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芸術とは何か?ダミアン・ハーストの物議を醸した5つの作品を解説

ダミアン・ハーストは、1965年イギリス・ブリストル出身の現代美術家、実業家、アートコレクター。1990年代のイギリスで頭角を現した作家グループ「ヤング・ブリティッシュ・アーティスト(YBAs)」の代表的な人物の一人。1988年にYBAsが開催したグループ展「Freeze」にて、イギリスの著名コレクターのチャールズ・サーチに見出されたことをきっかけに、現在の美術界で高い評価を得ている。

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出典:https://www.theguardian.com/

「死」を制作の中心的なテーマに据えるハーストの作品群には過激なものが多く存在し、発表する度に批判を受けることもしばしば。そんな悪名高きハーストのこれまでに物議を醸してきた作品を5つ紹介(記事内は1ポンド=160円、1ドル=130円で計算)。

1:「ホルマリン漬け」シリーズ

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《The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living》(1991)
出典:http://magazine.art21.org/

ハーストの最も有名であり、最も物議を醸したと言える死んだ動物をホルマリン漬けにした作品シリーズの一つ。1992年にサーチ・ギャラリーで展示された《The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living》(生者の心における死の物理的な不可能性)は、死んだイタチザメをホルマリン漬けにしたもので、動物愛護団体や多くのアート関係者から批判を浴びた。また、ロンドンのあるギャラリーが、ハーストの作品はエディ・サンダーというアーティストが制作したサメの作品を模倣していると抗議し、予想外の理由でも大きな反響を呼んだ。

多くの批判を浴びながらも、これはハーストが初めてターナー賞(国立の美術館「TATE」が組織する賞。50歳以下のイギリス人・イギリス在住の顕著な活躍をしている美術家に毎年贈られる)の候補になった作品でもある。その年の受賞は逃すものの、1995年に縦二つに切断された牛と子牛をホルマリン漬けにした《Mother and Child(Divided)》(母と子(分断されて)で受賞する。まさに賛否両論を集める作品といえるだろう。

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《Mother and Child(Devided)》(1993)
出典:https://www.tate.org.uk/

2:《For the Love of God》(2007)

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出典:https://news.artnet.com/

18世紀ヨーロッパ人の頭蓋骨を鋳造し、8,601個のダイヤモンドを散りばめた作品(日本語で「神の愛のために」)。頭蓋骨の前面には52.4カラットのピンクのダイヤモンドがはめられていて、歯はハーストが購入した本物の歯である。ダイヤモンドは「生命」、ドクロが「死」で、直接的に「メメント・モリ」(ラテン語で「なんじは死を覚悟せよ」といった意味の警句。人間の欠陥やあやまちを思い出させるものとして、芸術作品のモチーフとして広く用いられている)を表現した作品。また、これもイタチザメの作品同様、他のアーティストの模倣だと非難を受けた。

ハーストは当初5,000万ポンド(約75億円)を提示して売りに出し、多くの人は売名行為だと批判。この作品は、2007年に1億ドル(約130億円)で投資家グループに売却されたと報じられていたが、2022年1月に実は売却されていなかったことと、現在もハーストとホワイトキューブ・ギャラリーが所有していることをハーストがインタビューで認めている。

3:《Miraculous Journey》(2018)

ダミアン・ハースト

出典:https://news.artnet.com/

受胎から出産までの「Miraculous Journey(奇跡の旅)」を14体のブロンズ彫刻で描き、高さ14メートルの新生児像で完結する作品。これはカタールのドーハにある女性・子ども医療研究センターの外に設置されているパブリックアートで、カタール国立博物館の会長でコレクターのシェイカ・アル・マサーヤから依頼を受けて制作された。この作品は元々2013年に公開されたが、イスラム教徒が大多数を占める国でのヌードの描写が議論を呼んだため、5年間覆われた後の2018年、中東で初めての裸の彫刻として再度公開された。

ダミアン・ハースト

出典:https://whatodoha.wordpress.com

シェイカ・アル・マヤーサは、批判に対して、「このような作品を持つことは、多くのヌードを持つことより大胆なことではありません。コーランには、誕生の奇跡についての一節があります。これは私たちの文化や宗教に反するものではありません」と語っている。

4:《Treasures from the Wreck of the Unbelievable》(2017)

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出典:https://decodethe.art/

2018年にイタリアで開催した展覧会《Treasures from the Wreck of the Unbelievable》(「難破船アンビリーバブル号の宝物」)は、制作に10年、6,500万ドル(約85億円)の費用がかかった史上最大級の個展である。本展は、スキューバダイバーが10年かけてこの難破船から作品を発掘し、解放奴隷である「Cif Amotan II(シフ・アモタンII / I am fictionのアナグラム)」が所有していたという説明でスタートする。信じ込んだ来場者は、珊瑚が付着したままの石像などを見ていくにつれ、どこまでが本当に発掘されたものなのか混乱してしまうような展示内容。ハーストは、今回のスキューバダイビングのプロジェクトを収録したドキュメンタリーも発表するという手の込んだ仕掛けをしていた。もちろん、このドキュメンタリーも全てフィクションである。

ダミアン・ハースト

出典:https://www.floornature.com/

これが「アートと称したコメディショーで来場者をだました」と非難され、批評家たちからも酷評を受けることになった。これに対しハーストは「アーティストとして望むべきことは、人々が議論し、様々な評価を下すことだ」と述べている。

5:「スポット・ペインティング」シリーズ

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《Biotin-Propranolol Analog》(1995)
出典:https://www.sothebys.com/

ハーストを象徴する代表作シリーズでもある「スポット・ペインティング(Spot Painting)」は、覚醒剤の錠剤をイメージしたドットを全て違う色でペイントしたもの。ホルマリン漬けや骸骨の作品に比べると、嫌悪感を与えたり、激しい議論が生じたりすることはなさそうにも見えるが、他の作品とは少し違った理由から独自の批判を受けている。

この「スポット・ペインティング」シリーズは1,400点以上現存しているが、ハーストが自ら描いたのは25点ほどで、残りはアシスタントチームが完成させたと言われている。つまり、アーティスト本人が物理的に作品を制作していないことに対して批判が集まったということだ。

しかし、多くのアーティストはアシスタントを抱えているのが一般的で、その代表的ともいえる人物がアンディ・ウォーホルだ。ウォーホルはスタジオ「ファクトリー」でスタッフたちに指示を出し、共同作業をしていたことで知られている。物理的にではなく、最終的に完成される作品とウォーホルを「概念的」に繋げることにより、アーティストであることの定義を変えたのだ。

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作業するアンディ・ウォーホル(右)とスタッフ
出典:https://matthewmarks.com/

ハーストは「すべてのスポット・ペインティングには、私の目、私の手、そして私の心が含まれている」と主張。創造することとは「芸術の実行」ではなく「構想」であるとも言えるだろう。ハーストは「死」をテーマに、一貫して「芸術とは何か?」を鑑賞者に問いかけ続ける。


2022年7月5日、ハーストの最新作「桜」シリーズより《Honesty (The Virtues, H9-5)》を発売開始しました! 他には「スポット・ペインティング」シリーズから《M-Fluorobenzylamine》を取り扱い中です。気になる方は画像をタップしてご覧ください。

《M-Fluorobenzylamine》
《Honesty (The Virtues, H9-5)》

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文:ANDART編集部