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この絵どこかでみたことない?バンクシー《HMV》作品解説

イギリスのストリートアーティスト・バンクシー。正体不明の人物像と世界各地のストリートを舞台に神出鬼没な作品発表スタイルで世界的人気・知名度を誇る。政治的で皮肉なメッセージを込めて制作するバンクシーの作品の中には、数々の映画や絵画、アーティストなどをオマージュしたものが存在する。本記事は、ある犬をメインにしたロゴをオマージュした作品《HMV》を解説。

バンクシー《HMV》の意味

この作品は、大手レコード会社のロゴにも使われている犬のニッパーと蓄音機の絵画のオマージュ作品。「HMV」とはモチーフとなった絵画の題名「His Master’s Voice」の略。蓄音機からはこの犬の主人の声が流れており、そこに耳を傾ける犬にバズーカを持たせることで支配への反抗心や、音楽業界などで大量生産する大手企業によって作り出される「文化の主流」に対するアンチテーゼなどの意味を含んでいる。

また、この作品は若年層と老年層のコントラストも表しているとも言われている。作品中の蓄音機は古い物の象徴として過去の世代の保守主義を現し、それを犬はバズーカをもって破壊しようとしている様を描いているという解釈もある。

誰もが知っている絵画をモチーフに使うことで、キャッチーで可愛らしい作品という印象を抱くが、一見おとなしく無垢な犬が見せる獰猛さは、バンクシーが度々描く挑発するネズミのモチーフなどにも通じるものがある。社会に対する批判やブラックユーモアが込められたバンクシーらしい作品であると言える。

《HMV》の原画はどこにある?

《HMV》原画 画像引用:https://news.infoseek.co.jp/article/gotrip_101071/

バンクシーの《HMV》は、2000年代初頭にさまざまなサイズの絵画に登場し、その後2003年にプリント作品としてリリースされた。

この作品の原画は2000年初頭にイギリス・ロンドンにあるナイトクラブ「カーゴ(Cargo)」のガーデン・エリアに描かれた。この庭ではあらゆる壁中にグラフィックアートが描かれているが、バンクシーの作品は《HMV》と《グラフィティ・エリア》の2点。この2作は盗まれたり、上から落書きされないように透明のパネルで保護されている。

《グラフィティ・エリア》には警備員と犬(プードル)のモチーフが描かれており、「英国道路庁の命により、この壁はグラフィティ専用のエリアです。ゴミはお持ち帰りください」という表記が添えられている。

《グラフィティ・エリア》原画 
画像引用:https://news.infoseek.co.jp/article/gotrip_101071/

バンクシーの作品は話題性があり、高価なことからストリート上で他者からの攻撃を受けずに残し続けることは非常に難しい。バンクシーが自身のオンラインギャラリーとも言える存在であったPOWこと「Pictures on Walls」から販売されていたシルクスクリーン作品の中で、現在オリジナルグラフィティがストリート上にまともな形で残っているのは《HMV》のみであり、その意味でも大変貴重なモチーフである。

ビクターの犬「ニッパー」の由来

1884年に、イギリスに生まれたニッパーは、風景画家であったマーク・ヘンリー・バロウドの元で暮らしていた。いつも来客の脚を噛もうとする癖から、「nip=噛む」でニッパー(Nipper)と名付けられたとか。3年後の1887年にマークが病死してしまったため、その後は弟の画家・フランシスに引き取られる。

ある日、フランシスがたまたま家にあったフォノグラフ(円筒型の蓄音機)に吹き込まれていた兄・マークの声をニッパーに聞かせてみると、ニッパーは不思議そうに蓄音機を覗き込み、かつての主人の声を熱心に聞いているかのようにその場に佇んでいたそう。その姿にピンときたフランシスが描き上げた一枚の絵が、長く人々に親しまれているビクターのマーク「ニッパー」の始まりである。

フォノグラフ(円筒型の蓄音機)を覗き込むニッパー
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

1895年にニッパーが亡くなった後、フランシスはグラモフォン(円盤型蓄音機)の製造・販売会社であるベルリーナ・グラモフォン社の社長に「蓄音機をグラモフォンに変えるなら絵を買う」と誘われ、蓄音機を円筒型から円盤型に描きかえて、1900年に商標登録。この際、作品に《His Masters Voice(彼の主人の声)》というタイトルをつけた。

グラモフォン(円盤型蓄音機)に描きかえた作品
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

バンクシーのプリント作品の市場性

通常シルクスクリーンなどで制作するプリント作品は、量の多さから価格が上がりづらいケースが多いが、バンクシーの場合はそれに当てはまらない。2003年当時、100ポンドだったプリント作品が2020年には85,000ポンドで落札されるなど、近年価格高騰を見せている。それはなぜだろうか?

バンクシーのプライマリー作品は、現在では公式の認証機関である「ペストコントロール」でしか手に入らない上に、出回る機会が非常に少ないため、バンクシーの作品を購入できるメインの市場がセカンダリーとなっている。しかも、バンクシーはプライマリーで販売した作品に意図的に証明書をつけず、セカンダリーへ循環するスピードをコントロールすることがある。オークションハウスは証明書がついていない作品を扱えないことから、ようやく証明書が付いて出品されるとなると、自然と供給に対して需要が爆発的に上回り、価格がさらに高騰するということだ。

一方で、作品をコピーして違法に販売する業者などが数多く存在している。バンクシーがペストコントロールを設立したのも「罪のないコレクターが被害に遭わないように」という理由から。それも言い換えてしまえば、バンクシーがいかに人気者であるかを物語っているとも表せるのだが、とにかくペストコントロールが発行した証明書がついていないものに、安易に手を伸ばすのは要注意だ。

詳しくは「なぜバンクシーのプリント作品は高値で売れるのか。独特なマーケット管理の仕組みを解説」を読む

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文:ANDART編集部