1. HOME
  2. インタビュー
  3. アーティストインタビュー
  4. シンプルな「線」で人間の奥底を描き出す ペインター・AICONインタビュー。
アーティストインタビュー

シンプルな「線」で人間の奥底を描き出す ペインター・AICONインタビュー。

近づいて見ると、モノクロームの画面に、走り書きのようなシンプルな筆致。でも、少し引いて見ると、そのストロークの中から浮かび上がるのは、とても精緻な人の表情。

国内外の展示を始め、アパレルブランドとのコラボレーションなどでも注目されるペインター・AICONさんの作品です。スタイリッシュでありつつ、そこに浮かび上がる人々の表情から思わずその意味を想像してしまう独自の作品は、どのように生まれてきたのでしょうか?

≪Lady Typhoon≫ / AICON (Silkscreen on paper)

2021年10月30日・31日に開催されたANDARTオーナー向けの鑑賞イベント「WEANDART」の中で、若手アーティストの作品展「KIBI」にご参加いただいたAICONさんにお話を伺いました。

ペインター・AICONさん。≪Over There≫ / AICON (acrylic on canvas) とともに。

一本の「線」の中に次元が混在しているっていう不思議な感じが人間の心と通じるなと思って。」

ーー シンプルな線の中からふと浮かび上がって見える人々の表情が魅力的なAICONさんの作品ですが、どのようなテーマで制作されているのでしょうか?

私の作品の全体テーマなんですけれど、「THE HUMAN UNIVERSE IN NEO CLASSIC」という言葉を掲げています。

私が表現したいものって「人間って何なんだろう?」みたいな所なんですけれど。人の感情って奥行きがあって、めちゃくちゃ不思議じゃないですか。自分が何を考えているかも分からないくらい不思議。

でも、私たちを構成しているものをどんどん分解していくと、細胞から分子、原子、素粒子…って「物質」になっていきますよね。そんな無機質な「物質」の集合体が人間になって、それが摩訶不思議な感情を有する「生き物」になっているんですよね。

「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景

今の時代は情報があふれていて、たまに「ああ、シンプルになりたい!」って思っちゃうときがあるんですよね。

それって、「物質」に近い状態かもしれないと考え始めたときに、宇宙の理論物理にハマって「超弦理論」っていう理論に出会ったんです。それは簡単に言うと、物質の最小単位っていわれている素粒子も、エネルギーの糸の振動で表せるっていう理論なんですよ。

もはや「物質」ですらない、エネルギーの糸の振動で私たちができてる!みたいな。その時にピンときて。エネルギーの糸の「振動」で「物質」としての人を表現してみようって思いました。

線って1次元だけど、線を振動させて描くと平面ができて2次元になりますよね。それからさらに引いて見ると3次元が浮かび上がる。一本の「線」の中に次元が混在しているっていう不思議な感じが人間の心と通じるなと思って。それが、自分が表現のなかでもやもやしていたこととリンクした瞬間があって、この表現を深めていきたいなと思いました。

私たちって本当に『意味』とか『意義』から抜け出せない世界の中にいて、でもそれも、『良い』『悪い』じゃないんですよね。

ーー 最初にまず「線」があって、そこから人という「物質」が浮かび上がるんですね。
AICONさんは、人の「顔」を多く描かれていますが、人の内面というよりも「物質としての人」に興味があるということでしょうか?

そうなんです、人って生きていると「意味のある生き方」とか、「生きる意味」とかを求めてしまうんですよね。でもそうじゃなくて、もっとシンプルな状態。「物質」になって、「良い」とか「悪い」とかの価値観すらなくなってしまうような世界のイメージです。

人って今、「生きる意味」とかを求め過ぎちゃってると思うんです。そこをもっとミニマリストになっていいんじゃないかと。だから、表現もすごくそぎ落としてシンプルにしようとしています。

ーー 人の内面や心象を深掘りしていくのとは違って、もっとフラットに「物質」として追求されているんですね。

でも、そこが面白いところなんですけれども、私も人間で、作品を見るのも人間じゃないですか。「物質」として見ようと思って描いていても、やっぱり描いているうちに感情移入しちゃうんですよね。私はモチーフとして「何を考えているか分からない表情の人」を選ぶようにしているんですけれども、それでも私も感情を込めて描いちゃうし、見る方も、表情が見えにくいのにそこから何かを読み取ろうとしちゃうんですよね。

だから、私たちって本当に「意味」とか「意義」から抜け出せない世界の中にいて、でもそれも、「良い」「悪い」じゃないんですよね。

ーー 確かに、表情が読み取りづらい中でも、どうしても何か意味を読み取ろうと考えてしまいます。しかも、読み取ろうとAICONさんの作品に近づけば近づくほど、表情は余計に見えづらくなってしまう

