
11人のアーティストによる “独創” と “共創”。ANB Tokyoの実験的なグループ展「Encounters in Parallel」をレポート。
六本木にあるアートコンプレックス「ANB Tokyo」で、実験的な展覧会が開催されている。同ビルの4つのフロアを使った企画展「Encounters in Parallel」だ。
通常、企画展では「キュレーター」がアーティストの持ち場を ”区分け” し、展示のストーリーや流れを構成することが多い。ところが、この展覧会では、キュレーターはファシリテーターとなり、フロアごとのアーティスト同士の模索によって展示が構成されるという。
通常の展覧会とは異なるアプローチでつくりあげられたグループ展はいったいどのような展示となったのだろうか?4つのフロアに、11人のアーティストの世界観が展開される本展覧会を、フロアごとに紹介する。
7F|長田奈緒、西村有未、山本華、横手太紀
「素材」や「物質感」、「質感」といったキーワードを意識する7Fの展示室。展示室に入ると、がれきや流木といった無機質な物質がうごめき、浮遊する 横手大紀の大型のミクストメディア作品 ≪When the cat’s away, the mice will play≫ と、写真家・山本華の、日常や旅先の風景の空気感を写し取ったような大判写真の数々が目を引く。

横手の作品奥に見える硝子についた汚れのような跡や、山本の名前が印字された旅券、そして壁から写真を剥がしたような跡など、一見、作品とは気づかずに見落としてしまいそうなものは、長田奈緒の作品だ。アクリル板にインクジェットやシルクスクリーンなどの技法によって作られている。

西村有未の絵画は、水彩、油彩、アクリル絵の具にラッカースプレー等、ひとつの画面の中に複数の画材を使い、高い解像度で物語の世界観が描き出されれている。
彫刻、写真、シルクスクリーン、水彩・油彩…と、それぞれに異なる表現方法ながら、ゆるやかなテーマのつながりが見えるフロアだ。
6F|小山泰介、藤倉麻子、吉野もも
6Fは、まるでフロア全体が「庭」のようだ。滝のように流れ落ちてゆく映像を起点に、その流れが床面全体に広がるように曲線を描くテープ。その流れの中に岩が佇み、周囲には極彩色の風景が広がる… 1フロアがひとつのランドスケープを作り出しているようだが、これらの作品は別々のアーティストによって制作されている。

滝のように見える映像は、写真家・小山泰介による映像作品 ≪Daily Records (Cascade)≫ 。 オープンアクセスの定点カメラがバグによって突如、流れおちるような画面をつくりだした偶然性を取り入れた作品だ。
床面のテープは、吉野ももによる作品。 ≪枯山水≫ と名付けられたその作品は、コンクリートの床面を枯山水に見立てたようにも見える。しかしながら、特定の位置から見ると、そのテープで描いた絵が立体的に浮き上がって見える。

そして、床面からも天井からも突き出す、藤倉麻子による極彩色の巨大な擬岩の隣にあるディスプレイの中では、映像作品としてそれらの岩などが動き回り、夢の中のような世界が借景のように展開されていく。

フロア全体が1つの巨大なインスタレーションのようであり、一方では3名のアーティストそれぞれが複数のメディアで作品を展開し、各アーティストの表現の幅広さもあわせて感じられる展示となっている。
4F|小金沢健人、冨安由真
6Fの賑やかな雰囲気とは一転。しんと静まりかえり、照明も落とされた4Fは、まるで「劇場」のようなフロアだ。暗闇から不意に、スポットライトによって古い家具や絵画が照らし出され、宙づりとなったカラフルなネオン管の灯りが浮かび上がる。台詞もなく、人が登場することもないが、鑑賞者は何らかの「物語」を想像してしまうような作品。水が張られた”舞台”とも言える作品 ≪So Much Water So Close to Home≫ は、このフロアを担当する小金沢健人と冨安由真による共作だ。

役目を終えたネオン管に新たな命を吹き込む小金沢健人の作品は、文字をかたどったネオンサインでありながらも、空中に描かれたドローイングのようでもある。また、冨安由真の絵画の中にはこのフロアに登場する廃家具や小金沢のネオンサインも描き込まれる。

目の前にある物体と、水鏡の中の世界、壁に映し出された影の世界、そして絵画の中の世界と、いくつものレイヤーを行き来しながら鑑賞するようなフロアだ。
3F|大岩雄典、砂山太一
3Fは、大判のスクリーンに投影される映像を中心とした1つのインスタレーション作品 ≪悪寒|Chill≫ だ。

物語・演劇・フィクションとの関わりから時空間の美的・政治的性質を思索する美術家・大岩雄典と、建築をはじめとした芸術領域における情報性・物質性を切り口とした制作・設計・企画・批評を手がける砂山太一の2名による共作となる本作。

言葉とともにスクリーンに映し出される映像は、鑑賞者自身のいるANB Tokyoの空間(の模型)であり、「予感症」という架空の病気を軸に展開されるストーリーは、フィクションでありつつも、今の世の中とも重なり合ってきて、カーテンのように薄いスクリーンの中の世界と、鑑賞している自身のいる現実世界の境界が曖昧になってくるような作品だ。
フロアを繋ぐパフォーマンスも。
タイトルの「Encounters in Parallel」は、”表現と表現が「Encounter(遭遇)」することで、それぞれの創作に対して異なるフィードバックが「Parallel(平行)」に生じること” を指しているという。
昨年10月のオープニング展「ENCOUNTERS」では、フロアごとに異なるキュレーターが担当し、26組のアーティストによる個性的な4つのフロアがつくられた。今回はそこからアーティストが絞られ、アーティストら自身によって展示がつくり出されることにより、アーティストごとの「独創性」はより明確になりつつ、「共創」されたフロアごとの空気感の違いも際だっているようだ。
より(Photo-Yukitaka-Amemiya).jpeg)
なお、2021年12月21日(火)には、これらの4つのフロアをつなぐパフォーマンスが行われる予定だ。今年は、音楽、美術、舞台芸術など境界を超えて活躍する山川冬樹をディレクションの軸に迎え、アーティストの小金沢健人、音楽プロデューサーのKenji “Noiz” Nakamura、キュレーターの山峰潤也が意見を交えながら、多彩なゲストと共にビルの垂直構造を生かしたパフォーマンスを作り上げる。こちらも合わせてチェックしたい。
オンラインライブパフォーマンス『Encounters in Parallel』
【展覧会情報】
「Encounters in Parallel」

展覧会URL:https://taa-fdn.org/events/1310/
会場:ANB Tokyo(港区六本木5丁目2-4 )*六本木駅から徒歩3分
会期:2021年11月27日(土)〜12月26日(日)
休館日:月・火曜日
入場料:一般/1000円(WEB事前決済800円)大学生/500円(WEB事前決済400円)/中・高校生 入場無料
※全フロア共通チケット
※価格は全て税込
※学生は受付にて学生証要提示
オンライン事前予約制:https://reserva.be/anbtokyo
[参加作家]
7F|長田奈緒、西村有未、山本華、横手太紀
6F|小山泰介、藤倉麻子、吉野もも
4F|小金沢健人、冨安由真
3F|大岩雄典、砂山太一
企画|山峰潤也、三木茜
3d Illustration | Kai Yoshizawa
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文・写真:ぷらいまり