1. HOME
  2. アート解説
  3. グラフィック&ストリート
  4. バンクシーを構成する作品要素とは?5分で学ぶ覆面アーティスト バンクシー
グラフィック&ストリート

バンクシーを構成する作品要素とは?5分で学ぶ覆面アーティスト バンクシー

バンクシーとは誰?何者なのか解説

・正体不明の匿名アーティスト

バンクシー(Banksy)はイギリスを拠点に活動する匿名の芸術家。イギリスのブリストル出身と言われていて、ストリートアーティストとして、世界中の壁や橋などを舞台に制作している。日本でも2019年に東京都でバンクシーの作品らしきものが見つかったと小池百合子都知事が発表し、その真贋に大きな話題が集まった。

バンクシー展が大阪で開催!フォトスポットも多数登場

出典:https://www.travel.co.jp/guide/article/45098/

バンクシーは自らの正体を明かさず、名前や生年月日、出身地までも正確な情報は発表されていない。神出鬼没で誰にも気付かれないうちに作品を描き去ることから「芸術テロリスト」とも呼ばれている。バンクシーは実は複数人のアーティストグループなのではないかという噂や、イギリスの音楽ユニット「マッシブ・アタック」のメンバーであるロバート・デル・ナジャ(通称:3D)なのではないかという噂もある。

彼が正体を隠す理由としては、その無許可で公共物にアートを残す活動スタイルが非合法的なものであることや、既存の芸術に対抗し、アートを誰もが自由に楽しむことができるようにという意味が込められているとされている。

謎に包まれたバンクシーだが、2021年3月4日に自身のウェブサイトで公開した映像の中で、バンクシーと思われる人物が実際に外壁にグラフィティ・アートを制作している姿が公開された。顔は布で隠され、背格好などもわからないが、バンクシーの制作現場を観ることができる貴重な映像だ。

バンクシーHP (https://www.banksy.co.uk/

・バンクシーの作品が持つ意味とは

バンクシーの作品は社会問題に根ざした風刺的要素の強い作品が多いことが有名だ。最近ではコロナ禍に医療従事者への敬意をテーマにした《Game Changer》や、Black Lives Matter運動に向けた作品を自身のInstagramで発表し話題となった。ちなみに《Game Changer》は2021年3月のクリスティーズ・ロンドンのオークションにて、それまでの自身のオークションレコード1位である《退化した議会》の13億円(987万9500ポンド)を大きく上回る約25億円(1675万8000ポンド)という価格で落札された。

《Game Changer》
出典:https://www.banksy.co.uk/in.asp

彼の作品はどれも非常にメッセージ性が強く、ストリートアートの場合、その作品が制作された場所や日にちまでもメッセージに結びつけて意味を持たせる。しかしバンクシー自身は作品について多く語らないため、彼の作品が発表されるたびに話題となり、その作品に込められたメッセージについて様々な考察が飛び交う。

バンクシーの作品は、戦争、貧困、難民、人種差別などあらゆる政治的問題やを扱っており、それをアートという手法で観客に強烈なインパクトを残していく。例えばバンクシーの作品ではネズミのモチーフが頻繁に登場するが、このネズミは都市から排斥された人々(ホームレスや難民、移民など)や、人目を忍んで制作活動を続けるバンクシー自身の投影であるとされている。

東京で見つかったバンクシーらしき作品
出典:https://media.thisisgallery.com/20188939

他にも大量消費社会の象徴としてミッキーマウスや、無能、無力な人間の象徴として猿など、バンクシーの作品には彼を象徴するような特徴的なモチーフが頻出する。それは例えバンクシーのサインがなくても彼の作品であると認識することができるほどだ。

また、オークションに出された作品の利益を病院に寄付することを公表するなど、彼にとってのアートは単なる表現活動ではないことが窺える。

また、バンクシーの創作活動はアート作品を制作するだけではない。有名美術館に侵入し、無断で自分の作品を展示するなどの大胆なパフォーマンスや、自身が監督を務める『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』という映画を公開したりと、その活動の幅は多岐にわたる。

