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横尾ワールドが大炸裂!「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」レポート

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横尾忠則の大規模個展「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」(会期:2021年7月17日〜10月17日)が、東京都現代美術館(東京都江東区)で開幕した。

1960年代から常に第一線で活躍し、日本だけでなく世界を魅了し続けてきたアート界のレジェンド、横尾忠則。本展は、そんな横尾の60年以上にわたる創造の全貌を目の当たりにすることができる特別な内容となっている。

本展は、今年4月まで愛知美術館にて開催されていた同名の展覧会のコンセプトを継ぐかたちで、横尾忠則の総監修のもと出品作品を半分以上入れ替え、さらにスケールアップしたもの。絵画を中心に初期のグラフィック作品を加えた600点以上の作品が展示されている。

2002年の「横尾忠則 森羅万象」以来、実に20年以上ぶりに行われる東京都現代美術館での展覧会とあって、期待も高まる。そんな「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」より、見どころをピックアップしてご紹介したい。

画像引用元:https://www.mot-art-museum.jp/

プレス内覧会に先立って、本展のレクチャーの時間が設けられた。

こちらには横尾忠則、本展の企画監修を務めた前愛知県美術館館長の南雄介氏、さらに学芸担当の藤井亜紀氏が登壇し、トークセッションがスタート。

南雄介は、先般行われた愛知県美術館での横尾の展覧会の様子に触れた上で、本展はさらにそれをスケールアップさせた内容であることを強調。その後、1960年代からグラフィックアーティストとして本格的に活動をスタートしたことに始まり、1980年代の画家宣言という大きな転機を経て、それ以降も画家として躍進し続ける横尾の足跡が、順を追って紹介された。

続いて、横尾忠則にマイクが渡されてからは、昔からずっと模写を続けてきたことや画家になった経緯など、作家としての素顔が垣間見えるようないくつかのエピソードが語られた。

さらに本展についての質問に対しては、「会場の構成は本当に素晴らしい」と言及した上で、「展覧会の中で特に気に入っているのは、昨年2020年以降に描いた作品」とコメントした。ラストは「まずは絵を見ていただくこと。絵が語りかけている様子を感じて、一つ一つの絵と対峙してみて欲しい」という言葉で締め括った。

なお、本プレトークでは横尾のユーモラスでウィットの効いたコメントに会場が湧いた瞬間もいくつかあり、作家本人の人間的魅力が改めて感じられた、和やかなオープニングとなった。

巨匠・ピカソの絵画に衝撃を受けて、本格的に画家の道へ

エントランスに入ってすぐ目を奪われるのは、横尾本人が自身の姿を描いた自画像、そしてその周辺を彩るダイナミックな作品群である。

横尾忠則は、1980年の夏にニューヨーク近代美術館でピカソの大回顧展に訪れたことを機に、グラフィック・デザイナーから画家に転身した。これが有名な「画家宣言」と呼ばれるもので、1980年以降は勢力的に絵画の制作に取り組んだことで知られている。

この第一幕「神話の森へ」のセクションでは、そんな横尾の絵画へのほとばしる情熱が伝わってくる、魅惑の空間。作品点数の多さはもとより、一つひとつの絵に込められた作品の背景や、そこから発せられるメッセージに、じっくりと耳を傾けてみたくなる気分にさせられるだろう。

なお、1980年代は横尾にとって、国際的な新表現主義の動向を同時代的に体感しつつ、自らの絵画を見出そうと試行錯誤を重ねた時期であったという。まさにそんな重要な時期に制作された作品群が集結する「神話の森へ」のセクションでは、純粋な絵画の他に、鏡、電飾、鳥の骨、剥製などの様々な異物をコラージュした作品も展示されている。画家として人生の新境地に立った横尾が、実験的にあらゆる手法を探っていた痕跡が見える作品もまた、必見の内容だ。

横尾芸術を特徴づける「反復」が生かされた、絶妙な“リメイク”

続く「リメイク/リモデル」では、「神話の森へ」の作風とは打って変わって、カラフルでポップな作品群に出会うことができる。

横尾は1966年に絵画による最初の個展を行なった際に、無作法な現代女性(当時の言葉「アプレ(ゲール)娘」)を描いた、挑発的な絵画連作を発表した。

こちらで紹介されているのは「ピンク・ガールズ」と呼ばれるそれらの作品を、横尾自身が2000年代以降に反復、変換し、さらにリメイクしたもの。「反復」は横尾芸術を象徴する重要な特徴の一つであり、作家が実践し続けてきた手法でもある。

そんな横尾の得意とする手法が、幾つかのパターンを通じて鑑賞できる貴重なスペースだった。

グラフィックアーティスト・横尾忠則の才能を目の当たりにできる空間

またこちらに隣接した小部屋では、画家宣言以前、横尾がグラフィックアーティストとして一世を風靡した時代のポスターや、版画、写真とシルクスクリーンを組み合わせた作品などを目にすることができる。

