
YOUANDART アーティスト ・塩見真由インタビュー《後編》
前回のインタビューでは、塩見真由が育ってきた環境やこれまで影響を受けたアーティストについてのお話をお伺いしました。今回はそれを踏まえて、YOUANDARTでも販売がスタートした、“PUNKUMA”(パンクマ)の最新作について、お話を伺っていきます。最新作のシリーズには一体、どんな思いが込められているのでしょうか?
それではインタビューの後編も、ぜひお楽しみください。
ANDART編集部:
パンクロックからアメリカのポップカルチャー、舟越桂さんのような硬派な彫刻から奈良美智さんまで、本当に様々なアーティストやカルチャーの影響を受けてきたことがわかり、とても興味深いお話を前回聞かせていただきました。そこで今回は早速、新作についてのお話を伺いたいと思います。今回の作品は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか?
塩見真由:
もともと私は、「既製品の神話」というコンセプトをベースに作品づくりをしています。多くの人が信じている真実は嘘、間違っていることが正しいというような。神話は架空の物語かもしれないけれど真実かもしれない、一方では実際にはないつくり話=ミス、つまり大ボラ、嘘という捉え方もできると思うんです。そのシリーズから、このクマのモチーフも発展させています。その中で、基本的に取り上げているモチーフが人間の身の回りにあるものーたとえばテディベア、ぬいぐるみなどの既製品を“第二の自然”として捉えて創作活動をしていて、そういう中で、この“PUNKUMA”(パンクマ)作品も生まれました。

ANDART編集部:
見た目はもちろん、“PUNKUMA”(パンクマ)という名前も、インパクトがありますね。その命名はやはり…。
塩見真由:
はい!パンクロックカルチャーと、クマを合体させてできたモチーフです。パンクのクマで、“PUNKUMA”。そのまんま(笑)。ちなみにこちらはクマはクマでも近年制作し始めたばかりのモチーフで。一応アイデアというか、原型のようなものはあったんですけど、もともとこのモチーフ自体、作品として世に出そうとは思っていなかったんです。ドローイングを日々いろいろと描いていて、面白いからそこに吹き出しをつけたりして、気の向くまま遊び感覚でつくっていたものでした。でもある時、それをたまたま見てしまった人が「これ、すごくいい!」と言ってくれて。それを聞いた時に、自分でも「あれ、意外といいかも?」と、作品にしてしまったという感じです(笑)。
個人的には、パンクとクマって、アート的にはどうなの!?みたいに思ったこともあったんですけど、その時に18世紀に活躍した印象派の、オーギュスト・ルノワールの言葉がふと浮かんで。
「芸術が愛らしいものであってなぜいけないのか。世の中は不愉快なことだらけじゃないか」というよう言葉があったな〜、ということを思い出したんです。「芸術は愛らしいものであってもいい」と巨匠もOKを残してくれているし、やってみようとつくり始めて、今に至ります。
ANDART編集部:
素敵な言葉ですね。では、作品の詳細についてももう少し詳しくお聞かせいただけますか?
塩見真由:
今回の作品で、額に入ったようなクマは、絵画と彫刻の要素を組み合わせたハイブリッドな図画工作…のような作品です。私はレリーフの彫刻もつくるのですが、レリーフ彫刻は、エジプトやギリシャ、古代の彫刻によく見られる技法で、掘り込んだものが平面状で沈んでいたり浮き上がっている彫刻のことをいうんですけど、この作品も半分だけ飛び出しているように見せて、さらに平らにもっていって、図画工作のようなかたちで表現しています。この作品では木枠を使っているんですけど、これは私が油絵を描いていた20年前に使っていたものなんです。当時、私の絵を支持してくれていた木枠自体を作品のメインの素材として使いたいなと、温めていた作品のアイデアとぴったりきたので制作しました。“PUNKUMA”を描いた油絵具を使っている部分は、長い時間をかけて色が退けてきた時にうまくいけば見えてくるかもしれない、という変化の仕掛けを入れています。
いろいろな要素を組み合わせる中で、いかにシンプルに見せるか?というところには、こだわりましたが、見せ方も技法もシンプルに削ぎ落として行くことは難しく、その辺りはなかなか大変で骨の折れる作業でしたね。

ANDART編集部:
彫刻と絵画、さらに図工と、一つの作品の中にもいろいろな要素が組み合わさっていて、すごく塩見さんらしいといいますか、ユニークで個性的な作品ですよね。カルチャーの要素もものすごく感じますし。そこにはきっと、深いメッセージもあるのではないかと思っています。その中で一つ気になったのが、PUNKUMAの下の方に虹のようなものがかかっていると思うのですが、ここには何か意味が込められているのでしょうか。
塩見真由:
はい。この作品では実は、「逆光」と「逆行」ということをテーマにしています。多くの方が逆光という言葉を聞いてイメージするのはおそらく真っ暗ということだと思うんですね。それから逆行という言葉も同様に、元に戻っていくというか、どこかモノクロのような世界に向かっていくイメージがあると思っていて。ただ黒という色では全色含まれているんですよね。だから“終わりの始まり”みたいなイメージも、実はあったりします。私の作品には、この他にも虹が登場するんですけど、大きなカップが倒れて中からジュースがこぼれてしまっても、それが虹色だったらがっかりしない、空の虹が映ったのかもしれない!どうしても楽しい気持ちを起こさせてくれるイメージのきっかけとして、今回の作品にも入れました。
ANDART編集部:
確かに、そういう意味では黒ってものすごく深い色で、どこか哲学的なイメージもありますよね。シンプルに見えて明暗やグラデーション、そういういろいろな要素を一つにまとめているような。ちなみに、個人的に「虹」は最近のジェンダーの話ともつながっているのかなと、ふと思ったのですが。そういうテーマとも、何かリンクする部分もあるのでしょうか。

