集部が深掘りするインタビュー、今回はアーティストのYurika Kinoshitaをご紹介したいと思います。花農家で育った生い立ちもあり、「花」をモチーフに創作活動を続けています。今夏、8月7日(花の日)に東京・目黒に新しいアトリエをオープンさせた、Yurika Kinoshita。オープニングを記念して、編集部がアーティストにインタビューを行いました。
【Yurika Kinoshita プロフィール】

佐賀県出身。京都造形芸術大学を経て武蔵野美術大学を卒業。 花農家で育った生い立ちを元に、花や植物を抽象表現した作品を制作している。 密集して存在する花や植物の存在は、美しさ以上の衝撃がある。その衝撃を目の前にすると、瞑想するように自分と対峙し、客観的に自己を認識する感覚がもたらされる。2021年8月に、東京・目黒に新アトリエをオープンさせた。
なお、10月30日(土)と31日(日)に行われるANDART主催のオーナー限定イベント「WEANDART」にて、Yurika Kinoshitaのライブパフォーマンスが決定!当日はあっと驚くパフォーマンスが飛び出す可能性も!?乞うご期待です。
ーー素敵な、心地よい空間ですね!アトリエに越してきたきっかけを教えてください。
友人であるMY’Sフラワーの今泉冴也香さんに声をかけていただき、一緒に一軒家のアトリエを借りることになりました。私は花をテーマに絵を描いていますし、実家が花農家を営んでいたこともあるので、いつも花に囲まれている環境で製作ができるのはとても素敵だなと思いました。
それから立地も良く、大通りから一本入っただけなのにすごく閑静でゆったりした心地よい時間が流れていたりするところもいいですね。目の前には商売繁盛の大鳥神社、それから目黒不動尊もあって、良い気の流れている土地柄なのかなとも思っています。

幼い頃に見た、“原風景”を表現することがアーティストの原点
ーー中央にある、黄色と緑の絵は何のお花をイメージされて描かれたのでしょうか?

これは実は、横から見たチューリップなんです。
花をモチーフにした絵を描く時に、それが何の花かわかるように描く方もいらっしゃると思うんですけど、私の表現は少し違っていて。一輪を具体的に描くというよりも、花畑や山に咲いている密集した花をぼんやりと遠くから眺めているような、そんな感覚で全体をイメージで捉えたものを表現に落とし込んでいます。
私は出身が佐賀県で、海も山も近くにあった環境で生まれ育ったので、普段からそういう場所に出かけていくことも多くて。何かあった時には、海や山や花農園に行って自然をぼーっと眺めながら自分の考えを振り返ったり、心を見つめたりしていました。今思えばそういう時間がすごく大切で貴重だったなぁと思うんですね。その時に見ていた景色の前にたっているような感覚を、私の絵を見た人に感じていただけたらと思っています。
それから新しい試みとしては、全体的に余白のあるタッチを意識して描いています。
花とともに脳裏に浮かぶ、花器の美しい世界観も表現していきたい
ーーおっしゃるように余白が感じられる作品ですね。瑞々しさや透明感も伝わってきます。ちなみに横にあるのは、花瓶か何かをイメージされた絵でしょうか?
はい。花は本当におもしろくて、知れば知るほど奥が深い世界でもあり、自分の中でももっと研究したいという気持ちも強くあったのでここ5年くらいはずっと、ほとんど花しか描いてこなかったんです。でも、せっかくだからこのタイミングで、新しいことにチャレンジしてみようと思って。そこで、花とつながりのあるものを連想していったら「花器」のことがふと浮かんで、じゃあ描いてみよう!となりました。

