
バスキアの作品を厳選して紹介!作品の特徴3つと重要作品4点を解説
ジャン=ミシェル・バスキアとは?
ジャン=ミシェル・バスキア(Jean-Michel Basquiat)は20世紀の時代を象徴する最も重要な新表現主義のアーティストの1人。1960年にアメリカ、ブルックリンでハイチとプエルトリコ系にルーツを持つ両親のもとに生まれた。1980年代のアートシーンに彗星のごとく現れ、27歳という若さでこの世を去るわずか10年の活動期間に3000点を超えるドローイングと1000点以上の絵画作品を残した。

ジャン=ミシェル・バスキア ©Roland Hagenberg
画像引用:https://numero.jp/interview176/
17歳の時に父親に家を追い出されてホームレス状態になってからは、自作のTシャツやポストカードを販売して生計を立てる。その後友人と「SAMO」というユニットを組んでストリートアーティストとして活動し、マンハッタンの地下鉄やスラム街地区の壁などに詩的な落書きをスプレーで残していた。20歳頃には初めてバスキア名義でグループ展に参加。1983年には来日し、三宅一生のモデルを務め、東京のアキラ・イケダギャラリーで日本国内初の個展を開催している。
当初はニューペインティングの中心的な画家として注目されていたが、没後に世界各地で大規模な回顧展が開かれ、大量に書かれた文字、ジャズとの関連、アフリカの民族や人種問題といった黒人ならではの主題も含まれることから再評価が進み、今では20世紀を代表する現代アーティストとして国際的に認知されている。
バスキア作品の3つの特徴

画像引用:https://www.kingandmcgaw.com/
1:文字や記号
バスキアの作品の特徴として挙げられるのは、記号や文字が描かれていることだ。人種差別に関する文言や、聖書の言葉の引用など、社会批判的な内容やのアイデンティティにまつわることが書かれる傾向にある。バスキアの作品にはイメージや記号、文字など様々な要素が取り入れられ、グラフィティアーティスト出身のバスキアならではの表現とも言える。
2:解剖学
バスキアは7歳で交通事故に遭って入院した際、母親からプレゼントされた『グレイの解剖学』という本が深く印象に残り、後に解剖学的なドローイングをするようになった。バスキアの作品で代表的なモチーフが頭蓋骨であるが、これも解剖学から得たインスピレーションの成果だと言われている。
3:挑発的二分法(suggestive dichotomies)
挑発的二分法(suggestive dichotomies)とは「金持ちと貧乏」「黒人と白人」のように相対する二つのものに焦点を当てて制作し、その対比を強調するという表現方法。バスキアの社会批判的な作品にはしばしばこの特徴が見られる。
重要作品4選
バスキアの作品はひと目で彼のものだとわかるようなものが多い。そこでバスキアの表現の特徴を捉えた代表的な作品を紹介していく。
《チャールズ1世》

画像引用:https://curio-jpn.com/?p=24806
ジャズミュージシャンのチャーリー・パーカーを主題としたもの。バスキアは音楽と終生関わりを持っており、勢いのある線描や一見気まぐれな文字の集積は彼が熱愛したジャズ、特に1940年代にチャーリー・パーカーらが始めた即興を重視する演奏に通じているとされる。バスキアはバンド活動も行なっており、レコードも制作している。
《無題(頭蓋骨)》

これは前澤氏が落札した同タイトル作品の1981年版。同じく頭蓋骨がモチーフとされており、解剖学からインスピレーションを受けた作品だが、こちらの作品の方がより人体の特徴に沿って描かれているように感じる。バスキアの頭蓋骨モチーフに関しては『グレイの解剖学』のほかにハイチ人であったバスキアの父親が信仰していたブードゥー教のシンボルが影響しているとも考えれている。
《黒人警察官のアイロニー》

画像引用:https://casie.jp/media/jean-michel-basquiat/
バスキアの特徴でもある黒人をモチーフにした作品。バスキアは人種差別に言及した作品を多く制作し、自身も黒人アーティストと呼ばれることをとても嫌っていた。その中でもこの作品は「制度化された白人社会や腐敗した白人政権」を批判した内容で、アフリカ系アメリカ人の警察官が白人社会に抑圧されている様子を描いている。この作品でもバスキアの挑発的二分法の表現が使われており、バスキアの人種差別を扱った作品の中で極めて有名なものだ。
《ハリウッドのアフリカ人》

画像引用:https://www.momastore.jp/
バスキアの作品は目が覚めるような鮮やかな色彩が惜しげもなく使われているものが多いが、この作品もそのひとつ。黄色の背景にはその補色である青色で文字や絵が描かれており、バスキアの特徴である子供の落書きのような文字が羅列されているが、これは古いハリウッド映画で起用される黒人俳優の限られた配役についてほのめかす言葉が書かれている。
バスキアとアンディ・ウォーホル

