
新たな展開を求め、空間的なコラージュへ。アーティスト・岡本奇太郎インタビュー《後編》
サラリーマンからアーティストへの転身を果たし、直感にしたがってオリジナリティあふれる作品を発表している岡本奇太郎さん。インタビュー後編では、日本文化に対する熱い想いや、これからやりたいことについてお伺いしました。
「アートが何かはわからないですが、僕にとっては大喜利みたいなものですね」
ーー最近は身近な素材で制作をしているということですが、以前は、素材を探しにいこう、どこかで見つけてこようという気持ちが強かったんですか?
見つけてこようというより、偶然見つかることのほうが多いかな。散歩とかしていて、何か落ちているものを見た瞬間に、「これ、もしかしたら素材になるかも」と思いついたりすることも多いので、始めから準備してやるというよりは、ひらめきです。
あと、僕は専門的な美術教育を一切受けていないので、キャンヴァスにきれいに絵具を塗るっていう基礎的な知識すらないんです。実際に挑戦してみたこともあるんですけど、僕が不器用すぎるからか、あんまりうまくいかなかった(笑)。だから始めから誰もやっていないこと、これだったらできるかもっていうことを探していく感じです。
ーー結果としてすごく独創的な作品ができているんですね。
知識とスキルがないことで、むしろ自分だけの感じが出たのかもしれないですね。平面に絵具をきれいに塗るとか、美大・芸大出身のアーティストなら当たり前にできることも、僕みたいなド素人には難しいんですよ。できるなら当然やりたいですが、今のところできないから、できることをやるしかないなと。

ーー正規の美術教育を受けずに、今アーティストとして活動していらっしゃいますが、岡本さんにとってアートはどういうものですか? どういう気持ちで制作を続けていらっしゃるのでしょうか。
自分で見ておもしろいと思うものをつくりたい、それを見て他の人もおもしろいと思ってくれたら嬉しい、というところですね。いつも「これウケるかな?」と思いながらつくっています。ウケるというのは、アートシーンに受けるという意味じゃなくて、単純に笑い取れるかどうかっていう意味で。アートが何かはわからないですが、僕にとっては大喜利みたいなものですね。
ーー来場者の方も、「なんだろう?」と思われる方が多いみたいです。
そうですよね。自分でも「なんだろう?」って思っているので、見た人が「なんだろう?」って思うのは当然かな(笑)。とにかく見た人がウケればいいなって。作品にコンセプトを求めているような人たちからすると、「ちょっとどうなの」と思われるかもしれないですね。そもそも「THIS IZ NOT ART」で、意味なんてないので、知らんがなって話ですけど。

「海外に目を向ける前に、そもそも日本にこんなにヤバいのがあるんだと気づいた」
ーー岡本さんは作品に浮世絵を取り入れたり、茶道を嗜まれたりされていますが、日本文化の良さをどのように捉えていらっしゃいますか?
日本文化というと古臭いイメージや先入観を持っている人は少なくないと思うんですよね。僕もそうだったんですけど、「海外に目を向ける前に、そもそも日本にこんなにヤバいのがあるんだ」と気づいてからは、あれこれ自分なりに掘るようになりました。
SNSで簡単に世界中に向けて作品を発信できる時代に、よその国のカルチャーから影響を受けたものを盛り込むより、自分の国の文化から吸収したものをアウトプットしたほうが、世界的に見て稀な表現になるのは当然ですよね。岡本太郎にとっての縄文のようなことです。
あらゆるジャンルで日本にはおもしろいものが多いと思うんですよ。例えば、僕は20代の頃、レイヴ(一晩中ダンスミュージックを流し続ける野外イベント)やパーティ(クラブで行われるイベント)によく遊びに行っていた時期があったんですけど、そもそもそんなに好きじゃなかったのか、徐々に飽きてしまって。
もっと面白いダンスミュージックはないのかなと思っていた時に、日本のお祭りで鳴る「祭囃子」に惹かれるようになったんです。そもそも祭囃子って、何百年も日本人を踊らせてきた音で、「これこそが自分が求めていた究極のダンスミュージックかも」と思って、色んな地域の祭りに行くようになりました。灯台下暗しというか、日本には沢山おもしろい文化があるなと。

「茶道なら空間的なコラージュが実現できるかもしれない」
ーーこれから新たにチャレンジしたいことはありますか?制作に関係があってもなくても構いません。
最近茶道にハマっているんですが、茶道って作法に則ってお茶を飲むだけではないんです。どういう掛け軸をかけるか、どういう植物を生けるか、どういう道具を使うかとか、空間全てを使った総合芸術というか、いわゆるインスタレーションなんです。
僕は元々アナログコラージュから作家活動を始めましたが、アナログコラージュって誰でもできるので、自分が始めた頃と比べても最近はやる人が異常に増えたなと感じていて。昔からまわりと同じことをしていると具合が悪くなってくるので、切って貼るだけのコラージュから新たな展開はないかなと考えた時に、茶道なら空間的なコラージュが実現できるかもしれないと思ったんです。
ひとつの茶室の中に、どんなものを飾って、どんな道具を使って、どんな服を着て、その空間をどのように構成するかというのはコラージュそのものだなと。

その空間的なコラージュである茶道を自分なりに追求することで、面白いことになるんじゃないかなと思っています。茶道や祭りもそうですが、古臭いと見られがちな日本文化を、「実は新しいよ」「ヤバイよ」って伝えたいという気持ちもあるので、僕が作るものや活動を通して、それらに興味を持つ人が増えればいいなって。作品を作ることも続けていきますが、微力ながらそのような啓蒙活動も続けていきたいなと思っています。
ーーありがとうございました。
岡本さんの制作に対する姿勢には、伝統的な文化をしっかり理解して尊重しながら、それを大胆に転換させて新しいものを生み出そうとする意欲が感じられます。つい目新しいものに飛びついてしまいがちですが、祭りや茶道といった古くからあるものも見直すことで、新しい発見ができるかもしれないと思えました。岡本さんの独特の視点と柔軟な発想で、これからどんな作品がつくられていくのか、楽しみでたまりません!
岡本さんの作品は、オンラインストア「YOUANDART」でもご紹介しています。ぜひチェックしてみてください。

岡本奇太郎
横須賀を拠点に活動を行うアーティスト、ライター。雑誌編集者時代に担当した吉永嘉明氏(『危ない1号』2代目編集長)のコラージュ作品に刺激を受け、創作活動を開始する。以降、コラージュやシルクスクリーンなどの手法を用いた作品を制作し、個展開催、国内外のアートフェアやグループ展に参加。また、アパレルブランドとのコラボレーション、ミュージシャンへのジャケットアートワークの提供のほか、自身がこれまでに影響を受けた芸術を紹介するアートエッセイ『芸術超人カタログ』(双葉社発行『小説推理』)などの執筆活動も行っている。
Instagram:@okamotokitaro
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文:稲葉 詩音、写真:ANDART編集部