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杉本博司とは? 写真で物事の本質に迫る、日本の代表的現代アーティストを解説

杉本博司とは?

1948年東京生まれ、ニューヨーク在住の写真家・現代美術家。1970年に立教大学経済学部を卒業後、渡米しロサンゼルスのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインで写真を学ぶ。1974年に卒業後ニューヨークに移住。代表的なシリーズである《ジオラマ》や《劇場》《海景》が70年代後半以降生み出された。杉本の作品は1960年代にから世界的に活発になっていった前衛芸術運動「コンセプチュアル・アート」の影響を受けており、作品の視覚的な効果で表現するよりも、コンセプトや哲学に重きを置いた作品を多く制作している。

ヴェルサイユ宮殿で杉本博司展が開幕、多彩な創作が歴史ある地と結びつく。

画像引用:https://www.pen-online.jp

杉本の活動は国内外で高く評価され、2001年にハッセルブラッド国際写真賞、2009年に高松宮殿下記念世界文化賞、2010年に紫綬褒章、2013年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを受賞し、2017年には文化功労者に選出されている。

また、2018年にはフランスのヴェルサイユ宮殿にて年に1回のペースで行われている展覧会の招聘作家に選ばれ、個展『SUGIMOTO VERSAILLES Surface of Revolution』を開催するなど、世界を代表する日本人アーティストとして活動している。

2020年に京都市京セラ美術館の新館開館記念として個展『杉本博司 瑠璃の浄土』が開催され、また同年に森美術館で行われたグループ展『STARS展:現代美術のスターたち ― 日本から世界へ』では草間彌生や奈良美智、村上隆と並んで日本を代表する現代アーティストとして紹介された。

画像引用:https://udoyoshi.com

また、杉本は写真や現代美術だけでなく、建築、設計、伝統芸能、造園、古美術など幅広く文化活動に貢献するという多才ぶり。NHKが2021年2月から放送する大河ドラマ『青天を衝け』では題字も手がけている。

杉本博司の代表作品5選

《ジオラマ》

Polar Bear, 1976

《Polar Bear, 1976》 画像引用:https://www.sugimotohiroshi.com

杉本の制作の原点とも言えるシリーズ。1976年よりアメリカ自然史博物館に展示されている古代風景のジオラマを撮影し、あたかも現実かのように見せる作品。モノクロの濃淡だけで表現された写真はじっくりみてもジオラマと現実世界の区別が難しいほど精巧だ。

《劇場》

Carpenter Center, 1993

《Carpenter Center, 1993》 画像引用:https://www.sugimotohiroshi.com

アメリカ各地のドライブインシアターや古い劇場で撮影するシリーズ作品。映画が一本上映されている間カメラを露光し続けることで映画が上映されていたスクリーンは真っ白に映る。「時間の表象」をコンセプトに、現実世界の一瞬を写し出すという写真作品の固定概念を覆し、時間の中にある物語を一枚の写真の中に表現している。

《ポートレート》

Anne of Cleves, 1999

《Anne of Cleves, 1999》画像引用:https://www.sugimotohiroshi.com

「マダム・タッソー蝋人形館」に展示されている偉人や有名人たちの蝋人形を撮影し、16世紀の肖像画のように表現した作品。「ジオラマ」シリーズと同じく、生命のないものを撮影し、現実世界の生きている人間を撮影したかのように見せる作品シリーズ。

《陰翳礼讃》

In Praise of Shadow 980727, 1998

《In Praise of Shadow 980727, 1998》画像引用:https://www.sugimotohiroshi.com

「蝋燭の一生」をテーマに、暗闇で蝋燭が灯されてから消えるまでカメラを露光し続けて撮影された作品。出来上がった作品には蝋燭の火が激しく燃え上がるようなものから、一本筋が通ったように灯されたものまで様々で、同じ蝋燭といえどもその命に個性を感じる作品だ。

《蝋人形/恐怖の館》

The Electric Chair, 1994

《The Electric Chair, 1994》 画像引用:https://www.sugimotohiroshi.com

古代、人間にとって必ずしも「死」は恐怖の対象ではなかったという考えのもと制作されたシリーズ。マダムタッソー蝋人形館に展示されていたルイ16世とマリーアントワネット王妃の首を刎ねたギロチンの刃や、リンドバーク子弟誘拐犯を処刑した電気椅子を現場証人視点で写真に収め、現代人にも古代人と同じように死を直視する機会を与える作品。

杉本博司の海景作品シリーズ

《日本海 隠岐 V》画像引用:https://and-art.jp

《海景》は1980年ごろに発表され、これを機に杉本博司の名声は決定的なものとなった。世界各地の水平線を上下均等な構図で撮影したシリーズ作品で、画面上部に空を、下部に海をグレースケールで映し出し、空と海以外なにもない海景はミニマルアートの平面的な表現としても読み取れる。

「古代人が見ていた風景を現代人も見ることは可能なのか」という問いが発端となって生まれた海景シリーズは、特定の場所で撮影され、具体的な場所の名前がタイトルになっているものの、きわめて抽象化・普遍化された作風が特徴的である。