・バンクシーのグラフィティ・アート

Banksy - God bless Birmingham

《God bless Birmingham》
出典:http://amass.jp/129055/

バンクシーの作品のうち、最も有名なのはグラフィティ・アートだろう。専らステンシルアートと呼ばれる手法を用いて制作する。ステンシルアートとは、型紙の上からスプレーなどの塗料を吹きかけて絵や文字を描く方法だ。バンクシーの場合、夜などの人目につかない時間に素早く作品を完成させる必要があるため、早く正確に描くことができるステンシルアートの手法が定着した。

ストリートアートの多くは落書きとみなされ、バンクシーの作品でさえも消されてしまうことが多い。また、壁に描かれた絵の所有権や著作権、盗難などの問題はたびたび議論されるところだ。しかしバンクシーの作品は発表されるたびに大きな話題になり、観光地となっているものもあることから、価値ある作品として保護される傾向にある。バンクシーのおかげでストリートアートが社会的に認められ、文化遺産となる将来も近いかもしれない。

バンクシーの代表作品6

《風船と少女》

※1:2002年にウォータールー橋に描かれた『風船少女』(2004年撮影)

出典:https://www.artpedia.asia/balloon-girl/

バンクシーの中でも最も人気のある作品の一つである《風船と少女》シリーズ。赤いハート型の風船に手を伸ばす少女は愛や希望を表している。このシリーズは世界各地で描かれていて、その土地によって少しずつパターンを変え、様々な意味を持つ。

また、2018年10月5日のオークションハウス「サザビーズ」に出品された《風船と少女》がシュレッダーで細断され、世界中のメディアで取り上げられ大変話題になったことはご存知のことだろう。このことは日本でバンクシーの名前が広く知られるようきっかけにもなった。これ対しバンクシーは「アートは、一部の富裕層が所有したり、金融商品のように売買したりするものではない」と表明し、この《風船と少女》は《愛はゴミ箱の中に》と改称された。

《愛は空中に》

出典:https://www.banksy.co.uk/in.asp

2003年にパレスチナで発表された作品。覆面の男が火炎瓶を投げる手に花束を持たせ、戦争やテロに対するアンチテーゼを表現している。黒で描かれた人物とは対照的にカラフルに明るい色彩で描かれた花束には、愛や希望といったポジティブなイメージを連想させる。これはベツレヘムの壁面に描かれたパレスチナ問題に言及した作品で、男がイスラエル側に花を投げ込もうとしているような角度で描かれている。バンクシーはパレスチナ問題を扱った作品を多く残していて、他にも2017年にベツレヘム市を囲む分離壁の横に開業した《世界一眺めの悪いホテル》が代表的だ。

《SHOW ME THE MONET》

出典:https://www.suiha.co.jp/column/banksygaegaitamonenosuiren/

2005年に発表されたバンクシーの作品の中でも珍しい完全に手書きの作品。クロード・モネの絵画《睡蓮の池》を再構成し、風景画の中に投げやりに捨てられた買い物カートや三角コーンなどの不法廃棄物を描くことで、環境問題や資本主義に対する批判がうかがえる。作品名は「モネ」と「マネー」をかけた挑発的な駄洒落。

《奴隷労働》

出典:https://media.thisisgallery.com/works/banksy_09

2012年ロンドンオリンピックの抗議として発表された作品。この作品はすぐに壁のオーナーによって剥ぎ取られ、オークションにて《奴隷労働》というタイトルがつけられ出品されるも、地元住民に反対され出品が取りやめられる。しかしその後も作品が元の位置に戻ることはなく、再びオークションにかけられ売却された。このことから、この作品はストリートアートの所有権や、違法性の問題について考えさせられるものとなった。資本主義に対するアンチテーゼを表現したバンクシーにとっては皮肉な結果となってしまった。

