
ANDARTのArt Divisionセールス担当者に聞く、おすすめのアーティストやアートの楽しみ方【特別企画第3弾】
日本初、アート作品の共同保有プラットフォーム「ANDART」や、手に届く価格から本格アート作品を提供するオンラインストア「YOUANDART」を通して、ANDARTは数あるアーティストや作品の中から選りすぐりを日々お届けしています。
そんなANDARTで働くメンバーは、どんなアーティストに注目しているのでしょうか? ANDARTで働くメンバーに、おすすめのアーティストやアートの楽しみ方など、生の声を聞く企画の第3弾。今回は、共同保有作品の仕入れやプライベートディールでのお客様同士のマッチングなど、ANDARTの事業のコアとなる部分を担当しているFさんにお話をお伺いしました。
――アートの中で、特に好きな分野を教えてください。
特定のジャンルというより、社会的なテーマを扱っているようなコンセプチュアルなアートが好きです。大学時代に社会学を専攻していたこともあって、作品から社会的な背景が見えてきたり思想が浮かび上がってくるようなアートにいつも注目しています。その後、社会に出てから美術を本格的に学びたいと思い、美術大学でアートを専攻しました。専門領域の美術の知識が体系的に深まったことで、同じテーマでも、より深い視点でアートを楽しめるようになったと思います。
――もともと美術に興味をもつようになったきっかけは?
本格的にアートを勉強し始めたのは大学卒業後になりますが、一番最初に現代アートに興味を持ったきっかけは、学生の時に原美術館(北品川の原美術館は、2021年1月に閉館した)でオラファー・エリアソンの作品を初めて目にしたことでしょうか。
オラファー・エリアソンは光、水、霧といった自然現象をインスタレーションで表現しているデンマークのアーティストで、表現を通して地球環境に対するメッセージを投げかけている作家です。実際の活動もラボのような形で研究室を作って、今世の中でも大きな課題になっている「サステナビリティ」をテーマに、古い素材を使って全く新しいかたちに蘇らせるなど、深く考えさせられる作品を多く制作されています。作品に触れることで、心の奥に眠っていた様々な思いや感情が静かに揺さぶられるような、いわゆる「装置としてのアート」を表現されているような方ですね。

私は出身が地方なので、それまで見てきた美術はクラシカルな宗教画や西洋絵画が中心でした。もちろんそれはそれで素晴らしいのですが、そうしたバックグラウンドもあったので、初めてオラファーの作品に触れた時は「これも美術なの!?」と、すごく新鮮に感じたことを今でも覚えています。
それから2005年頃に、森美術館などを中心に、六本木エリアで現代アートが一気に盛り上がった時期がありました。ちょうど雑誌でも「現代アート特集」が組まれるようになったりして。当時はそういうブームも重なり、日常的にアートに触れる機会が増えていく中で、どんどん現代アートの面白さに引きこまれていったのだと思います。
――リアルタイムで現代アートの盛り上がった時期を体感されているんですね。
さて少し戻りますが、先ほど社会的なテーマを扱っている作家がお好きとおっしゃっていましたが、オラファー・エリアソンの他にも好きなアーティストはいらっしゃいますか?
そうですね。その点でいうと、ヨーガン・レールはすごく好きなアーティストの一人です。もともとデザイナーとしても活躍されていた方なのですが、とても才能豊かな作家さんでアートの世界も本当に素晴らしくて。
そのヨーガン・レールが当時の移住先であった石垣島にプラスチックゴミがたくさん流れ着く光景を目にして、とても心を痛めてしまったそうなんです。でも彼はそこでは終わらなかった…。その光景を目にして以来、毎日自分でゴミを拾いに行くようになって、海岸に打ち寄せられた無数のプラスチックゴミから最終的にはすごくきれいなランプの作品をつくり上げたんですね。

以前、ヨーガン・レールの作品を東京都現代美術館で見る機会があったのですが、それはもう、本当に美しい世界観です。プラスチックゴミの問題は、地球規模で考えて解決しなければならない課題だと思うのですが、ヨーガンが素晴らしいのは、ただ事が起きていることを提示するだけでなく、アートならではの美しい表現に昇華させて問題提起をしているということ。これはコンセプチャルアートに限らずだと思うのですが、アートにはそういう力があると思います。
それから日本人だと、米田智子さんの作品が好きですね。彼女は写真家ですが、フィルムには映らない歴史や思想をテーマに作品にされている方で、写真そのものも素敵ですが、同時に背景的な部分にも惹かれます。土地やもの自体に宿るもの、それから戦争の起きた場所で今では美しい風景になっている場所を撮影されていて、見るたびに美しい作品だなと、いつも心を揺さぶられています。

