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ポップアート

ファインアートからプロダクトデザインまで。ジャンルを越境するアーティスト・KAWSの代表作を解説

ポップアート

KAWS(カウズ)とは

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画像引用:https://tmagazine.blogs.nytimes.com

1974年、ニュージャージー州ジャージーシティ生まれ。本名はブライアン・ドネリー(Brian Donnelly)。1993年から1996年までニューヨークの美術学校「School of Visual Arts」でアートを学んだ。

小学生の時からジャージーシティのストリートで、グラフィティアートの手法「タギング」を使い、表現活動を行なう。そのときに書いた「タグ(自分の名前、所属チーム、出身地を書いたもの)」が、現在アーティスト名に使っている「KAWS」である。

1993年から、移住したニューヨークのバス停や公衆電話ボックスのビルボード広告に自身のキャラクターを描き始めた。企業広告に上書きする「サブバータイジング(Subvertising)」の手法で描いたキャラクターの目には、KAWS作品の特徴となったバッテン印が入っている。注目が高まり、あまりの人気に盗む人が現れたほど。このグラフィティ作品は瞬く間に彼の知名度を上げていった。

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画像引用:https://www.artpedia.asia

その後、フリーランスのイラストレーターとしてディズニー関連のアニメーション制作会社「ジャングル・ピクチャーズ」に勤め、セル画を制作している。

日本との関わりは強く、初来日したのは1996年。NIGO®や藤原ヒロシ、アパレルブランド「UNDERCOVER(アンダーカバー)」の高橋盾らファッション業界の著名人と繋がった。ストリートアートのプロジェクトにも携わっている。さらに1999年、東京のファッションブランド「BOUNTY HUNTER(バウンティハンター)」と、ミッキーマウスをモデルにしたキャラクター「Companion(コンパニオン)」のフィギィアを制作。コンパニオンは後に彼のアイコン的キャラクターとなる。

バウンティー・ハンターと制作したアート・トイ《コンパニオン》
画像引用:https://www.artpedia.asia

ファッションブランド「A BATHING APE」とも協働し、2003年に個展「Original Fake」をBAPE Galleryで開催。個展タイトルと同じ名前の自身のブランド「ORIGINALFAKE」を設立し、東京に店舗を構えた。(13年に閉鎖している)

1999年にパリのコレットで個展を開催。2010年、コネチカット州リッジフィールドにあるアルドリッチ現代美術館で、美術館で初の個展を行った。2011年にはテキサス州のフォートワース現代美術館とジョージア州アトランタのハイ美術館で大規模な個展が開催された。

現在はブルックリンにスタジオを構え拠点としながら、東京、韓国、香港、イギリス、ロンドン、ロサンゼルス、ニューヨークなど、世界中で制作を行なっている。

KAWSの注目作品

2019年4月にサザビーズ香港で開催されたNIGO®の個人コレクションオークション「NIGOLDENEYE® Vol. 1」では、KAWSの《THE KAWS ALBUM》が最高予想落札価格の約15倍上回る、1478万4505ドル(約16億4700万円)で落札されるなどアート市場での人気は高く、作品価値も上昇している。ファインアートとポップカルチャーを融合した作品でよく知られるが、コマーシャルアートとファインアートという二つのジャンルを自在に横断して、ファッションブランドとのコラボレーションや産業デザイン、グラフィックデザインなど多彩な制作を行っており、アートトイ作家としても活動している。

《THE KAWS ALBUM》
画像引用:https://www.sothebys.com

グラフィティを手がけるストリートアーティストといえば、いま名が挙がることの多いバンクシー。彼の手がける作品が政治的なメッセージ性が強いものであるのに対して、同じグラフィティアート界からキャリアをスタートし、ポップアートの流れを汲むKAWSは、視覚的な試みとしてキャラクターの書き換えを行なっている。

Companion(コンパニオン)

KAWSは、既存の作品や広告デザインなどを自身の作品に取り込み再構築する、アプロプリエーション(流用・盗用の意味)の手法を用いる。その表現の先駆者にはアンディー・ウォーホルなどがいる。

KAWSが取り上げるモチーフは、世界的に有名な既存のキャラクターだ。近しい表現者として、オタク文化の文脈を引用した村上隆や、漫画的キャラクターをモチーフとする奈良美智を想像する人も多いのではないだろうか。

KAWSは、スポンジ・ボブやシンプソンズ、スヌーピー、ミシュランタイヤのキャラクター・ビダンダム(通称ミシュランマン、KAWSの作品に登場するキャラクターは「CHUM」と名付けられている)などを独自の解釈で変成する。世界中に知られるようなキャラクターから、背景にある物語を引き剥がして、全く異なる世界観で出現させるのだ。

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画像引用:https://www.sothebys.com

その中で彼を代表するキャラクターが、コンパニオンだ。彼のキャラクターのトレードマークである「××」印の目をしており、手で顔を覆ったものなどがある。現代アーティストとして活動を始めた初期から継続的に用いてきたモチーフで、彼の知名度を高めた立役者でもある。

立体作品

KAWSが用いるキャラクターたちは、ペインティング、スカルプチャー、アート・トイなど様々な表現媒体で制作され、素材も多岐にわたる。例えば立体作品ではブロンズ、木彫、ビニールなどを用いている。