《パルプ・フィクション》

※1:バンクシー《パルプ・フィクション》

出典:https://www.artpedia.asia/pulp-fiction/

2002年から2007年にロンドンのオールド・ストリート駅近郊の壁に制作されたグラフィティシリーズ。1994年クエンティン・タランティーノ監督の作品『パルプ・フィクション』に出演したサミュエル・L・ジャクソンとジョン・トラボルタが演じたキャラクターを描いたものであるが、2人が構える拳銃はバナナに置き換えられている。非常に人気のある作品だったが、ロンドン交通局によって消去された。しかし、バンクシーはその後同じ場所に今度はバナナの服を着た2人が拳銃を構えたユニークな《パルプ・フィクション》を描いた。まるでこうなることを予想していたかのようなバンクシーの見事な応酬により、この作品はさらに人気のものとなった。

《BOMB LOVE》

※1:バンクシー《爆弾愛》

出典:https://www.artpedia.asia/bomb-hugger/

2004年にロンドンで描かれた作品。少女がまるでぬいぐるみを抱くような穏やかな表情で自分の背丈ほどもある爆弾を抱えた様子を描いたものだ。恐ろしい戦争の道具と無邪気に微笑む少女という対照的なものを抱き合わせることで、戦争や暴力の愚かさを表現している。背景を明るいピンクに塗ることで、人物を強調するとともに、重く暗い戦争と対比していると考えられる。

「バンクシー×キング・ロボ対決」

出典:https://www.artfido.com/banksy-vs-king-robbo-street-art-vs-graffiti/

バンクシーの作品ではないが、彼のアート活動を語る上で欠かせない対決がある。その中でも有名な作品は、同じくロンドンストリートアートのパイオニアであるキング・ロボがロンドンのカムデン運河にあるトンネル内に描いた作品だ。これをバンクシーが上から塗りつぶし、元々の絵をまるで壁紙かのように人物を描き足したのが対決の始まり。そこから様々な描き足し、塗り替えが行われた。キング・ロボの死後も「Team Robbo」と名乗るグループがバンクシーの作品を破壊している。

日本でバンクシーの作品を見る

バンクシー展 天才か反逆者か

出典:https://banksyexhibition.jp/

バンクシーの作品を過去最大級の規模で日本に集結させた展覧会「バンクシー展 天才か反逆者か」が2020年から2021年にかけて開催された。

渋谷フクラス内東急プラザ渋谷2Fにある「世界一小さな美術館@GMOデジタル・ハチ公」で日本初公開の作品を含むバンクシーの代表的な3作品が展示中(2021年9月5日〜)。入場料300円で気軽に鑑賞できるのが魅力。

まとめ

《自転車のタイヤでフラフープをする少女》
出典:https://www.banksy.co.uk/out.asp

正体不明の匿名アーティストであるバンクシー。やっていることは犯罪であり決して褒められたものではないが、彼が世界中から受け入れられ、愛されるのは彼が誰より芸術の可能性を信じ、常に新しいインスピレーションを我々に与えてくれるからだとも言えるだろう。

彼の作品はいつでも弱い者の味方で、メッセージ性が伝わりやすい作品であることも人気の理由だ。まるでアニメの中のヒーローのようなアーティストと同じ時代を生きることができていることはとても幸せなことなのかもしれない。

現代アートにおいてストリートアートは非常に重要な意味を持ち、その地域にネガティブな影響を与えることもあるが、適切な場所に描かれたものは地域活性化などポジティブな影響を与えて市民権を得る作品も多い。バンクシーの作品に認められることは、今後のストリートアートがポジティブなベクトルで発展することに大きく貢献することになるだろう。


ANDARTではバンクシーの《BOMB LOVE》《Sale Ends (v.2)》《Jack and Jill (Police Kids)》などを含む8作品を取り扱い中。気になる方は【取り扱い作品一覧】からご覧ください。
ANDARTは無料会員登録で最新のオークション情報やアートニュースをお届けしています。

文:ANDART編集部