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「オリジナル」とは何か? NFT化されたアンディ・ウォーホル作品によってあぶりだされたもの

アンディ・ウォーホルが1980年代半ばに制作し、そのデータを2014年に旧式のフロッピーディスクから復元したNFT作品5点が、オークションで販売され話題となった。2021年5月27日にクリスティーズのオンライン・オークションで競売にかけられた5点の総落札額は3.4百万米国ドル(約3.7億円)。

ところが、そのNFT作品の信憑性について、復元に携わったアーティストが疑問を投げかけている。これを報じた海外メディアの記事および、その問題を指摘しているGolan Levin氏のツイートを参照しつつ、ウォーホルの思想を振り返りながらどこまでがアーティストによる”作品”と呼べるのかを考えていきたい。

Andy Warhol, Untitled (Campbell’s Soup Can) (ca. 1985k, minted as an NFT in 2021). ©The Andy Warhol Foundation. 画像引用:https://news.artnet.com/
Andy Warhol, Untitled (Campbell’s Soup Can) (ca. 1985k, minted as an NFT in 2021). ©The Andy Warhol Foundation. 画像引用:https://news.artnet.com/

▍出品されたアンディ・ウォーホル作品のNFTとは?

今回出品されたのは、1980年代半ばにウォーホルがコモドール社のパソコンを使い、ProPaintという未発売のコンピュータソフトウェアで作成したデジタル画像だ。現代のコンピュータでは読むことができないデジタルファイルとしてしか存在しなかった作品だが、旧式のフロッピーディスクに残されたそのデータから、2014年に復元が試みられた。

復元された5つのデータは、「花」「キャンベルのスープ缶」「バナナ」そして2つの「自画像」と、それぞれにウォーホル作品の代表的なモチーフが描かれている。 復元されたこれらの作品は、2017年から2019年にアンディ・ウォーホル美術館で開催された展覧会で展示され、注目を集めていた。

今回NFT化された作品は、4,500×6,000ピクセルのTIF画像として提供される。クリスティーズは「ウォーホルのオリジナルデータから復元されたこれらのデジタル作品5点は、今後NFTが発行されることはない」としている。

アンディ・ウォーホル美術館での展示の様子(Golan Levin氏 twitterより)
アンディ・ウォーホル美術館での展示の様子(Golan Levin氏 twitterより)

※ NFT(ノンファンジブル・トークン)とは?
NFTとは、ブロックチェーン上に格納されたユニークなデジタル証明書であり、デジタルアートなどのデジタル資産の所有権を提供する。複製が容易であるため、所有権を証明することが困難なデジタル資産の分野において、NFTは所有権を確立・証明するための強力なツールとなる。

▍指摘された問題点とは?

これに異論を唱えたのがFrank-Ratchye STUDIO for Creative Inquiryのディレクターであり、ウォーホルのデジタル作品の復元に携わったカーネギーメロン大学のGolan Levin氏だ。彼は「ウォーホルが制作した解像度である320×200ピクセルに対し、今回オークションに出品されているデータがかなり大きい(4,500×6,000ピクセル)こと」を指摘。販売されている作品は、アーティストが制作した作品とはかけ離れていると主張している。

Golan Levin氏twitterより
“親愛な @ChristiesInc @gcerutti : NFT ブロックチェーンでウォーホルの「5枚のオリジナルドローイング」の信憑性を宣伝していると、あなたのコレクターが何に入札しているのか混乱するのではないかと心配しています。なぜなら、320×200 で作成されたオリジナルをオークションにかけているわけではないのですから。”

Levin氏は作品の復元の過程を明らかにしている。ウォーホルが制作に用いたソフトウェアは、当時のモニタでの表示のために正方形ではないピクセルのアスペクト比を採用していたため、現代のモニタ上に復元された画像は、当初、水平方向に引き延ばされたような画像になっていたという。

これをウォーホルが見ていたであろう画像に近づけるため、アスペクト比の補正を行った。また、ウォーホル美術館の要請で、印刷・展示用に24,000×18,000ピクセルのアップスケール版も作成されたという。ここでできあがった画像は、恣意的にサイズを拡大しただけでなく、画像の引き伸ばしが行われ、画像の品質を向上させるためのフィルターもかけられたという。

オリジナルから大きく手を加えられた画像データに対し、Levin氏は「どの時点から、オリジナルファイルではなくなるのか?」と問いかけた。

アンディ・ウォーホル美術館での展示の様子。1985 年製の本物の Amiga モニターに、拡大縮小されていない 320×200 PNG 画像を表示(Golan Levin氏のtwitterより)

▍これは ”アンディ・ウォーホルの作品” とは呼べないのか? ウォーホルの思想から考える。 

Levin氏が主張しているのは、今回のNFT作品がウォーホル本人の制作したデータに大きく手が加えられている点、つまり「オリジナル」からの乖離であり、乖離したデータに対してNFTが何を保証しているのかということだ。改変の加えられたデータはもはやウォーホルの作品とは呼べないのだろうか?

