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匿名ストリートアーティスト・バンクシーとは?代表作品や経歴を解説

バンクシーとは

バンクシー(Banksy)はイギリスのブリストル出身と言われていて、ロンドンを中心に世界各地で活躍する匿名のストリートアーティスト。主にステンシルアートという型紙とスプレーを用いた技法でグラフィティアートを制作することが特徴だ。神出鬼没に登場し、壁や橋など公共の場をキャンバスに、人目につかないように、まるで足跡ひとつさえ残さず素早く制作して去ることから、未だにその人物像は正体不明である。

画像引用:https://www.banksy.co.uk/out.asp

バンクシーのように公共物に無許可で行うストリートアートは犯罪行為であり、また夜が明けると突然作品が現れることから、「芸術テロリスト」と呼ばれることもしばしば。しかし、反戦、反消費主義、難民問題など政治問題に言及した社会風刺的でメッセージ性の強い作品は、多くの人に支持され、彼の作品の多くは犯罪行為でありながらも世界的に高い価値がつけられている。

バンクシーの作品解説についての記事はこちら

なぜバンクシーは世界から注目されている?

今でこそ作品を発表するごとに世界中を賑わせる芸術家になったバンクシーだが、もちろん最初から注目されていたわけではない。何がここまで「バンクシー」という異端児を世界に知らしめることとなったのだろうか。

最初のきっかけは「ゲリラ展示」

バンクシーの名前が広く知られるきっかけとなった出来事のひとつに、2003年にロンドンのテート・ブリテン美術館で自らの作品を無断で設置したことが挙げられる。

バンクシーは2000年代に世界中の美術館や博物館にゲリラ展示をするという活動をよく行なっており、他にも大英博物館やMoMA(ニューヨーク近代美術館)、メトロポリタン美術館、アメリカ自然史博物館など世界の有名美術や博物館を相手にも大胆な活動を行なっている。このゲリラ展示には既存の芸術に対するアンチテーゼや、格式高い美術機関の審美眼への批判というメッセージが込められていると言われおり、それは単なる2Dのストリートアートにとどまらず、大胆なパフォーマンスを伴った創作活動は世界中にインパクトを与え、彼を一躍有名にしたのだ。

画像引用:https://theartofbanksy.jp/

そしてバンクシーの活動は、それまで単なる落書き程度にしか思われていなかったストリートアートを、芸術の域まで昇華させるきっかけにもなった。そもそも壁など公共の場に無断で絵を描くことは犯罪であり、それはバンクシーであっても同様だ。

言ってしまえばバンクシーの活動はそのほとんどが違法行為にあたるのだが、それでも彼の作品をオークションに出品すると何億円もの値段で落札される。バンクシーの作品が描かれた壁画は観光名所になるほど人気のスポットになり、時には作品が盗まれたり、汚されたりしてしまうため作品の中には壁の所有者によってアクリル板などで保護される事例も存在する。

画像引用:https://theartofbanksy.jp/banksy-corona-rat-in-tube/

2019年には、東京都の街中でバンクシーのものらしきネズミの作品が発見されたことがニュースになった。小池都知事によって紹介されて有名になった後に撤去、場所を移して保護した状態で一般公開され話題を呼んだことも記憶に新しい。

また、2020年より世界・日本各地を巡回中の展覧会「バンクシー展 天才か反逆者か」がついに2021年12月東京で開催予定。現在開催中の「バンクシーって誰?展」とあわせて、日本でバンクシーの作品を見ることができる貴重な機会ということで非常に注目されている。

バンクシーの価値をさらに上げた代表作たち

《Girl with Balloon》と《Love is in the Bin》

画像引用:https://www.sothebys.com/

2002年にストリートに登場した壁画を元に制作された《Girl with Balloon》(風船と少女)。赤い風船は「希望」や「愛」を表しているとされ、バンクシーの作品の中では比較的ソフトな表現がされた作品。この作品にまつわる『シュレッダー事件』と呼ばれる出来事が、バンクシーの価値を飛躍させるきっかけにもなった。

本作は2018年、サザビーズオークションにて104万2000ポンド(およそ1億5000万円)で落札され、バンクシーにとって当時2番目に高い落札金額だった。しかし、落札が決まった直後、会場内にアラームが鳴り、作品のおよそ半分が額縁に仕込まれていたシュレッダーによって細断されてしまったのだ。

画像引用:https://www.sothebys.com/

このアート史上前代未聞の事件は、メディアも大きく取り立てて報道した。そして、バンクシーは公式インスタグラムで写真を公開し、別の動画では「オークションにかけられた時のために数年前からシュレッダーを仕掛けていた」とコメントし、作品の細断は自身によるものだと認めている。この作品はバンクシーによって《Love is in the Bin》(愛はごみ箱の中に)とタイトルを改められた。この事件はバンクシーによるオークションビジネスへの批判を表していたようだが、結果的にバンクシーの市場価値はさらに上がることとなり、同モチーフのプリント作品は、オークションでは常に高額で落札される作品になった。

