
多彩な色がキャンバスの上で花になる瞬間!Yurika Kinoshita インタビュー
花農家で育った生い立ちを元に、花や植物を抽象表現した作品を製作しているYurika Kinoshitaさん。 2021年10月30日・31日に開催されたANDARTオーナー向けの鑑賞イベント「WEANDART」の中で、ライブパフォーマンスにご参加いただきました。
以前、アトリエに伺った際に「手で描くスタイル」に目覚めたきっかけも教えてくれましたが、実際にライブパフォーマンスでその現場を目の当たりにすると、また違った感動がわき起こってきました。「その美しさ以上に、花の衝撃を届けたい」と語る本人に、インタビューを行いました。

「一輪の花を具体的に描くというよりも、自然の中にダイナミックに咲いている花の衝撃を多くの人に届けることができたらと思い、いつもキャンバスに向かっています。」
ーー 今日ライブペインティングをされてみての感想を聞かせてください。いかがでしたか?
これまでイベントでライブペインティングをする時はステージで突然、ゲリラ的にスタートすることが多かったのですが、今回のようにキャンバスが地面に置かれた状態で皆さんに囲まれながら描くというのは初めての体験だったので、色々な意味でちょっとドキドキでしたが(笑)、新鮮でとても楽しかったです!



ーー 木下さんは普段、どのようなテーマで創作をされているのでしょうか?
私は佐賀県出身で、花農家に育ったということもあって、ここ数年は花を抽象的に表現するということをテーマに制作を行っています。ただ花といっても、一輪の花を具体的に描くというよりも、自然の中にダイナミックに咲いているような花をまわりの風景とともに全体のイメージの中で捉えたいと思い、今はこういうスタイルで描いています。
ーー今回は、何のお花をテーマに描かれたのでしょうか?
今回は実家で夏に育てていた、ひまわりをモチーフにしました。ひまわりにも色々な種類がありますが、その中でもとくに黄色の部分が多いひまわりをイメージしてみました。
「遠くの風景から、だんだん手前に近づくイメージで。自分のスタイルが定まってからは、以前に比べてずっと描きやすくなりました。」
ーー今日もライブペインティングを拝見しながら「今は何をイメージして何を描いているんだろう?」と、とても興味深く感じました。いつもどのように絵を描いていらっしゃるのでしょう?
いつも山など全体の情景といった遠くの方にあるものから、だんだんと手前に近づいていくようなイメージで描いています。今は花びらとか、今は光だとか、今は陰で後ろは茎というような自分の中での順番があって、それぞれに手法を変えながら空間のレイヤーが浮かび上がっていくような流れを意識して表現しています。
このスタイルに辿り着くまでは色々なことを試して葛藤もありましたが、このルールを決めてからは、完成に向かって描けるイメージが一気に湧いて、以前に比べてずっと描きやすくなりました。

ーー制作の上で大切にされていることについて、教えてください。
具体的な方法を追求するというよりも、見ている人たちに衝撃を与えられるようなものをつくりたい、という思いを大切に、制作に取り組んでいます。
日常の風景にあるものとはまた違った、新鮮な驚きをもたらすようなものを表現したいなと思っています。たとえば同じ花であったとしても、その人の中のイメージをガラリと変えてしまうような、認識のあり方や見方を表現できたらと。いつも心のどこかで、そのことをずっと意識しながら描いていますね。
「絵を始めるきっかけはシャガールの絵に出会ったこと。そして最近とくに好きなのは、KAWSです。」
ーー好きなアーティストや、これまでに影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?
どちらもたくさんいるのですが、最初に絵に目覚めたきっかけはシャガールの絵に出会った時のことです。自分がすごく悩んでいる時に、たまたまシャガールの絵を中学校の図書館で見つけて。それを見た時、そこには自分の理解を超えた世界が広がっていてとても衝撃を受けたと同時に、「ああ、こういう独自の世界観が受け入れられるところが世界のどこかにはあるのだな」ということがわかって、その時急に、自分の中の世界がポンッと広がったイメージがあったんです。それは中学生の私にとって、とても大きな衝撃でした。
それから最近だと、KAWSが大好きですね。三年前くらいに美術館でKAWSの作品を見た時に、自分の中にはない形や色、表現方法に出会って、シャガールとはまた違った意味での衝撃を受けました。