こちらは花器のみを描いたシリーズになるので、そこに花の姿はありません。ただ、そこに花器があるだけで実際に花がいけられている様子だったり、水がゆらゆらとたゆたっているイメージが朧げながらも浮かんでくるような気がして。抽象的ではあるけれど、そんなふうにどこか曖昧で、普段は見えにくい背景の部分をすくい取ってうまく表現できたらなと思って描きました。
それから、ものごとの奥や背景というところでいうと、例えば最近「民藝」という言葉をよく目にするようになったと思います。そういう中で、器そのものの歴史や背景に魅力がありますが、ふと、そのものにあった用途というものに興味が湧きました。その背景にある用途に思いを馳せるような時間も大切にしていきたいと思い、今回花器のコンセプトを考え描いてみました。
ーー木下さんは確か、ご出身が佐賀県でしたよね。やきものが有名で多くの窯元が集中する土地ですよね。
はい。佐賀県は有田焼や伊万里焼の産地なので、器が身近にある文化の中で育ったことも影響しているのかも知れません。それから私自身も、有田工業高等学校でろくろの使い方だったりセラミックの知識など、一通り学べる学校に通って学んでいたこともあって。まわりにも歴史ある窯元を継いでいる友人がいたりするので、そういう背景もあり、器ややきものに自然と目が向くようになったのだと思います。
「手で描く」スタイルを始めたきっかけとは?
ーーそういえば、木下さんは作品を「手で描く」スタイルでしたよね。どんなきっかけがあったのでしょう?
手で描くのは、油絵を描いていた頃からなので結構前からですね。でも、いざ聞かれてみると確かに、いつからだろう?(笑)。そういう意味では、「よし、今日から手で描こう!」と決めて始めたわけではなく、気づいたらいつの間にかこのスタイルになっていた、という感じです。
ただ昔、筆で描いた時に、自分の中で違和感があったことははっきりと覚えているんです。
最初、筆をキャンバスに置いた時に、「ちょっと遠いな」という感覚があったんですね。絵を描き始めた最初の頃は筆に馴染めないことは誰でもあると思うんですけど、私の場合は思ったよりも上手くコントロールできず、なんとももどかしい気持ちがあって…。そこで試しに手を使って描いてみたら、距離もグッと近くなった上に絵の具の量も調整しやすくなって、自分でどれくらい手に取ったということが感覚的にわかるようになりました。
筆の場合だと、どうしてもペンキを取りすぎてしまったり、筆の跡が出過ぎてしまったりということもあったんですけど、そういうこともなくなりました。あとは、手の汚れもとくに気にならなかったですし。
だから、このスタイルを貫いているわけでも特別なこだわりがあるわけでもなくて、自分にとって一番楽な方法を選んでいったら、結果的に「手で描く」スタイルになっていました。
ーーそうでしたか。木下さんご自身の自然体な雰囲気が、スタイルや絵にも現れている気がします。作品づくりをされている上で、大切にされていることはどんなことでしょう?
一度始めたら、集中して一気に描き上げることでしょうか。
時間をかけてゆっくり描いているとペンキが乾き出してしまうということもあるので。ペンキが完全に乾くまでに2日位はかかるので描いてからそのまま置いておく時間もありますが、そこを抜きにすると、純粋に描いているだけの時間というのは、案外長くないかもしれません。
ただ、その分、頭を動かしている時間はすごく多いと思います。
アーティストは描くのがメインと思われているかも知れませんが、意外とそうではないかなぁと思っています。もちろん中にはじっくり時間をかけて描く方もいらっしゃると思いますが、私の場合は、何を描くのか?どういうコンセプトでいくのか?といった構想の組み立ての方にむしろ時間がかかるタイプなので。でもその分、方向性が決まったら早いですね。
あと、私の作品はライブペインティンティングに近い部分もあるので、逆に手を加えすぎると、ストロークの良さがうまく出ないということもありますね。なので、その時その瞬間で出てきた感覚に従って、素直に表現することをいつも大切にしています。
自分にとっての特別な花、「百合」にもチャレンジしていきたい
ーーこれまで様々なモチーフを描いてこられたと思いますが、その中でもよく描いているお花や、好きなお花はありますか?
これまでよく描いてきたのは、桜ですね。桜はやはり「日本らしい」ということもありますし、季節を表す花でもあるので、発表する時にわかりやすいという良さもあると思います。

もう一つよく描いてきたのは、百合です。元々母が百合好きで、私の「ゆりか」という名前もそこからもらっているんです。そんなこともあって、百合の花は私にとっても特別な存在。自画像ではないけれど、鏡に百合を描くこともあります。
鏡に描いた百合を自分自身として見た時に、どんなに背景や周りの環境が移り変わっていったとしても、「そこに自分がいる」ということを確認するという意味もあったり。ちょっと抽象的になってしまうんですけど、そういう形で百合や自分を表現することもありますね。
ちなみに、今ギャラリーで展示している作品は全て四角いキャンバスに描いていますが、「変形キャンバス」というのも自分の中では重要なテーマになっています。なので四角以外にも丸い形のものだったり、他にも鏡、スケートボード、屏風、バッグなど、多様なものをキャンバスに見立てて創作を行なっています。その時々で土台となる素材を考えて選んで描く作業はやはりその度に新しい発見があって面白いですね。

それから、ずっと描きたいと思っているのは、スイトピーです。実家がスイトピーをメインに育てている花農家であるというバックグラウンドもあり、昔からすごく馴染みのある花なので。でも、いつも身近にありすぎた花だっただけに、勝手にハードルを上げてしまっている部分もあって、未だに納得のいくものが描けていないんです。
だから、スイトピーをどう表現していくか?ということは、自分の中の葛藤であり、今後の課題でもありますね。
ーーそれは楽しみです。先ほどの花器の絵にも、ひらひらとした花弁が美しいスイトピーがよく合いそうです。
ありがとうございます。いよいよアトリエもオープンしたので、これからは心機一転、新しいことにもどんどんチャレンジしていきたいです!今回は新しい試みとして、花器を描いてみたり、余白を感じてもらえるような表現に挑戦してみましたが、今後は私の描いた作品と実際の花と花器をあわせて表現するようなコラボレーションの場など、自分のアートの領域を超えたつながりを作って広げるような活動をしていけたらいいな、と思っています。

ありがとうございました!
YOUANDART作品情報
家に飾れるアート作品を扱うオンラインセレクトストア「YOUANDART(ユーアンドアート)」では、Yurika Kinoshitaの作品を取り扱っています。この機会にぜひご覧ください。
10月30日(土)と31日(日)に開催予定。ANDARTのサービスをご利用いただいているオーナー限定イベント「WEANDART」にて、Yurikia Kinoshitaがライブペインティングで登場します。ぜひこの機会にイベントをチェックしてみてください!

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取材・文/ 小池タカエ