《アイスリンク―日本占領時代、南満州鉄道の付属地だった炭鉱のまち、撫順》「Scene」より 2007 Courtesy of ShugoArts
――では、ANDARTで、今注目しているアーティストがいれば教えてください。
杉本博司です。2005年に森美術館で開催された「時間の終わり」展で初めて作品を観たのですが、特にANDARTで扱っている「海景」は、世界中の海で撮影されたモノクロの海の風景を極限まで抽象化していて、写真というメディアを通じて地球や人類の歴史という壮大なテーマまで観る人に想起させる作品で、深層にある文化人類的な思想のコンセプトを美しい画面で社会に提示されている姿に、とても感動しました。
直島のベネッセハウスに展示されている「海景」は、瀬戸内海の水平線を背景に杉本博司の「海景」を観ることができるので、おすすめです。

――お仕事をしている中で、今のアートマーケットに対して思うこと、感じていることなどあれば教えてください。
そうですね。それで言うと、私がアートの仕事を始めた十数年間前とは、随分とお客様の層が変わってきているなということを実感しています。とくにここ数年の変化は大きくて、ガラッと変わった印象がありますね。
具体的には、たとえばひと昔前だと美術に造詣が深い日本を代表するコレクターの方々が中心となってコレクションをされるということが多かったと思うのですが、最近はお客様の中にも若くて勢いのある起業家の方をはじめ20代〜30代くらいの方が一気に増えてきたという印象があります。
それから購入に至るまでの流れも昔とは違って、そういった若い層の方はとくに、気に入っていいと思ったらわりと即決で購入してくださることが多いのも特徴です。お客様の年齢層とともに購買傾向が変わってきている今の流れは、見ていて興味深いなといつも感じています。
――そうなのですね。それはとても興味深いです。そういうふうに変わってきている傾向というところで、何か思い当たることがあれば教えてください。
昔からのコレクターさんは、長年美術をご覧になってこられて美術の知識も専門家レベルでお持ちの上にアカデミックな観点から作品を観ていらっしゃる方が多く、こちらから何かお伺いすると、講義レベルのお話を聞かせていただける方が多くいらっしゃいました。
一方、最近のコレクターさんはインターネットで様々な情報にアクセスできるようになっていることもあり、起業家の方がアーティストのアイディアや考え方に共感されて作品を購入されるなど、より自由な新しい見方で作品を楽しまれている印象があります。「買うこと」への障壁が以前より下がっているのは良いことだな、と感じています。
――それは良い傾向ですね!ANDARTが目指しているところにも繋がっている気がします。
そうですね。これまでアートは別世界、本当は購入にも興味があっても自分にとっては手が届かないもの、何となく敷居が高いものと感じていた方が、アートの世界に確実に踏み込みやすくなっていると思います。価格帯もYOUANDARTのような手に届きやすいものから、多彩なバリエーションがありますし。
――そうですよね。では最後に、アートの楽しみ方について、それから読者に向けてメッセージをお願いします。
最初はあまり深く考えすぎず、自分が興味のある分野からアートに触れてみるのがいいのと思います。私の場合は、社会学というバックグラウンドがあったので、それを手掛かりに色々と見ていく中で、コンセプチュアルアートに出会うこともできました。
そういう意味では、アートの入り口は昔に比べてものすごく広がっていると思います。
たとえば私が注目しているアーティストで、川久保ジョイさんという方がいらっしゃるのですが、この方は元々が金融トレーダーだった方なんですね。その他にもスペイン育ちで今はロンドンに住んでいるということだったり、大学院までは心理学を学ばれているなど、そういった多様なバックグランドがある中で、今は社会的なテーマでアートを制作されています。原発のエネルギー問題、経済や科学、自然への敬意、それから人々の信仰に至るまで、多岐にわたるテーマで表現されている。その上、平面からインスターレーションまで、その時々で変幻自在にメディアを変えて、都度、最適な方法で発信されているんです。

そう考えると、今はアートの定義そのものが変わってきているとも言えるわけで、言葉を換えていえば、アートを媒介して社会的なテーマを扱うなど、既存の枠に収まらないメッセージを伝えられるようになっていると思うんです。
そういう意味でも、アートはどこからでも入ることができると思っています。世の中的にも今はアートが注目されていて、アートをテーマにしたプロジェクトも増えてきていると思うので、まずは自分の興味のある分野から入ってみるのがよいのではないでしょうか。
――ありがとうございました!

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文:ANDART編集部