
YOUANDART アーティスト・KATHMIアトリエ訪問インタビュー《後編》
前回は、KATHMIさんのアトリエでの創作活動にまつわるお話をお伺いいたしました。今回はそれを踏まえて、そもそもアーティストになったきっかけや影響を受けた作品など、本人の魅力により一歩迫るようなお話を伺いました。さらに、今関心のあるテーマについても真剣に語って下さいました。それではインタビュー後編もぜひお楽しみ下さい。

KATHMIさんがアーティストになったきっかけを教えて下さい。
小さい頃から絵を描くのは好きで、色々描いていました。でもその一方で周りからは、「絵では食べていけないよ」と言われることも多く、そうなると自分が描いたものを見せるのも恥ずかしくて、中学生の頃は隠れながら絵を描いていた記憶があります。東京ならまだしも、地方都市の福岡でその世界に生きている人は珍しく、周りにもほとんどいなかったので、そういう風に見られてしまったんでしょうね。
その後、高校は進学校に入ったものの、勉強に躓いてしまって…。その頃もやっぱり絵が好きで、夜中に夢中になって描いていたのですが、昼間は眠くて起きていられなくて、授業中に寝てしまう、ということがよくあったんです。完全に昼夜逆転の生活で、そういう負のサイクルにはまってしまったので、どんどん勉強が疎かになっていきました。ここで器用な人だったら勉強も絵も上手く両立できたと思うんですけど、多分私は、不器用だったんでしょうね。両方はできませんでした。
ただ、そうやって絵を描き続けているうちに、ある時、仕事になり始めたんです。そこで、「これ、もしかしたらいけるかもしれない!」と思って、そこからは一気に引きずり込まれるように絵の方向に舵を切ることになりました。
えっ、高校生からお仕事ですか?
はい。仕事といっても、お小遣い稼ぎ程度だったんですけど。当時はブログが流行っていた時期でもあったので、自分が描いた作品を軽い気持ちでブログにアップしていたんです。そうしたら、それをたまたま見つけて下さった方から声が掛かって仕事がくるようになって。当時はゲームに登場するアイテムを考えたりキャラクター案を考えたりする仕事が多かったんですけど、結構色々なパターンの絵を描いたり、デザインを提供たりしながら稼いでいました。
ちなみにこれは余談ですが、その時仕事を下さった方は、まさか高校生だとは思っていなかったらしく、後からびっくりされました(笑)。
ただその後も、スムーズに事が進んだわけではなく、美大に行きたいと思い母に相談した時、きっぱりと反対されてしまったんですね。美術系の大学はお金もかかりますし、東京に女の子一人を送り出すのは、きっと心許なかったのだと思います。
でも結果的に、大学の学費免除が下りることになって、無事美大に行けることになりました。その頃も相変わらず仕事もたくさん受けていて、東京の仕事は地方よりも割がいいということがわかったので、これはいけるんじゃないかと(笑)。そう思えたことも大きくて、心を決めて21歳の時に思い切って上京することになりました。
それはすごいですね。10代の頃からすでに仕事もされていたのですね。そういえばプロフィールに、ストリートアートから影響を受けているという風に書かれていましたが、その辺りについてもお聞かせいただけますか。
私、小学生位の頃から、パソコンで海外のアート関連のサイトをチェックして、めっちゃ色々見ていたんですよ。英語がわからないなりにネットサーフィンしていて、その時にびっくりするようなかっこいいアートやデザインにたくさん出会うことができたんです。その時に、「言葉がわからなくても、こんなにも心に迫ってくるアートってすごいな。世界にはこんなに素晴らしいアートがあるんだな!」と、ものすごく感動したことを覚えています。

福岡の地方で生まれ育ったので、普通に暮らしていたらこういう情報には出会えなかったと思うのですが、私の場合はネットに親しんでいたので、そのおかげでたくさんの素晴らしいアートに巡り合うことができました。高校生の時にブログで発信したことが仕事につながったことも含め、ものすごくウェブの恩恵は受けているなと自分でも思います。
そうそう。そうやってネットサーフィンをしていた中で、ストリートアートだとバンクシー、その他にも、時代は違いますが、ミュシャやダミアン・ハーストといった著名な画家やアーティストの存在を知ることができたんです。