そして2021年10月14日、サザビーズにて本作が再び競売にかけられ、アジアのコレクターにより前回の落札額の18倍近い、バンクシー作品としては過去最高額である約28.9億円で落札されたことが大きな話題を呼んだ。詳しくはこちらから。

《Love is in the Air》

画像引用:https://www.ipwatchdog.com/

《Love is in the Air》で「愛は空中に」を意味するこの作品(または「Flower Thrower」とも呼ばれている)は、2003年パレスチナのベツレヘムにある建物の壁に描かれた。イスラエルの軍事的支配に対して、パレスチナ市民が石や火炎瓶を投げて抵抗する運動「インティファーダ」がモチーフとなっていて、バンクシーは愛の象徴とも言われる「花束」に置き換えることで反戦争を訴えている。バンクシーの中でも政治的でありメッセージ性の強い作品の一つだ。

《Devolved Parliament》

画像引用:https://www.sothebys.com/

2009年に制作された《Devolved Parliament》(後退した議会)は、チンパンジーで埋め尽くされた英国議会を描いた作品。これは同年、バンクシーの故郷にあるブリストル美術館で開催された個展「Banksy versus Bristol Museum」で展示されたもの。チンパンジーはバンクシーの代表的なモチーフであり、特に人類の愚かさを揶揄しているような作品に多く登場する。

本作は2019年、約13億円で落札され、当時の最高落札価格を更新し話題を呼んだ作品でもある。サザビーズは当時「13分におよぶ戦いの末、前回記録の9倍となる987万9500ポンドで落札された」とツイートしてオークションの様子を説明した。

問題児・バンクシーが起こした事件

次にバンクシーが今までに起こした事件について見てみよう。全て彼の創作活動のパフォーマンスだが、違法行為もかなり多い。なぜバンクシーはこれほどまで大胆に違法行為を繰り返しているにもかかわらず、未だ捕まらないままストリートアート界のヒーローとしていられるのだろうか。

・偽モナリザ事件

画像引用:https://theartofbanksy.jp/

2004年にバンクシーは一般チケットを購入してルーブル美術館に侵入し、自身が描いたスマイリーの顔をしたモナリザの作品を勝手に展示するというパフォーマンスを行なった。こんなことしたら警備の人に見つかって捕まりそうだが、緻密な犯行の末、他の絵画作品に紛れて陳列し、無事にその場所から立ち去ることに成功する。バンクシーが描いた《モナリザスマイル》はしばらくかけられたのちに取り外された。

その後この『モナリザスマイル』は2006年サザビーズのオークションにかけられ、57,600ポンド(約780万円)という当時のバンクシーの自己最高額で落札された。

・パリス・ヒルトンにイタズラ

2006年、アメリカのセレブリティのパリス・ヒルトンが発売したデビュー・アルバムのフェイクを500枚制作し、イギリスのCDショップに無断で陳列するというイラズラを決行。中身のブックレットの写真をコラージュするなど、外見からは分からないようになっていたため、店側が気付く前にそのまま販売されたものもある。

画像引用:https://www.tateward.com/

・ディズマランド

画像引用:https://ja.wikipedia.org/

2015年8月から5週間限定でイギリスの田舎町にオープンした《ディズマランド》。「悪魔のテーマパーク」と謳われたバンクシー監修のテーマパークだ。《ディズマランド》の名称からも想像がつく通り、その内容は某有名テーマパークを直接的に皮肉、批判して再現したようなもの。園内には哀れな姿のプリンセスや不気味なお城、さらに無気力で無愛想なキャストなど、まるで本家(?)と正反対の内容が盛り沢山だった。入場料は3ポンド、5歳以下は無料の格安なテーマパークだったが、15万人を動員し36億円の経済効果を生むほどの大盛況となった。さらに会期終了後、テーマパークで使用された資材はフランスの難民キャンプに送られた。

バンクシーの作品の中で反資本主義のモチーフとして、テーマパークの有名キャラクターを用いることがよくあるが、この《ディズマランド》はその集大成とも言えるだろう。しかし、キャラクターの使用許可などはとっていないだろうから、本家にとっては大規模すぎる迷惑行為だ。

・偽札事件

BANKSY バンクシー Di Faced Tenner ダイアナ ケイトモス KAWS シュプリーム KYNE 村上隆 Jamie Reid 藤原ヒロシ10ポンド 作品 紙幣 偽札の1番目の画像