ここでウォーホルの活動を振り返ってみよう。ウォーホルは生前「ファクトリー」というスタジオを構え、工場で大量生産するかのように効率よく作品を制作する検証を行っていた。例えば、1960年代よりマリリン・モンローの肖像などをシルクスクリーンでプリントする手法を見いだした。壁紙に牛を描いた ≪Cow≫ という作品では、版画家に指示を出して制作させ、ウォーホル自身は直接手を下さずに制作したというプロセスによって ”作者の手業が生み出す唯一の絵画” という概念を刷新した。

Andy Warhol, Untitled (Self-Portrait) (ca. 1985k, minted as an NFT in 2021).©The Andy Warhol Foundation. (画像引用:https://news.artnet.com/)
Andy Warhol, Untitled (Self-Portrait) (ca. 1985k, minted as an NFT in 2021).©The Andy Warhol Foundation. (画像引用:https://news.artnet.com/)

ウォーホルのアートとはどんなものであったか。フランスの哲学者・ボードリヤールは、「ウォーホルは現代的フェティシズム、トランス・エステティーク(美的なモノを超える試み)を最初に導入したアーティストである」「現代芸術はその対象の破壊をどこまでも推し進めたが、アーティストと創造的行為の破壊を最後まで推し進めたのはウォーホルである」と述べている。* アートというものがアーティスト個人に紐付く価値観であるという常識を破壊したのだ。

また、ウォーホルは自作に対して、他者が介入したことや自分以外から生じる条件に従って偶発的に成立したということを必要以上に強調していたという。これもまた、作品は ”芸術家が内面的な霊感に従って製作する” という芸術家信仰やオリジナリティ崇拝を否定しようとする態度といえる。**

アンディ・ウォーホルのAmiga 1000を再現し、表示させた作品画像 (画像引用:https://www.warhol.org/ )
アンディ・ウォーホルのAmiga 1000を再現し、表示させた作品画像 (画像引用:https://www.warhol.org/ )

ここで今回のNFT作品について考えてみよう。本来は作品として制作されたわけではないデータを”ウォーホルの作品”としてNFT化し、世に送り出した「アンディ・ウォーホル財団」は、ウォーホルの遺言により、視覚芸術の発展を目的に設立された財団であり、かつてウォーホルと制作をともにしたメンバーが多数在籍している。

ウォーホル財団は、Levin氏の指摘に対し声明を発表し「ウォーホルの遺産を管理するウォーホル財団には、NFTを鋳造するのに最も適したフォーマットを選択する権限が与えられている。TIFファイルを使用する決定を下したのは、これらの先駆的なデジタル作品に対するウォーホルの芸術的意図と、後世で楽しめるフォーマットで保存するという我々の目標に基づいている。」と述べている。

ウォーホルの作成したデジタル画像そのものは”完成した作品”ではなく、作品として鑑賞されることを想定したものではなかった。ウォーホルとともに制作を行ってきたメンバーがNFTアートという新しい潮流をうけ、体裁を整え、現代の鑑賞に堪える”作品”として成立させるというのは、ウォーホルの思想を引き継いだ試みであり、”改変” というよりも ”ウォーホルの制作の延長” といえるのかもしれない。

「機械になりたい」という言葉をのこし、オリジナリティや個性主義を越えた芸術を模索したウォーホルの思想が、死後30年以上たった現代に議論を巻き起こした。「オリジナルとは何か?」という概念の定義は決して単純に決められない。今回の議論は、そういった概念論、構造論、哲学的問いもあぶり出すかたちとなった。

※参考:
artnet news:https://news.artnet.com/market/andy-warhol-nft-christies-1971474
InsideHook:https://www.insidehook.com/daily_brief/art/andy-warhol-nft-auction-christies
Golan Levin氏twitter:https://twitter.com/golan
* 「「空想美術館」を超えて」 河原 啓子、 / 初出「Le Crime Parfait」Baudrillard (1995) 塚原史訳
** 「ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 」宮下規久朗

6月17日(木) 正午12:00、ANDARTでアンディー・ウォーホル作品《Cow》の販売を開始。版画家に指示を出して制作させ、ウォーホル自身は直接手を下さずに制作したというプロセス自体が「絵画」の定義を塗り替えるような革新性を持つ作品だ。こちらも是非チェック。

NEW ART STYLEの ≪Cow≫ 解説記事はこちら

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