やはり、海外からの影響もあったんですね。
そうですね。一番影響を受けたのは、バンクシーとミュシャです。特にバンクシーには衝撃を受けて、その流れで、NYのストリートアートに興味を持つようになりました。そのうち自分でも真似するようになって、道端では描かなかったのですが、家で真似をしてパソコン上で、デジタルで描いてみたりとかしていました。私は根っからのストリートアーティストではないのですが、やはりメッセージ性が強いアートでもあるので、そういう意味でもすごく面白いなと思って見ています。
アートは色々な人の色々な人生を知ることができたり、そのルーツや背景を知れば知るほど楽しくなって、自然と教養も深まるところがいいですよね。それからアートを見ることで、色々な発見があるのも面白いなと思います。この絵に描かれた人物はなぜこんなにもしかめっ面をしているんだろうとか、逆にこっちはすごく幸せそうに見えるなぁとか。言葉が通じなくても描いた人の思いがわかったり、自然と伝わる部分もあると思うので、そういうところもアートならではの醍醐味かなと思います。
ストリートアートに関しては、誰でもアクセスできるところがいいですよね。

特に私の場合、地方の郊外に住んでいて、思い立ってもすぐに美術館に行けるような環境にはいなかったので、そういう意味でもすごく魅力的に思えたんだと思います。普段、身近にアートに触れられるわけではないからこそ、街中にあって、いつでも誰でも見ることができる、好きな時に写真を撮ったりすることのできるストリートアートっていいなぁと。そういうところが、今でもすごく好きです。

そういえば、ストリートアートは社会問題を表していたりもすると思うのですが、KATHMIさんの作品には、何かそのようなメッセージは込められているのでしょうか?
いえ、今はまだそういうことはなくて。ただ、表現したいテーマは常にあるので、いつかカタチにできたらと思っています。私は小さい頃から結構冷静に世の中を見ている子供で、世の中の格差や貧困、いじめを近くで見てきたこともあって、そういう中で感じてきたことはやはり色々とあります。人として強く優しく生きるためには、どうすればいいのか。自分に芯をもって歩んでいるような素晴らしい人間になるためには、一体何が必要なのか。そういうことがテーマとしていつも心の中にあるので、然るべきタイミングが来たら、表現したいと思っています。