ちなみに、その時ラッキーなことにたまたまKAWSにお会いするきっかけがあって、本人に直接お話を伺うことができたんです!友人が「彼女に何かアドバイスをくれませんか?」と聞いてくれて。
それに対してKAWSは「僕は、アーティストにアドバイスはしないんだ。なぜかというと、自分もまわりの人のアドバイスを聞かないからだ」と言ってくださったそうなんですね。
その言葉を聞いた時に、なんだかハッとさせられて。アーティストにとって本当に大切なことは、まわりの意見がどうだとか、そういうことを気にするよりも、自分が本当に「これをやる」と決めて追求していくことが何よりも大事なんだろうな、と思ったんです。実際にKAWSの作品もアートに対する彼自身のそういう姿勢が現れているからこそ力強くて、自由で、多くの人を惹きつけるようなものができているんだろうなと。
だからあの時、良い意味で、「やりたいことをやり切る」、そういう姿勢を大切にしていこう、そういうスタンスでいいんだ、ということを再認識させられました。KAWSの言葉は今でも私の心の中に残っている、大切な宝物です。
「自分の中にあるものを表現するという段階から、外との関わりやつながりの中から受けた影響を形に落とし込んでいくフェーズへ。コロナの経験を経て、そんな心の変化が自然に生まれました。」
ーーそれはすごく貴重ですね!では続いての質問になります。最近、制作をされる上で着想を得たことやご自身の中に新たに起こった変化などあれば教えてください。
そうですね。これまでは自分の中に何かを模索して表現する、というスタンスだったのですが、これからはもっと外の世界と触れ合って色々なものを吸収した上で、そういうものを自分の中に落とし込んで積極的に表現していきたいな、と思うようになりました。
展覧会に行く、人に会う、旅に出かける等々、何でもいいのですが、きっとそういう外との関わり・つながりの中で生まれてくるものを大切にして、外に向けて表現していくというフェーズに入ったのだと思います。
これまでは「自分にとっての花ってなんなんだろう?」と私自身の内面を探り続けてきましたが、これからはその花を使って他の人に何を伝えられるのだろう?という外側に向かっての表現にフォーカスしていきたいです。
外に向けたやり方、見せ方ということを意識した動きは近い将来、いつかするのだろうなと以前から思っていたのですが、そういう気持ちが自然と芽生えたので、その流れに沿っていきたいなと思います。
ーー作品作りのスタンスもいつも自然体で素敵です。そうした流れはやはり、コロナ以降の心境の変化によるものもあるのでしょうか。
はい。それはあると思います。私、昨年、一番最初に緊急事態宣言が出た数ヶ月間、「アートが見たい!」っていう気持ちがすごく湧いてきたんですよ。
美術館や個展に行ってアートに触れるという、それまで自分にとって当たり前だったことが突然できなくなってしまった。その時初めて、自分にとってアートというものの存在価値がいかに大きいか、ということを改めて強く認識させられました。
アートは今だに「生活にどうしても必要なものではない」というような言い方をされることもあると思うのですが、自分にとっては、本当になくてはならないものなのだと気づいたんです。だから、そういう自分にとって本当に大切なことを再認識できたことは、良かったなと思います。
アートは今後、より多くの人の心を動かしていくものになるーー私はそんな気がしています。美しいものに触れたい、これまで見たことのないようなものを新鮮な驚きをもって受け止めたい、そういう思いは誰もが持っていると思うので。一人ひとりの人間の中にあるそういう自然の欲求、「アートを見たい」という思いが、これからはより素直に出てくる流れがやってくるのではないかという予感もあります。


ありがとうございました!
Yurika Kinoshitaさんの作品は、ANDARTの運営するオンラインストア「YOUANDART」も販売中。幅広い作品が揃っているので是非作品ページでチェックしてみてください。
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