
魚のフグを起点に新たな発見を得る展示「河豚学校 part1 2021」がCLEAR GALLERY TOKYOで開催中
東京・六本木にある「CLEAR GALLERY TOKYO」でåbäke and LPPLによる、「河豚学校 part1 2021」展が2021年12月4日まで開催中。「河豚(フグ)」を起点とした興味深いコンセプトに、スタイリッシュな作品が展開されている本展のレポートをお届け。

ミュージシャンやデザイナー、ファッションブランドなど世界各国で活動・コラボレーションをする、ロンドンを拠点としたグラフィックデザインスタジオ「åbäke」(アバケもしくはオバケと呼ぶ)は、2018年第4回イスタンブール・デザインビエンナーレ「A School of Schools」で「Fugu Okul」を出展。
「Fugu Okul」は、2003年に本来現れるはずのないフグがトルコ沖で発見されたことから始まる。フグが出現したのは、スエズ運河の建設と地球温暖化という人為的な原因が理由なのではないかと推測されている。さらに調べていくと、フグで有名な山口県下関市が偶然にもイスタンブールと姉妹都市だったのだ。フグをスタート地点として環境問題や地政学、食文化など様々な分野が学べる発見を受けて、フグを教育のカリキュラムのひとつとして捉えるプロジェクトがこの「Fugu Okul」及び「河豚学校」である。

左:《always never school school (Anne Imhof)》(2020年)
右:《Pisces VS Cancer (Grimes)》(2019年)
まず目に入ってくるのは、壁一面に広がる大きくてクールなポスター。ストリートのカルチャーやグラフィックが好きな人は共鳴する部分も多いだろう。この作品はどのようにフグと繋がっているのだろうか。

左:《de uitdaging van flauwheld (Nilüfer Yanya)》(2019年)
右:《Fish on the moon (Julia Jacklin)》(2019年)
日本では、フグは美味しくて高級な魚としての位置にいるが、一方でトルコでは「外来種」として扱われている。そして社会では容易には受け入れてもらえない「グラフィティ」。ある種の害敵として見なされているふたつが結びつけられたのが、これらのグラフィティの作品たちである。

《It’s perfect Barell (Ashley O)》(2020年)
実は、これらのポスターはイスタンブールやロンドンの街から盗んできたもの。でも、ただ盗んできたのではなくåbäkeが尊敬する、もしくは大好きなアーティストのポスターを選び、あえてそのポスターに落書きをするというコンセプトで制作されている。特に下書きなどはせずに思い立ったまま描かれたという落書きは、配色や構図、文字の形、その文字の後ろに覗くポスターの写真とも相性が抜群。さすがグラフィックデザイナーとしてのåbäkeセンスの良さを感じさせる。

左:《Fish with a map (M.I.A.) 》(2019年)
右:《Fugu école (Francis Upritchard) 》(2019年)
コラボレーションはåbäkeの作品作りのテーマのひとつである。フロアの中央にそびえ立つ彫刻作品は、寄稿したテキストとのエクスチェンジとしてデザイナーのマックス・ラムとコラボレートして生まれた彫刻作品。

《Three different sizes in a white van (a text for Max)》(2021年)
それぞれの作品が個性的な存在感を放つなか、やはり目を奪われてしまうのは、つるんと光る丸々とした黒いフグ。本物のフグの剥製を使用し、漆が塗られた作品だ。
ライトや提灯にされたフグのインテリアアイテムなどはよく目にするし、もちろん「魚」としてのフグには馴染みがあるけれど、アーティストの制作にヒントを与えた「アート」としてのフグを見るのは、多くの人にとってはこの展示が初めてになるのではないだろうか。ひとつの物事から社会事象を掘り下げ、作品に転換するアーティストの発想の豊かさには改めて驚かされる。


《Back and forth and back and dignified》(2021年)
フグの隣にある作品はコラボレーションのテーマに加えて、日本からヨーロッパへと「旅をする」というコンセプトで制作されたもの。

《Yoko De Homen Christo (HP)》(2020年)
ビール瓶はスウェーデンにいる日本人のガラス作家、ヨーコ・アンダーソン・ヤマノが吹いたガラスで、その先端にある物体は、ロンドンのテムズ川の砂で鋳造したイギリスのHPソース(日本でいうブルドックソース)の容れ物。ソースはいくつものスパイスが配合されて作られており、それは魚が海を泳いで国境を渡っていくように、スパイスも様々な国からやってきている。アート作品も色んな人に出会ってキーワードを結びつけながら、ひとつの作品になっていることを表現しているのだ。

“フグ”だけでは、全く想像の出来ないアカデミックな内容のコンセプトが裏側に潜む「河豚学校 part1 2021」。シンプルにアートを見に行くのはもちろん、フグが教えてくれるイスタンブール、または世界へと繋がる新たなアプローチ方法を学びに「河豚学校」へ是非足を運んでみて欲しい。いつか、何処か全く違う場所でフグを見た時や食べる時、この展示を思い出して新しいコミュニケーションが生まれるはず。
åbäke & LPPL「河豚学校 Part1 2021」

期間:2021年11月5日〜12月4日
場所:CLEAR GALLERY TOKYO(東京都港区六本木7-18-8岸田ビル2F)
入場料:無料
詳しくはCLEAR GALLERY TOKYOの公式HPからご覧下さい。
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文・写真:千葉ナツミ