それは楽しみですね。では、作品作りをする上で大切にしていることを教えて下さい。
私の作品は、業界の中でいうとやや商業寄りに見えるのか、人から純粋なアートではない、と言われることもよくあるんです。ただ私は純粋なアートも好きですし、そもそもアートは自分の心の素直なところから出てくるものだという思いがあるので、作品作りをする時にはそういう姿勢をいつも大切にしています。
今の日本の中で、どうしたらより多くの人にアートに興味を持ってもらえるだろう?ということは常に課題で、いつもすごく考えていますね。そういう中でANDARTさんで扱っていただいている作品は、自分なりに考え抜いて、表現も噛み砕いてなるべくわかりやすくして、一人でも多くの人にアートに興味を持ってもらえるようなカタチに落とし込んでいるので、そういうことが伝わったらいいなと思っています。もちろん、もっと考える余地はあるのかもしれませんが、純粋に出てきたものであることに変わりはないので。
KATHMIさんのお話を伺っていると、すごく考えていらっしゃって、業界全体のことも俯瞰して見ている様子が伝わってきます。昔から海外のアート関連の情報に触れてきたことも大きかったのかもしれませんね。
そうですね。小さい頃からパソコンに触れていて、インターネットを通じて海外のあらゆる情報に触れることができたことは、今振り返れば大きかったと思います。その他にも、本が好きで美術史も勉強していたので、そういう中で、自然と業界の全体像に目が向くようになったということもあるかも知れません。
そういう中で今、何か気になっていることはありますか?
そうですね。色々と思うところはあるんですけど、業界全体が新しく生まれ変わる方向にいったらいいなと感じることはよくありますね。例えば今って、昔とは違うタイプの素晴らしいアーティストもいっぱいいるのに、なかなか知られるきっかけがなかったり、埋もれてしまうがゆえに評価されないということも結構多いと思うんです。
そういう意味では、アーティストはアーティスト同士の横の繋がりだけではなくて、もっと色んな人と積極的に繋がる機会を増やすのがいいんじゃないかなと思います。同時に、そういう場を作っていくことも大事ですよね。
これはアート界に限らず、どの世界にも通じることだと思うのですが、仕事として成り立つためには、作る人がいるだけではダメで、例えば作る人とお客さんを繋げる人であったり、市場に下ろす人であったり、作品を評価する批評家や評論家であったり、色々な人が繋がり合っていく必要があると思っています。そう考えると、今のアート業界は構造的にもアーティストだけがいっぱいいる状態になっているなと。それ自体はももちろん良いことだと思うのですが、一方で、外に向けてその価値を伝えたり繋げたりする人が極端に少ない状況で課題でもあるので、そこに働きかける人なり、ちゃんとしたシステムがあったらいいな、と思いますね。
それから最近だと、ジェンダーのテーマも個人的に気になっています。アート界のジェンダーバランスのことは昨今トピックとして取り上げられるようになってきたので、良い傾向だと思うのですが、歴史的に見ると、女性アーティストはなかなか評価されてこなかったんですよね。
全体の人口で見ると、女性アーティストは男性よりも明らかに数が多いはずなのに、なぜか女性アーティストの第一人者はものすごく少ない。そういう状況を俯瞰して見た時に、なぜだろうと冷静に思うことはありますね。ただそういうことも歴史を探っていけば自ずと見えてくる部分もあるので、そういうところに対して、何かメッセージを投げかけることができたらと思っています。
そういう意味では、KATHMIさんが先駆者となって、これからさらに活躍されていくことを期待しています!
ありがとうございます。ただ希望はあって、日本人は元々持ってる美意識を忘れているだけだと私は思っているんです。そのことを今は単に忘れてしまっているだけで、遺伝子には絶対に入っているし、記憶しているはずだと。
日本にも昔は、着物の柄だったり、掛け軸や障子と、粋で本当に美しい世界を愛でる文化がありましたよね。だとしたら、元々そういう世界に通じる美意識もすでに備わっているはずで、後はどうしたらそれを呼び覚ますことができるのか、そういう世界観を今の時代に蘇らせるためにはどうしたら生活の中に、人々の心の中に自然と溶け込ませることができるのか、ということが鍵になってくると思うんです。

確かにそうかも知れないですね。今後やってみたいことや将来の展望があれば教えて下さい。
直近のことでいうと、もっと海外に出て行きたいですね。これまでにも年に2回位はアメリカをはじめ、オーストラリア、東南アジア、中国といった国を訪れるようにはしていたのですが、最近はなかなか行けていないので、状況が落ち着いたらすぐにでも行きたいです。特にNYはストリートアート、ウォールアートも良いものが沢山ありますし、人種のるつぼで色々な文化がごちゃ混ぜになっているところやエネルギッシュに溢れているところも好きなので、早くあの空気に触れたいです!

それでは最後に、メッセージを一言お願いします。
アートは様々なメッセージを伝えることのできるものなので、私はそういう中で、人と人とを結ぶ対話のきっかけになったり、みんなが幸せに暮らすための表現をしていきたいと思っています。一つのアートには色々な解釈や捉え方があって、良い面ばかりでなくマイナスな影響を与えてしまうことも時にあります。ただ、私はそういうものはあまり得意ではないので、そうではない世界を目指していきたいですね。まだまだやりたいことやチャレンジしたいこと、アートを通じて伝えたいことが沢山あるので、これからもどんどん作って表現していきたいと思います。

KATHMIさん、ありがとうございました!
YOUANDART作品情報
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取材・文/小池タカエ