
匿名ストリートアーティスト・バンクシーはどうやって稼いでいる?5つのポイントで分かるバンクシーのビジネス
イギリス・ブリストルが拠点とされるストリートアーティスト、バンクシー。1990年代のアートシーンに登場して以来、その正体を明かすことなく、アイコンであるネズミや猿などのモチーフを使って政治的なメッセージを作品にのせて世界各地で発信している。

《Flower Thrower》
画像引用:https://www.theartnewspaper.com/
ストリートアートは、基本的には公共物に無断でペイントする迷惑行為および犯罪行為とされているため、バンクシーの作品も行政に消されてしまった事例も多数。しかし、人気が高まるにつれて、壁面の作品が取り除かれて販売されるケースが増加している。バンクシーは決してそれらを販売用に制作していないにも関わらず、だ。
不動産のオーナーやバンクシーの作品の写真を販売する写真家、バンクシーのスタイルを模倣する者など大勢の人々がバンクシーの人気に便乗して利益を得ているが、もちろんそれらの売り上げはバンクシーの手元には入らない。では、バンクシーは一体どうやって利益を得ているのだろうか?謎が多いバンクシーのビジネスをいくつかのポイントをもとに整理したい。
バンクシーのビジネスが分かる5つのポイント:4W1H
・What(何を売っている?):エディション作品
バンクシーは壁面の作品を使ったステンシルやシルクスクリーン、リトグラフなどのエディション作品(限定した部数で版元から販売される版画のこと)を販売することで収入を得ている。
部数はその作品によってまちまちだが、サインあり・なし含めて大体50〜600部で制作される。同じモチーフを使用していても、サインと連番の有無で価値と値段が変わるのがエディションの特徴。
・Where(どこで売っている?):ペストコントロール
「ペストコントロール」とは、ストリートで描かれたもの以外のバンクシー作品の真偽を認証・保証する機関のこと。これは数えきれない数の模倣品が市場に溢れかえってしまったため、コレクター達が詐欺被害に遭わないようにと、2008年にバンクシーが設立したもの。現在ではペストコントロールがバンクシーのプライマリー作品(※)を販売する唯一の機関である。
※プライマリー作品とは・・・アート作品が最初に世に出る第一次市場のことをプライマリーマーケットと言い、そこで販売される作品をプライマリー作品と呼ぶ。一般的にギャラリーや個展、百貨店などがプライマリーマーケットを構成している。
これに対してセカンダリーマーケットは、すでに販売されて一度誰かの手に渡ったセカンダリー作品が売買される第二次市場のこと。主にオークションを中心に回っている。

2020年からデザインが変わったCoA(Certificate of Authenticityの略)
画像引用:https://theartofbanksy.jp/
以前はPOW(Pictures On Walls)と呼ばれるロンドンのストリートアーティストのプリント作品を取り扱うオンラインサイトで販売していたが、2018年に閉鎖。POWでは代表作品の《Girl With Balloon》や《Sale Ends》などのプリント作品を扱っていた。

《Girl With Balloon》(2004年)
画像引用:http://www.picturesonwalls.com/

《Sale Ends》(2017年)
画像引用:http://www.picturesonwalls.com/
・Why?(なぜ?):バンクシーは一般的なアーティストではない
一般的なアーティストは、作品を販売するためにギャラリーなどで個展を開いたり、アートフェアなどに作品を出品したりする方法をとるのが定番。バンクシーがペストコントロールを唯一の販売チャネルにしている理由は、バンクシーがどのギャラリーや組織にも所属せず、販売もギャラリーを通して一切行わないからである。
このギャラリーに所属しなかったことは、バンクシーの独自性と希少性を高め、バンクシーを成功に導いたマネージメントのひとつだとも言われている。
・How much(いくらで?):市場価格より安く
POWで販売していたサイン入りのエディションは$20,000〜$40,000(約220〜440万円)、サイン・ナンバー無しのポスターは$500〜$1500(約55,000〜16万円)ほどの価格設定だった。
最近のオークションでは、ネズミのステンシル作品が5000万円を超える値段で落札されたことを見ると、いかにこの設定が安価だったかが分かる。
知名度、人気度が成熟した近年の世界中のバンクシー熱を考えれば、今後新たな作品がペストコントロールで販売される時は、おそらくこのような価格設定にはならないだろう。しかし、それと比例してバンクシーの作品の市場価値は更に上がっていくことが予想される。

《Gangsta Rat Peace》(2007年)
画像引用:https://www.phillips.com/
・When(次のリリースはいつ?):未定
イギリス・ブリストルのアートディーラーによると、2010年から2017年の間バンクシーはサイン入りエディション作品の販売をしていなかったそうだ。7年もの空いた期間から分かるように、バンクシーの新作販売頻度は低く、活発的には販売をしない。ペストコントロールにも「There is currently something/ nothing available.(現在取扱い作品はありません)」とある。

画像引用:https://pestcontroloffice.com/index.asp (2021年7月14日現在)
番外編
Others(その他):書籍と映画
バンクシーはこれまでに、作品以外のリソースからも莫大な利益をあげている。それは自身の著書『Wall and Piece』とドキュメンタリー映画『Exit Through the Gift Shop』である。
『Wall and Piece』の収益は不明だが、作品の写真やバンクシー本人が執筆したメッセージも含まれており、数年もの間アートカテゴリーでベストセラーを記録。日本語訳版も出版されているので、バンクシーファンは必読の一冊だ。

『Wall and Piece』(2005年)
画像引用:https://www.amazon.co.jp/
バンクシーが監督を務めた『Exit Through the Gift Shop』は、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされ、その他アメリカやイギリスなどで12もの映画賞を受賞。興行収入は、$5,308,618(約5,864万円)を記録し、バンクシーの映画監督としての才能を確立させた作品である。

『Exit Through the Gift Shop』(2010年)
画像引用:https://theartofbanksy.jp/
以上の4W1Hから分かるように、バンクシーの作品は購入できる機会がなかなか無い。更に作品の発表の場がストリートでセンセーショナルであること、そして、そこに含まれた時事性や政治性などのメッセージに人々は注目せざるを得ない。出版した書籍はベストセラー、初監督作品の映画も数々の映画賞を受賞するなど、クリエイティブな才能が抜きん出ているバンクシーは、アーティストであると同時にセルフマネージメントも優れている人物だと言えるだろう。
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出典
Loney Abrams, Artspace, “How Does Banksy Make Money? (Or, A Quick Lesson in Art Market Economics)”
https://www.artspace.com/magazine/art_101/close_look/how-does-banksy-make-money-or-a-lesson-in-art-market-economics-55352 (2020年7月14日)
Joseph Laws, Mail Online, “How DOES Banksy earn his money? Secretive artist is thought to make millions a year through book and film royalties and selling his work through an agency”
文:ANDART編集部