バスキアはアメリカのポップアートの巨匠であるアンディ・ウォーホルとも親交が深く、1984年から85年の間には2人のコラボレーション作品も制作している。バスキアとウォーホルは1980年にレストランで会い意気投合、バスキアが自作のサンプルをプレゼントしたところウォーホルがその才能を見抜き、交流するようになる。バスキアはウォーホルのスタジオである「ファクトリー」に出入りする人々、通称“スーパースター”の一員であった。1987年のウォーホルの死去にバスキアは大いに悲しみ、その死を悼んだ作品《墓石》を制作する。ウォーホルが亡くなった悲しみから薬物依存に拍車がかかり、翌年バスキアもヘロインの過剰摂取で亡くなった。
Deadlineによってバスキアとウォーホルの関係性をテーマにした映画が制作されることが報じられた。映画『ボヘミアン・ラプソディ』の脚本家アンソニー・マクカーテンの戯曲「ザ・コラボレーション(原題) / The Collaboration」を基に、2022年以降撮影が始められる予定だ。
アンディ・ウォーホルについての記事はこちら
バスキア作品の価格
バスキアは現在とても高い評価を受けており、オークションの際は高価格で取引されることが多い。その中でもとりわけ有名なのは、前澤友作氏が2017年に落札した《無題(頭蓋骨)》だろう。日本でのバスキアの知名度もこの作品によって一気に上昇した。落札価格は約141億4,240万円(約1億1,049万ドル)でバスキアのオークションレコード1位の作品だ。

画像引用:https://casie.jp/media/jean-michel-basquiat/
1982年に制作された《Untitled (Devil)》(1982)は、2016年、同じく前澤氏により当時のバスキアのオークションレコードである62.4億円(当時)で落札された作品。前澤氏はバスキアのオークションレコード1位と2位の作品を所有していたということだ。そして2022年5月、再びクリスティーズに出品され、約108億8,000万円(8,500万ドル)で落札された。

画像引用:https://cragycloud.com/blog-entry-988.html
2021年3月に香港で行われたオークションにてバスキアの《Warrior》が約51億7,760万円(3億2360万香港ドル)で落札された。これはアジアで開催されたオークションにおける西洋絵画の最高落札価格である。この作品は、《La Hara》《Irony of Negro Policeman》を含むシリーズ作品の一部で、バスキアの作品の中でも特に優れた作品のひとつと言われている。
画像引用:https://www.christies.com/
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日本でバスキアに触れる

画像引用:https://thevinylfactory.com/
2019年に六本木森アーツセンターギャラリーで開催された展覧会「バスキア展 メイド・イン・ジャパン」ではバスキアの作品が約130点も集まり、大盛況だったことは記憶に新しいが、日本の美術館などでバスキアの展示を鑑賞できる機会はなかなかない。そこで、来るバスキア鑑賞のために本や映画で彼の世界観を予習しておこう。
『バスキア』

画像引用:https://filmarks.com/movies/26589
日本では1996年に制作されたバスキアの伝記映画、その名も「バスキア」。生前のバスキアと親交があった画家のジュリアン・シュナーベルが監督を務めている。
『DOWNTOWN 81』

画像引用:https://filmarks.com/movies/25171
バスキアが19歳の時に撮影されたバスキア唯一の主演映画。ニューヨークのストリートアーティストの生活を描いた、まさにバスキア自身を投影したような役を演じている。
『バスキアのすべて』

画像引用:https://filmarks.com/movies/9415
バスキアの関係者のインタビューを元に製作されたドキュメンタリー映画。冒頭は亡くなる2年前のバスキアも登場する。
『バスキア、10代最後のとき』

画像引用:https://filmarks.com/movies/79354
バスキアの没後30年を記念して製作されたドキュメンタリー。バスキアが注目される前のニューヨークのアートシーンにスポットをあて、彼が影響を受けたものや、アーティストとして脚光を浴びるまでの軌跡を映した作品。
画集『Basquiat』
バスキアの作品をもっとよく知りたくなったら画集を手に入れるのがおすすめだ。こちらは洋書だが、バスキアの作品を網羅しているのが嬉しい一冊。

『Basquiat』(2010)
出典:https://www.amazon.co.jp/
まとめ

わずか10年という短い活動期間にこれほどまで活躍したアーティストは、後にも先にもなかなかいないだろう。作品もさることながら、27年間の生涯の中でこれほどまで世の中に存在感を残していったバスキアのカリスマ性にも圧倒される。彼が後世に残していった影響は芸術分野だけでなく、社会的にも非常に意味のあることなのだ。
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文:ANDART編集部 (記事内の落札価格は1ドル=128円、1香港ドル=16円で計算)