ポップで斬新色使い、サイケデリックな要素が詰まったポスターは、1960年代のカウンターカルチャーからの影響が滲み出ており、この時代の横尾作品が好きなファンにとっては見逃せない内容だ。

1968年にニューヨーク近代美術館で開催された「ワード・アンド・イメージ」展で60年代を代表するポスターに選出された《腰巻お仙》をはじめ、朋友であった三島由紀夫や俳優の高倉健らの肖像が配された舞台芸術のポスターなども鑑賞することができる。

本展は、全編を通じて画家・横尾忠則としての作品によって構成されているが、こちら「越境するグラフィック」のセクションでは、グラフィックやデザイナーとしての才能という別の一面が垣間見えるという意味で、大変貴重なスペースだと言えるだろう。

「鏡張り」ならぬ、全面「滝、滝、滝」の、圧巻のインスタレーション

続く「滝のインスタレーション」は、天井高の鏡張りのスペースに無数の絵葉書が縦横無尽に埋め尽くされた、摩訶不思議な空間。

空間に配置された鏡の反射効果もあって「実際の絵葉書の数は、一体どれくらいあるのだろう」と思わずにいられない、膨大な数の滝の姿が所狭しとひしめいている。

鏡の向こうに手を伸ばせば、その向こうには神秘の滝の世界が広がっているのではないか?そんな幻想的な気持ちにさせられる空間である。

横尾は以前、滝の絵画を制作するための資料として、世界の滝の絵葉書を集めており、その数は当初の意図を超え、13,000枚余りもの数に達したという。

本展では、そんな滝の絵葉書コレクションの集大成ともいうべき、ユニークなインスタレーションとして結晶。「滝」は横尾芸術にも度々登場する重要なモチーフであるが、そうした作品群の創造の源泉を目の当たりにしたような、静かな感動を呼び覚ましてくれる。

真っ赤に彩られた空間は、横尾自身の「死」のイメージ

絵画のみならず空間までも真っ赤に彩られた「死者の書」のセクションでは、タイトルの通り「死」テーマにした作品群によって構成されている。

横尾は、人生のかなり早くから死への関心を抱いていたことで知られている。そんな横尾にとって「赤」という色は、少年時代に郷里の兵庫県西脇市で直に目にした光景を想起させるものだったのだろう。

山の端の彼方の夜空が空襲で真っ赤に染まる様子は、少年の日の横尾の目にどのように映ったであろうか。幼少期の鮮烈な記憶として焼き付けれたであろうその心模様は、燃え上がるような色彩へと昇華されている。

本展の目玉、2020年以降に制作された作品は必見!

本展の最終セクションであり、目玉となる「原郷の森」では、主に2020年以降に制作された近年の作品が集結する。

内覧会のプレトークで「コロナ以降に描いた作品が個人的には最も気に入っている」と横尾自身も語っていたが、こちらで展示されている作品はまさに、その時期に制作されたものばかりだ。

スペースに足を踏み入れてまず驚いたのが、社会に暗いムードが漂っていた時期に描かれた作品とは到底思えない、色彩豊かで明るい、躍動感溢れる作品が圧倒的多数だったことだ。

こちらでは最新の連作のテーマで、中国は唐の時代の高僧である「寒山拾得」を描いた作品をはじめ、伝説的な人物をモチーフとして扱いながらも、ユニークで遊び心溢れる表現に落とし込まれている様を目にすることができる。

近年の横尾の作風の変化の底流にあるのは、「抽象性と具象性の統合」であるというが、イメージが形をとるまさにその瞬間を捉えたような、創作への情熱の発露が垣間見えるような作品群が多いことに気づく。

また、この一連の作品群から感じられる、どこか楽観的で平和的でムードは、横尾忠則が新たな画境に達したことを示す一つの証なのではないだろうか。

まさに展覧会のハイライトにふさわしく、見応えたっぷりの作品をゆったりとしたムードの中で味わうことができたのは、大変幸運だった。

本展のために作られたオリジナルグッズや、トークイベントもお見逃しなく!

なお、展示室併設のショップでは、本展のために作られた横尾本人が人形になったプラッシュをはじめ、マスクや文房具、菓子類まで多彩なアイテムが揃う。

また期間中は、横尾作品の世界に深く関わってきた文化人によるオンラインのトークイベントも行われる予定。詳細は、展覧会公式HPにて。

横尾忠則の活動の集大成とも言える、「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」展。横尾ワールド全開のめくるめく世界を、この機会にぜひ体感していただきたい。

展覧会情報

「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」

展覧会webページ:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/genkyo-tadanoriyokoo/
会場:東京都現代美術館
会期:2021 年 7 月 17 日(土)~ 2021 年 10 月 17 日(日)
時間:10:00 ~ 19:00 ※展示室入場は閉館の30分前まで
休廊日:月曜日(7/26、8/2、8/9、8/30、9/20は開館)、8/10、9/21
※ 新型コロナウイルス感染防止に伴う政府・東京都の方針により、営業時間・会期は前後する可能性がございます。


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取材・文/ 小池タカエ