ANDARTではこの《海景》シリーズの一つである《日本海 隠岐 V》を取り扱っている。

杉本博司は建築の設計やデザインも手掛ける

新素材研究所

個人邸「浮き壺」画像引用:https://shinsoken.jp

新素材研究所は現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之によって、2008年に設立された建築設計事務所。ここでは古代から用いられてきた素材や技術を研究し、それらの再解釈、再興、伝承に取り組んでいる。過去の作品は個人邸から美術館の展示まで様々で、杉本による空間プロデュース作品ともいえよう。主に日本とアメリカで制作が行われている。

https://shinsoken.jp/

江の浦測候所

画像引用:https://around-tokyo.jp

杉本は小田原を日本文化を世界に発信する地とするべく2009年に公益財団法人小田原文化財団を設立した。そして10年にわたって杉本が構想し、さらに10年をかけて新素材研究所と小田原文化財団によって設計・建築された『江之浦測候所』が2017年に開館。江の浦測候所の施設はギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門、待合棟などから構成され、自然あふれる緑と海に囲まれて伝統的な工法かつ洗練されたデザインの建築や杉本の常設展示を鑑賞することができる。

自分だけの時間が過ごせるようにと、江の浦測候所では完全予約、定員制を設けている。

https://www.odawara-af.com/ja/enoura/

杉本博司の作品に触れる

『護王神社』

正面より拝殿を超えて本殿を望む。

画像引用:https://www.sugimotohiroshi.com

香川県にあるアートの島として知られる直島の「家プロジェクト」の一環として、杉本博司によって設計して再建された護王神社。こちらの本殿と拝殿は実際に参拝することができる。設計にあたり杉本は従来の神社建築の形式にとらわれず、日本人の古代の神々への信仰を想像上で再現しつつも、ガラスを使った光の階段や、コンクリート製の通路やトンネルなどを設置して神秘的な世界観を作りだした。現代においても自然に宿る神々の存在を無意識的に感じられるような空間になっている。

作品情報 https://setouchi-artfest.jp/artworks-artists/artworks/naoshima/6.html

レストラン『素透撫 stove』

画像引用:https://www.fashion-headline.com

文人画家の小林勇の旧邸冬青庵を鎌倉から山梨県北杜市の丘の上に移築し、新素材研究所が内装設計を手がけたレストラン。店名の『素透撫』は杉本が「素材が透明になるまで撫でるように慈しむ」というイメージで命名した。店内には杉本の写真作品も展示されている。隣接する清春芸術村には同じく新素材研究所が建築設計を務めるゲストハウス『和心』がある。

素透撫 stove http://www.stove-kiyoharu.com/

『OPTICS』

画像引用:https://www.gallerykoyanagi.com

現在東京都銀座にあり、自身が所属する「ギャラリー小柳」にて杉本の個展『OPTICS』が開催されている。ここでは昨年京都市京セラ美術館で発表された大判カラー作品「Opticks」シリーズから4点を展示している。モノクロ写真で知られる杉本にとって初の試みである「光を絵の具として使った」本作の鑑賞は非常に貴重な機会となるだろう。

ギャラリー小柳 https://www.gallerykoyanagi.com/

※この展示は現在終了しております。

オーク表参道《究竟頂》

画像引用:https://www.fashion-headline.com

2013年に表参道にオープンした複合施設「オーク表参道」のエントランスには杉本の全長6メートルの彫刻作品《究竟頂》が設置されており、空間そのものをアートとしている。究竟頂(くっきょうちょう)とは金閣寺の最上層部で、究極の極楽浄土をあらわしたもの。この彫刻は無限点を視覚化するというテーマで制作され、現実には作り出せない無限点を鑑賞者が想像することで存在させるという表現。

オーク表参道 http://oakomotesando.com/

杉本博司のオーナー権を購入

ANDARTでは杉本博司の作品を取り扱っている。オーナー権とは各アート作品の価格からANDARTが数量限定で発行し、優待を受けられる会員権のこと。ANDARTでは杉本のようなアーティストの作品も、“シェアする”という形で気軽にコレクションすることができる。そして価値が上がったアート作品のオーナー権はサービス内で簡単に売買することができ、そこで利益を得ることができる可能性もある。真贋の判断が難しい作品もこういったサービスを通すことで安心して所有することができる。

また、オーナーには特典や優待イベントなどもあるので、デジタル上で手軽にアートコレクションしたい人や部屋に作品を置くスペースがない人、アートのオーナー権を投資感覚で売買してみたい方などはぜひ利用して欲しい。

まとめ

頭脳で価値を生成せよと、新しい写真の神は告げている。アーティスト・杉本博司【連載】ビジョナリーズ(3)

画像引用:https://finders.me

日本を代表する写真家というイメージが強い杉本だが、建築設計や彫刻、舞台芸術なども手がけるなど幅広く精力的に文化的活動を行なっていることがよくわかる。彼の作品は一貫して彼が日々考察しているであろう哲学が反映されており、また杉本自身が長く海外で活動していたからこそ気付く、日本の失われつつある伝統の素晴らしさを再確認させてくれる作品ばかりだ。杉本の写真や建築作品は、その背景やコンセプトを知るだけで鑑賞の仕方がガラッと変わるのもまた彼の作品の面白いところだ。いつまでも新しいジャンルに挑戦し続ける杉本の活動にこれからも目が離せない。