コンパニオンにいたっては、世界の様々なシーンに登場させている。ニューヨークで行われた2012年の「メイシーズ・サンクスギヴィング・デイ・パレード」では約12メートルの巨大バルーンを発表した。

また「KAWS: HOLIDAY」プロジェクトで、2019年に巨大なコンパニオンがソウル、台北、香港、日本をツアーしたことは記憶に新しい。日本では2019年7月に実施され、富士山麓の「ふもとっぱらキャンプ場」が会場となった。原っぱに寝そべる巨大なコンパニオンと共にキャンプができたことから話題となった。

画像引用:https://www.artpedia.asia

さらに、この巨大コンパニオンはAR彫刻として登場する。2020年3月、「Acute Art」提供のスマートフォン用ARアプリを使って、現実の風景にコンパニオンを投影して鑑賞するプロジェクト「KAWS EXPANDED HOLIDAY」を行い、展示場所や規模を選ばないメディア作品の可能性を示した。台北の国立中正紀念堂やニューヨークのタイムズスクエアー、東京の渋谷スクランブル交差点など、世界12ヶ所に展示されている。この作品には無料版と有料版があり、有料版では25体限定エディションのARコンパニオンが販売された。

画像引用:https://www.artpedia.asia

絵画

アニメーション会社でセル画を描いていた経験が垣間見えるペインティング作品は、鮮明な色彩が使われている。

《UNTITLED (MBFA6)》(2014)
画像引用:https://www.sothebys.com

素材や発表の場の多様さで魅せる立体作品に対して、絵画作品は、画面とキャラクターを解体し再構成する、KAWS作品の表現の展開を追うことができる。

2000年頃の初期のペインティングでは、モチーフ単体を描くことが多かったが、2008年開催のマイアミのエマニュエル・ペロタン・ギャラリーの展示では、キャラクターの一部をズームして捉える試みが見られる。

さらにこの頃、キャラクターを記号的な解釈で解体し、別のモチーフと組み合わせる構成も見られるようになる。

画像引用:http://www.honorfraser.com

2013年にはアルドリッチ美術館で、グリッド構造になるようにキャンバスを配置したウォールペインティングを制作するなど、キャンバス自体を構成する展示を行なっている。

近年では、絵画的に描いたドローイングや、具象的なモチーフを抽象表現に落とし込んだ要素を組み合わせる作品なども手がけている。

画像引用:https://artruby.com

イラスト

KAWSのイラストは、ファッションブランドで目にする機会が多いのではないだろうか。KAWSがコラボレーションした企業は、ナイキ、マークジェイコブ、コムデギャルソン、ユニクロ、ディオールなどと、ハイエンドなファッションブランドから、身近なアパレルブランドまで幅広い。

画像引用:https://www.uniqlo.com

中でも多くの人に馴染み深いのが、ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」の「KAWS x UNIQLO Tシャツ」だろう。初めてユニクロとコラボレーションした2016年以降、たびたび手がけていて、世界中で人気がある。2018年から発売を始めたセサミストリートのコレクション「KAWS × SESAME STREET」の新作が、2019年5月に商品画像をリークされ、KAWS自身がInstagramで、投稿した動画が話題になった。

作品集でKAWSを楽しむ

『KAWS ONE』(リトル・モア)

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画像引用:https://www.amazon.co.jp

KAWSの初期の活動を追うことができる作品集。2001年にパルコギャラリーで同名の展覧会が行われている。

ビルボード広告に描いた作品も多く紹介されており、「サブバータイジング」の手法で上書きした、キャッチーなビジュアルが楽しめる。

『Kaws: He Eats Alone』(Silvana)

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画像引用:https://www.amazon.co.jp

過去20年に制作したスカルプチャーや絵画、商業デザインなど、主要な作品を一通り網羅しており、KAWSの魅力を堪能できる作品集。

KAWS作品のオーナー権を購入する

ANDARTではKAWSの作品を取り扱っている。ANDARTは、これまで手が届きづらかった高額な有名アート作品や大型作品でも1万円からオーナー権を購入/売買ができる。オーナー権を購入した作品オーナーは、オンライン上でのコレクションをはじめ、実物作品の鑑賞機会など様々な優待を通して気軽に本格アートコレクションを楽しむことができる。また、オーナー権の売買が可能な会員間取引機能もβ版にて提供している。

まとめ

ファインアート、ストリートアート、プロダクトデザインなどの分野をクロスオーバーして制作するKAWS。敷居の高いファインアートの壁もなんなく越え、多くの人々の心を掴むキャッチーさは、作品を撮影した写真をSNSに投稿した「#KAWS」が150万以上にも及ぶことからも明らかだ。一方で、ストリートアーティストからファインアートの作家に移行し、現代アートの文脈の中で評価されている既有な存在であり、美術史を更新する作家としてアート界を席巻する重要人物の一人でもあるのだ。

なお、2021年7月16日から10月11日まで、森アーツセンターギャラリーで「原点回帰」がテーマの大型展覧会「KAWS TOKYO FIRST」が開催される。絵画や彫像、​プロダクト、1990年代頃のアートトイ、初公開となる新作を含む150点などを通じて、KAWSの芸術制作の軌跡や美術史的意義をたどるものとなっている。KAWS本人も来日し、彼のプライベートコレクションを紹介する展示や、ブルックリンのスタジオを再現したコーナーなどもあり、ファン必見の展覧会となっている。

画像引用:https://www.pinterest/