突き詰めて考えていくと、人間って、自分が何を考えているのか本当に分からないんですよね。近づけば近づくほど分からなくなって、逆に少し離れるとちょっと形が見えてくる。そんな人間のふるまいも少し作品と通じるように感じます。

≪Cow≫ / AICON (acrylic on canvas)

なんでもやっているうちに、「自分ってなんなんや?」みたいになってしまったことがあって。でも、それも全部ひっくるめて「AICON」にしたらどうだろうなって考えるようになって。

ーーひとつひとつの作品のテーマやモチーフはどのように着想されるのでしょうか?

だいたい、描きながらその作品と「会話」をするように作っていっています。とりあえず描きはじめて、「こうしたいな」「ああしたいな」って描き進めていきながら絵をつくっています。

ーーとても計算して描かれた作品だと思っていたので意外だったのですが、スタートはざっくりしたイメージなんでしょうか?

めちゃくちゃ無計画。でも、一応デザインというか、バランスとか、ここはこうしたら方が良いなっていうのはすごく考えます。やり直しをすることも多いし、ボツにする事もたくさんあります。

「WEANDART」(2021.10.30-31)での展示風景

ーーAICONさんは、ペインティングだけでなく、デザインの作品も制作されていますよね。ペインティングとデザインの作品では、考え方は異なるのでしょうか?

私は「できることならなんなりと!」のスタイルで生きてきたので、いろんな事をやってきたんです。絵画も今まで色んなタッチを描いてきたし、グラフィックデザインもWEBデザインもやるし。そうやってなんでもやっているうちに、「自分ってなんなんや?」みたいになってしまったことがあって。でも、それも全部ひっくるめて「AICON」にしたらどうだろうなって考えるようになって。デザインもペインティングの中に取り入れています。

ーーペインティングの中に今までやってきた要素が全て入っているんですね。本当に、シンプルな線の中にたくさんの要素が詰まっていますね。

そう、ごちゃ混ぜです。その辺はボーダレスに考えています。

≪Puddle≫ / AICON (Silkscreen on paper)

「私が表現したい事って、「人間の奥の奥」なんです。

ーー 少し話が変わりますが、昨年からはコロナで世の中が変わってきましたが、それは作品に影響はありましたか?

私、ものすごいひきこもりなんですよ。コロナが始まったときに「ステイホーム」って言っていたじゃないですか。その時に、初めて社会から自分が認められたような気がしたんですよね (笑) それに、その時のみんなの反応って「ステイホーム、意外と楽しい!」だったじゃないですか。その反応を見て、「そうそう、こういう生活がシンプルでいいんだよ!」って。

コロナは怖いけれど、自分を見つめる時間みたいなのがみんな確保できるようになったのはいいなって思いました。

ーー そんな世の中の変化は、作品にも反映されているんでしょうか?

されてないですね。私が表現したい事って、「人間の奥の奥」なんです。物質でしかない人間の感情を表現するのに、社会情勢とかは関係ないんです。でも、結果として、社会情勢から生まれるちょっとした心の変化みたいなものはこれから入っていくかも知れないですけれど。

ーー 世の中の変化によってAICONさん自体が変わるというよりも、周りのひとたちが変わっていって、そんな小さな人間の心の変化をアイコンさんが捉えていくように感じられます。

ーー最後の質問ですが、今後の目標とかはありますか?

日本を代表するアーティストの一人になることです!

そのために、自分も作品も、もっともっと深掘りしていきたいです。

ーー ありがとうございました。

ペインター・AICONさん。≪Cow≫ / AICON (acrylic on canvas)(左) ≪Over There≫ / AICON (acrylic on canvas) (右) とともに。

人間を極限まで突き詰めて考えることで、内面ではない「物質」としての人間をシンプルな線で捉え、しかしながらシンプルを追求することによって、逆説的に人間の奥底にある心の機微をも描き出すAICONさん。お話を伺うことで、モチーフの一見無機質な表情の中からより深みを感じられるようでした。

AICONさんの作品は、ANDARTの運営するオンラインストア「YOUANDART」でも販売中。1点もののペインティングから、シルクスクリーンまで幅広い作品が揃っているので是非一度作品ページをご覧ください。

AICON 公式webページ

ANDARTに会員登録すると、アーティストインタビューや新作の取り扱い情報など、ANDART編集部の厳選したアート情報を定期的にお届けします。Facebook, Twitter, LINEなどのSNSでも簡単に登録できます。

文・写真:ぷらいまり