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アート解説

スライム状の物質と有機的なモチーフを組み合わせた独特な人物画で大注目の若手アーティスト、友沢こたおとは?

赤ちゃんや人物の顔の上を「スライム」がドロッと流れ落ちる絵を目にしたことはあるだろうか。個展を開くと作品は即日売約。各メディアでのインタビューやテレビ出演、アパレルブランドとのコラボレーションを果たすなど多方面から注目を集める現代アーティスト、友沢こたお。唯一無二の独特な世界観に人々は圧倒され、釘付けになる。そんな友沢こたおの魅力とは?

【Profile】
1999年フランス・ボルドー生まれ。スライム状の物質と有機的なモチーフが絡み合う独特な人物画を描く。シンプルな構成ながら、物質の質感や透け感、柔らかさのリアルな表現が見る者に強い印象を与える。東京藝術大学美術学部絵画学科油画専攻で学び、2019年度久米賞受賞、2021年度上野芸友賞受賞と、早くから注目される。近年の個展に、「Monochrome」(FOAM CONTEMPORARY,東京、2022)「caché」(tagboat、東京、2021)、「Pomme dʼamour」(mograg gallery、東京、2020)、グループ展に「Everything but…」(Tokyo International Gallery、東京、2021)などがある。現在、東京藝術大学大学院美術研究科在学中。

「原始的な生を実感するスライム

きっかけは衝動的に

母は漫画家・イラストレーターの友沢ミミヨ。2019年にアートユニット「とろろ園」を結成して共に活動中。そして、船長という肩書きを持ちながら音楽活動もするフランス人の父親を両親に持ち、多彩なバックグランドを培う環境のもとで育つ。

「とろろ園」のインスタグラムより

美術高校で油絵を学んだ友沢こたおは、東京藝術大学に現役合格。しかし、入学してから思うように上手く絵が描けなくなってしまう。インタビューでは当時のことを、「“自分の所在がない感じ”を日々感じていた」と語る。精神的に追い詰められる日々が続くなかで、ある時衝動的に被ったのが「スライム」だった。

スライム越しに見る景色や、鼻に入ってきて息ができない感覚、口の中の入ってきたスライムの味などは神秘的な経験なんですよね。

https://www.fashionsnap.com/article/kotao-interview/page/2/

スライムを被った時に自分の肉体を改めて感じ、「原始的な生」を実感したという友沢こたおは、その神秘的な経験・記憶が忘れられずに、スライムを被った日の自分を描き始めたのが代名詞スライムシリーズの始まりである。

《slime》(2018)
画像引用:https://shukado.com/

《slime XXVII》(2020)
画像引用:https://tokyointernationalgallery.co.jp/

実際に自分でスライムを被って撮った写真を元に制作する自画像の他に、スライムを被った赤ちゃんの絵が印象的である。この赤ちゃんの人形には、「ルキちゃん」という名前が付けられているとか。「赤ちゃんとスライム」という異色な組み合わせは、一度見ただけで心に刻まれるインパクトの強さだ。ちなみに作品に使われるスライムは、色や質感を変えて自分で作っているそう。

《slime XXIV》(2020)
画像引用:https://shukado.com/

《slime XX》(2020)
画像引用:https://tokyointernationalgallery.co.jp/

リアルな色彩が描き出す

「スライムを被った人物画」というコンセプトもさることながら、友沢こたおの作品の魅力はそのクオリティにある。油絵具が生み出す人物の立体感や光の反射、スライムの冷たさやとろりとした質感、流れ落ちる速さまで伝わってくるようだ。静かではあるが、躍動感も感じる。それはまるで、そのまま写真機から印刷した写真のように精密で繊細で、近くで見なければ、人の手によって”描かれた”ものだということを思わず忘れてしまうほど。

「WAVE TOKYO 2021」展示風景より

ここまでのクオリティを生み出す背景にあるのは、単に友沢自身が持つ技術力だけではなく「こだわり」も作品を構成する重要な要素だ。特に「色」に対してのこだわりは人一倍強く、自分の納得のいく色が出来上がるまで、1時間や2時間、もしくはそれ以上かけることを厭わずに制作する。

「WAVE TOKYO 2021」展示風景より

スライムを被るという多くの人には存在しない“非日常的”なシチュエーションを“リアリティ”のある色彩で描く友沢こたお。作品からは少し狂気のようなものを感じる反面、どこか儚げで、スライムが流れ落ちてしまう前に、絵が発する「何か」を感じ取りたいと思わせるような緊張感が絵の中に存在している。それは作者自身が、スライムを被ることによって生きている実感を得られるように、作品を観る私たちも無意識に「原始的な生」を感じているからなのかもしれない。

▼友沢こたおのインタビューはこちら


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文:ANDART編集部