塩見真由:
そうですね。そういうことも考えていて、テーマの一つとしてあります。一昨年前にアメリカに行った時に、ジャズのクラブがいっぱいある街を歩いていた時にレインボーの旗を上げているお家がたくさんある、という光景を目にしたんです。アメリカではジェンダーの話題は、日本よりももっと盛んで身近なテーマでもあるので、そうやって市民も表現していると思うんですけど。私自身賛成しているので、この作品のコアなメッセージというわけではないけれど、そういう意味もありますね。
そうそう。この作品もそうですし、アートには色々なことを考えることができる要素があると思っていて。なので、先ほどの黒という色の意味だったり、既製品としてのクマのぬいぐるみ、ということだったり、パンクだったり、ジェンダーだったり。私自身が作品に託しているテーマというのはあるんですけど、見てくださる方、手にとってくださる方にとっては、人それぞれ色々な受け止め方があると思っているので、それは個々の自由でそれが面白いと思ってるんです。私自身、たとえばクマは創作の中での中心的なモチーフとしてあって、パンクもまた、自分の人生とは切り離せない存在なので、今回はそういうことをたまたまテーマにしていますが、それは私の中ではあくまで表現方法の一つであって、全てではない。そういう思いが常にあるので、ぜひこれを機に、他の作品にもいろいろと触れていただけたら嬉しいです。
ANDART編集部:
そうですよね。塩見さんの作品には他にもアリスをモチーフにした作品であったり、アルミ箔を使った作品などいろいろありますし、素材も表現方法も本当に多彩ですよね。そういえばPUNKUMAつながりで気になっていた作品が一つあるのですが、最近作品がイギリスのアートマガジンに掲載されたのだそうですね。インスタで拝見して、すごくインパクトがありました。かっこよさの中にも、なんかほっと和むイメージがありました。PUNKUMAが横になっている姿、すごくいいですよね!


塩見真由:
ありがとうございます。あの横になっている姿は、実は「涅槃図」を表しているんですよ。仏教の、お釈迦様の涅槃図ですね。これは作品についての文章の一部なのですが「無もなく空もなく、ただそこにある。良い時も悪い時も私たちは、ただ存在しています」と書いてあります。

ANDART編集部:
それは深い言葉ですね。何かの引用でしょうか?インスタを拝見した時も、文章が素晴らしいというような書き込みを目にして、私も知りたいと思っていました。
塩見真由:
これは仏教の言葉で、ずっと心に残っていたので、いいなと思って。「無もなく、空もなく、ただそこにある」、深いですよね。でもこれって彫刻にも通じる部分があると思っています。見る方にとっては実際に目に入ってくるのって、寝転んでるクマの彫刻じゃないですか(笑)。
仏教の言葉と哲学的な壮大なコンセプトとあの見た目の間抜けな感じのギャップが、なんかいいなと思って。だからそういうある種の意外性だったりギャップみたいなものを、楽しんでもらえたらいいなと思ってます。それから余談になりますが、今回この作品をイギリスのアートマガジンで取り上げていただいたことで、イギリスではひょっとして私の作品が受け入れてもらいやすいのかも知れないな、とも思いました。

ANDART編集部:
確かに!イギリスといえばまさにど真ん中、パンクロックの聖地ですもんね。そういう意味では、とても相性が良さそうです。塩見さんの作品はすでに、イギリスやシンガポールにもコレクションがあるとお聞きしてますけど、日本だけでなくこれから海外の方にも、さらに広がっていくことを期待しています。では最後に、読者の方に一言、メッセージをお願いできますか。
塩見真由:
今回の作品のモチーフである “PUNKUMA”は、自分の創作活動の中で色々な表現があるうちの一つで、自分の考えをまとめてくれる指導者のような存在です。そういう意味では、全体のまとめ役だしアバターでもあって、もっと言えば、私自身かもしれない。とはいえ、これは私が音楽を通しての原体験がとくに大きいのかもしれないですけど、音楽もアートも、作り手だけでは絶対に成り立たないと。そういう思いがいつも強くあります。多くの場合、ミュージシャンでしたらお客さんはもちろん、音響さんや照明さん、たくさんの方の力やサポートがあって初めて一つの空間やショーが出来上がりますよね。それと同じようにアートも、作り手としての私だけが主役というわけではなくて、鑑賞者もまた主役であり、とても大切な、アートにとってなくてはならない存在であると考えています。だから一見、主役でない人も主役です。そんな想いを込めて今回もつくりました。ぜひこの作品を、皆さん自身も参加する気持ちで、一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
ありがとうございました!
YOUANDART アーティスト ・塩見真由インタビュー《前編》はこちら
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取材・文/小池タカエ