
高級ファッションブランドのアート愛が止まらない。その理由を考察してみた
現在、多くの高級ファッションブランドはアートに傾倒し、さまざまなコラボレーションや展覧会を行っている。今やファッションビジネスのブランディングにおいてアートは切っても離せない必須条件となりつつあるが、彼らがアートに求めているものは一体何なのか。その理由を紐解いていく。
まずは、過去に行われた主要高級ファッションブランドのアートコラボレーション事例を見ていこう。
LOUIS VUITTON

画像引用:https://www.tokyoartbeat.com/
2011年に表参道に誕生した「エスパス・ルイ・ヴィトン東京」では、過去にクリスチャン・ボルタンスキー、ヤン・フードンなど現代を代表するアーティストの展示を開催してきた。さらに2021年2月には大阪の心斎橋筋に「エスパス・ルイ・ヴィトン大阪」をオープンし、第1回展覧会ではジョアン・ミッチェルとカール・アンドレの2人のアメリカ人アーティストを紹介した。
この「エスパス・ルイ・ヴィトン」はミュンヘン、ヴェネチア、北京、ソウルにもあり、「エスパス・ルイ・ヴィトン ソウル」では7月18日までANDARTでも取り扱いのあるドイツの現代アーティスト、ゲルハルト・リヒターの作品展「GerhardRichter4900 Colors:Selected Work from the Collection」を開催していた。
GUCCI

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GUCCIは2016年に世界的に活躍する日本人アーティスト「真鍋大度」「塩田千春」「Mr.」などとコラボレーションし、「GUCCI 4 ROOMS」というインスタレーション作品の展覧会を行った。また、2020年にはソウルにある「大林(デリム)美術館」で開催された「No Space, Just A Place」展ではサポートを務めた。また、この展覧会はコロナ禍ということもあり、期間中は自宅からも楽しめるオンラインの360°バーチャルビューもオープンしていた。
Dior

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Diorは2019年のメンズコレクションにて、KAWSとコラボレーションし、Diorのアイコンである蜂のキャラクター「BEE」の目がばつ印になったモチーフを使ったアイテムを多数販売した。また、同年に本ブランドのアイコンバッグである「レディ ディオール」を11名の世界中のアーティストとコラボレーションし、全く異なる印象のバッグを制作した。その中には日本の彫刻家である名和晃平の名前もあった。
2021年メンズコレクションではアメリカジナーティストの「ケニー・シャーフ」とのコラボレーションも発表している。
Hermès

銀座メゾンエルメスの8階にあるフォーラムでは、年に4回国内外の現代アーティストによる展覧会が行われている。そこで2011年に展示を行った山口晃は、2020年Hermèsとコラボレーションし、スカーフを制作。現代浮世絵師である山口の古風な絵と、歴史あるHermèsのスカーフのコラボレーションは稀有で存在感のある作品となった。このコラボレーションからも、ブランドのイメージを超越した作品を制作することさえ厭わない、Hermèsの現代アートに対するリスペクトを感じる。
COACH

COACHは、2020年秋冬コレクションにて同じNY発のアーティストとして「ジャン=ミシェル・バスキア」とのコラボレーションを実現。バスキアの代表的なモチーフを大胆に配置したバッグやトレンチコートなどを制作した。2018年には「シグネチャー・コラボレーション」と題したコレクションを発表、多くのアーティストとコラボレーションし、日本からはLyなど8名のアーティストとの作品を発表した。
なぜアートとファッションはコラボレーションするのか

画像引用:https://www.fashion-press.net/
このように、近年高級ファッションブランドの現代アートに対する愛が度々話題になっている。もはや彼らにとって現代アーティストは良いビジネスパートナーであり、双方のブランディングにおいても非常に重要な意味を持っている。現代アーティストにとって高級ブランドとコラボレーションをすることは、全世界で販売されているブランドの力を利用して自らの知名度を上げること、服という日常に欠かせない媒体を通して、よくわからないとされがちなアートに目を向かせること、コラボレーションによって普段より大規模な制作ができるなどのメリットがある。
また、高級ブランドにとってコラボレーションで得られるメリットは、展覧会やアートコラボレーションがメディアなどで話題になることで、ブランドへの関心が高まること、ファッション業界はシーズンごとにアイテムがこぞって入れ替わるため、コラボレーションすることにより新鮮さを強調できること、アート作品を通してブランドのイメージやコンセプトを構築できる点などがある。近年ではデザイナーとアーティストの境界がなくなってきており、ブランドが発表する服は、もはやアート作品としても捉えられている。

元来ファッションとアートは視覚芸術の観点において密接に関係しながらも、確かな隔たりがあった。それは両者のマーケットの違いからくるものだ。アート作品は概ねオークションの落札価格、そして誰が評価し所有しているかでその価値が決まる。一方ファッション業界は、「流行」を作る先駆者となり、コレクションが発表されるごとに全世界に拡散され、新しい顧客を広めていくことに重きを置いている。
しかし、アートコレクターは往々にして高級ファッションブランドの顧客でもあるため、資産家や著名人がアートコラボレーションしたファッションに身を包むことは、双方の知名度を上げるためにもWin-Winな関係性であると言えよう。
良いこと尽くしのような気もするアート×高級ファッションブランドのコラボレーション。この盛り上がりが一過性のものにすぎないのか、ファッション業界がアート作品に頼りっきりになってしまうのではないだろうか、アート作品が「流行」に消費され軽視されるのではないだろうか…など様々な懸念はあるものの、消費者にとっては好きなアート作品を良質な服で身に纏えるのは嬉しい限りである。今後の盛り上がりにも注視していきたい。
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参考
https://www.tokyoartbeat.com/tablog/entries.ja/2021/04/art_and_fashion.html