画像引用:https://aucfree.com/

偽札を作ることはもちろん違法行為だが、バンクシーの場合はたちまちアートになってしまう。2004年に制作された《ダイフェイスド・テナー》は「ダイアナ元妃の顔をした10ポンド札」という意味があり、本来エリザベス女王が描かれているはずの10ポンド札にダイアナ元妃の顔が印刷されている。さらに「バンク・オブ・イングランド(イングランド銀行)」の文字のところには「バンクシー・オブ・イングランド(イングランドのバンクシー)」と描かれている。この偽札は100万枚製造されたと言われており、バンクシーがフェスティバルでばら撒くという演出に使われた。

そして2019年に大英博物館の初のバンクシーコレクションとして正式に所蔵された。ちなみにこの偽札はバンクシーの作品認証機関である「ペスト・コントロール」にて、作品が本物だった際に送られる証明書にも使われている。

・かろうじて合法

画像引用:https://www.banksy.co.uk/

2006年ロサンゼルスの倉庫で行われたバンクシーにとって初となるアメリカでの大規模エキシビション「Barely Legal」。ここで展示されたのが、37歳という高齢のインド象「Tai」の全身に赤と金でペインティングした作品。まるで置物のように不自然な色で塗られてしまったが、象はちゃんと生きている。これには激しい非難を浴び、物議を醸したが事前にLAの動物愛護団体に許可をとっていたことから大きな問題にはならなかった。まさに展示のタイトル通り「Barely Legal(かろうじて合法)」だ。

この作品でバンクシーが伝えたかったことは、「Elephant in the room(部屋の中にいる象)」=「その場にいるみんなが認識しているが、あえて触れずにいる話題」という英語の慣用句を使ったメッセージ。貧困など多くの人が分かっていながらも無視し続ける問題について、目を向けないことに疑問を呈した展示だ。ちなみに、この展示でバンクシーの大ファンであるブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリー夫妻(当時)が総額20万ポンドもの作品を購入した。

・ホテル開業

画像引用:https://media.thisisgallery.com/

2017年、パレスチナのベツレヘムにイスラエル政府によって建設された分離壁の横に開業した、バンクシー監修の《The Walled off Hotel(世界一眺めの悪いホテル)》。ホテルからは分離壁とイスラエル軍の監視塔を見ることができ、パレスチナ問題について考えさせられる場所となっている。ホテルの空間を丸ごと作品とし、部屋の壁面にはイスラエル兵とパレスチナ人が枕を振り回し攻撃し合う絵が描かれている。この部屋に滞在することで現地の状況や緊張感を体感することができ、反戦や非暴力のメッセージが込められた大掛かりな作品だ。

▍バンクシーの正体は?

バンクシーの正体は一体誰なのだろうか。実は、「複数人のアーティストグループ」という一説やイギリスの音楽ユニット「マッシヴ・アタック」のメンバーであるロバート・デル・ナジャ(通称:3D)なのではないかと噂されている。2016年には、ブリストル大聖堂公立学校の元生徒だったロビン・ガニンガムという人物がバンクシーなのではないかとの説も浮上。

画像引用:http://www.cbc-net.com/

2010年のバンクシーが監督した映画『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』では、覆面姿のバンクシー本人が映されている。様々な憶測を呼ぶなか、覆面ではあるが度々姿を表しているバンクシーが一体何者なのか、未だに真相は明らかになっていない。

それはきっと彼の高いブランディング能力と、彼の作品が高く評価されることがストリートアート全体の社会的価値の向上に貢献しているからなのではないだろうか。バンクシーという人物は存在せず、一連の社会現象を生み出すために作り出された架空の存在なのではないかという説もある。

いずれにしてもバンクシーの様々な事件を見ていると芸術を前にすると人はいかに無力であり、また固定概念を取り払って寛容になれるのかと考えさせられる。

まとめ

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画像引用:https://pixabay.com/

バンクシーの作品に人々が魅了され、世界中の人々が彼のパフォーマンスに注目するのは、彼の創作活動によってアートの新しい可能性や価値観に気づくことができるからだ。彼の大胆なアイディアや制作姿勢は、いつも私たちを楽しませ、そして深く考えさせる。おかげで遠くの国で起こっている問題がまるで自分のことのように痛々しく感じることができたり、幼い頃から当たり前に思っていた習慣について疑問を持ったりすることができる。

それはアートという不確実な表現方法だからこそ、判断は見るものに委ねられ、各々の中で咀嚼されて様々な意見を出すことができるのだ。自分で出した意見には責任が伴い、議論することで問題に対してより深い理解につながる。それを生み出すバンクシーの作品は、もはや単なる芸術の域を超えている。存命するアーティストの中で彼ほどの社会的影響力がある人は他にいないだろう。

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文:ANDART編集部