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日本人コレクターが愛する《KIKU》の魅力!ウォーホルが見ていた日本文化とは。

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KIKUの制作裏話

アンディ・ウォーホル《KIKU1》
画像引用:https://livedoor.blogimg.jp/tokinowasuremono/

皆さんはこの作品をご存知だろうか。アンディ・ウォーホルの《KIKU》シリーズ。題名の通り菊の花をモチーフにして描かれた作品だ。ウォーホルのよく知られた代表作のように、人物を描いたポートレートでもアメリカの資本主義を象徴するようなキャンベルスープ缶のような商品モチーフでもない。この作品を一目見て、ウォーホルの作品だとわかる人の方が少ないのではないだろうか。

アンディ・ウォーホルの《KIKU》シリーズは、1980年代のバブル期の東京と、NYをまたいで制作された。当時、日本ではウォーホルの作品はインテリアアート、ポスターなどの印象がつけられ、ウォーホルの名前は誰しもが知っているが、美術品としては「売れない」というレッテルが貼られているアーティストだった。

そこに目をつけた「現代版画センター」が版元となり、制作されたのが《KIKU》である。現代版画センターは、1974年、現在の東京・駒込の画廊「ときの忘れもの」のディレクターを務める綿貫不二夫が設立。会員制による共同版元として、版画制作、オークションや展覧会の企画、出版物の刊行を行なっていた(現在は閉業)。

この作品はウォーホルと、彼のスタジオである「ファクトリー」が絵柄や色まで事細かに指示したものを、東京の「現代版画センター」にて日本の職人が刷るという、非常に珍しい工程で制作された。1983年は、日本のシルクスクリーンの技術が向上してきた時期でもあり、高品質な作品として出来上がった。顔料のかすれや、グラデーションなど色ののせ方にもこだわりを感じ取れ、菊の輪郭を描いた繊細な線と大胆な配色の対比が見事。まさに日本の職人技である。

ちなみに日本と往復して制作された作品は《KIKU》と《LOVE》の2作品のみ。もともとこの2作品は、1983年にパルコPART3で綿貫氏がメインスポンサーとなり開催された「ウォーホル全国展」を契機に制作された。《LOVE》の版元は当時のビニ本を制作する会社で、「思いっきり危ないポルノ」を作ることを条件として制作されたのだという。モチーフもさることながら、色使いやコンセプトまで同時期に全く違った2作品が出来上がった。

アンディ・ウォーホル《LOVE1》
画像引用:https://livedoor.blogimg.jp/tokinowasuremono/

ウォーホルと花

ウォーホルの作品といえば、マリリン・モンローやキャンベルスープ缶などが有名だが、花をモチーフにした作品も多数残している。生前「I always notice flowers.(私はいつも花に気付いている)」と話していたほど彼自身花が好きだったようだ。

花をモチーフにした作品は、彼の代表的な作品の一つである《Flowers》シリーズの他にも、1974年の大丸個展に合わせて制作された《いけばな》シリーズや、1980年代初頭に《ポインセチア》シリーズなどがある。

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アンディ・ウォーホル《Flowers》
画像引用:https://curio-jpn.com/

《KIKU》は当初日本の花をモチーフにすることを条件に作られ、ウォーホルに「桜」と「菊」の2種類の花の写真を見せたところ、自身で菊の花をモチーフに選んだ。この《KIKU》シリーズはウォーホルの代表作である《Flowers》シリーズとは直接関係のないものだが、同じ花モチーフであることから、「もう一つの《Flowers》作品」として関連づけられ評価されている。

《Flowers》では、ハイビスカスの花を極限まで平面的に描き、一つ一つの花の個性をなくして記号のように描いたが、《KIKU》や《ポインセチア》は花弁やおしべを細かい線で丁寧に描き、それぞれ異なった花の表情を見せている。同じ花モチーフの作品でも、作者が変わったのかと思うほどを作品の印象がガラッと変わっているのもおもしろい。

日本にとっての菊、海外にとっての菊

《KIKU》シリーズのモチーフとなっている菊の花は、日本のパスポートにも印刷されていることからもわかるように、日本人にとって特別な意味を持つ花である。菊の花は古くから日本の皇室の象徴であり、長寿、若返り、そして秋の季節を表している。ウォーホルも菊の花をモチーフとして選ぶ際、日本は天皇の国であり、菊の花がその象徴であることを意識していたそうだ。ウォーホルの作品の中で、菊の絵のシルエットは一貫して優雅で上品だが、青やピンクなど様々な色で刷られているので、色によってそれぞれ印象が全く違うのを楽しめるのはプリント作品ならではだ。

一方、海外では菊の花は一般的な花の一つに過ぎないことが多い。日本では仏花として知られている菊の花だが、アメリカでは「愛」や「陽気さ」を表すプレゼント用の花として使われたり、オーストラリアでは母の日に贈られたりもする。

本作は制作背景、並びにモチーフの持つイメージも相待って日本人コレクターに人気のようだ。ウォーホルの代表作とは少し印象が異なるが、それもまた彼の違った味わいとして楽しむのもいいだろう。まさに知る人ぞ知る名作。

ANDARTでは《KIKU (F&S II.308)》を取り扱っている。今なら1枠¥10,000からこの作品のオーナー権を購入することができるので、ぜひチェックしていただきたい。

参考

http://blog.livedoor.jp/tokinowasuremono/archives/51440180.html
https://news.artnet.com/buyers-guide/spotlight-andy-warhol-chrysanthemum-prints-1991310