
世界のコレクターが注目する若手アーティストとは?2021年上半期 若手作家のオークション落札総額ベスト5。
アートマーケット情報を提供するArtmarket.comが、2021年上半期のアートマーケットの動向について発表した。この中で、「1980年以降に生まれたアーティストの中でのオークション落札総額のベスト5」のランキングを発表している。
今、世界のコレクターから最も熱い視線を注がれている40歳以下のアーティストは一体誰なのか?アーティスト・作品の紹介とともに、2021年上半期の市場動向を紹介する。(1USD=110.44 円で計算)
2021年上半期 1980年以降に生まれたアーティストのオークション落札総額トップ5(2021年上半期)
1. マシュー・ウォン (Matthew Wong), 1984年生

独学で画家になったカナダのアーティスト。生き生きとした風景や森の風景、静物画で注目を集め、批評家からも高い評価を受けていたが、2019年に自殺により35歳の若さで亡くなった。ポスト印象派の画家たちの流れを汲み、様式化された表現と鮮やかな色彩、神秘的なテーマを融合させて、豊かな情景を描き出している。
2013年に写真の修士号を取得した後、ペインティングとドローイングに転向。2018年にニューヨークで開催されたデビュー個展は瞬く間に成功を収めたものの、2019年の2回目の個展が最後の個展となった。画家としての活動期間がごくわずであるウォンの作品はその希少性から関心を集め、2020年に初めてオークションに出品されて以降、見積価格を大幅に超える価格で落札され続けてきた。

今年6月のフィリップスと北京・ポリーの共同セールにおいては、2017年に描かれた風景画 ≪Figure in a Night Landscape≫ が5人もの入札者によって競われ、予想最大落札価格の4倍以上となる約5.2億円(470万ドル)で落札された。これは、彼のオークションレコードである約5.3億円(480万ドル)に迫る勢いだ。
※ 2021年上 落札総額:約33億円(3,000万USD)
※ 2021年上 地域別売上構成:香港(44%)、ニューヨーク(37%)、ロンドン(19%)
2. エイブリー・シンガー (Avery Singer), 1987年生

ポスト・インターネット世代を代表する画家として注目を集めるNY在住のアーティスト。3Dモデリング・ソフトウェアとコンピュータ制御のエアブラシを用いたデジタル・アシスタント・ペインティングで知られ、その作品は、ルートヴィヒ美術館、ステデライク美術館、MoMA、ホイットニー美術館、ハマー美術館など、名だたる美術館のパブリックコレクションに収蔵されている。
彼女は、コンピュータとアナログの技術を組み合わせて自然主義を描く新たな可能性を探りながら、今日のデジタル世界における知覚の概念を探求している。

今年5月のクリスティーズ香港において、≪Dancers Around An Effigy To Modernism≫が約3.5億円 (2,425万香港ドル)で落札され、彼女のオークションレコードを更新したが、その翌月にはフィリップスニューヨークにて、≪Untitled≫ (2018)が約4.6億円 (414万USD) で落札され、さらに記録を更新した。
彼女自身の落札金額top4の作品はいずれも2021年の作品であり、現在まさに上り調子のアーティストだ。
※ 2021年上 落札総額:約12億円(1,050万USD)
※ 2021年上 地域別売上構成:香港(53%)、ニューヨーク(38%)、ロンドン(8%)
3. サルマン・トゥール (Salman Toor), 1983年生

サルマン・トゥールは、パキスタン生まれ、NY在住のアーティスト。アカデミックな技法と素早いスケッチのようなスタイルを組み合わせた小規模な具象作品で知られる。ニューヨークと南アジアを行き来しながら、セクシュアル・マイノリティの若いブラウン系男性の想像上の生活を描いている。2020年にホイットニー美術館で、美術館での初個展を開催した。

2021年は5月のサザビーズNYで≪The Arrival≫ (2019), 6月のPhillips & Poly香港で≪Girl with Driver≫ (2013)と、相次いで彼自身のオークションレコードを更新していった。
※ 2021年上 落札総額:約8.7億円(790万USD)
※ 2021年上 地域別売上構成:ニューヨーク(45%)、ロンドン(28%)、香港(27%)
4. ロッカクアヤコ (Ayako Rokkaku), 1982年生

ロッカクアヤコは、日本の現代美術家。筆などを一切使わず、手で直接キャンバスや段ボールに絵を描く。その独特のスタイルで行われるライブペインティングや、色彩豊かな作品で知られる。瞳の大きな少女のモチーフとカラフルな色彩の作風が国内外で人気を誇っている。
20歳の頃から独学で絵を描きはじめ、2006年に村上隆主催のアートイベントGEISAIでスカウト賞受賞。バーゼルのアートフェアvoltaへの出展をきっかけに活動を広げ、日本やヨーロッパ各地で展示やライブイベントを行っている。
千葉県生まれで、2020年には千葉県立美術館で、国内公立美術館で初の大規模な作品展となる、個展「魔法の手 ロッカクアヤコ作品展」を開催した。

約5年ほど前から大きな値上がりを見せ、現在の彼女のオークションでの落札額top3はいずれも2021年上に落札されたものとなる。
2021年上期には、6月にサザビーズ香港で ≪Untitled (無題)≫ (2016)が約6,800万円 (477百万HKD) と彼女自身のオークションレコードを更新したが、下期に入ってすぐの7月には毎日オークションにおいて ≪ARP5≫ (2007) がさらに記録を更新するなど、めまぐるしい速さでの伸びを魅せている。
※ 2021年上 落札総額:約8.0億円(720万USD)
※2021年上 地域別売上構成:720万ドル 香港(40%)、東京(35%)、台北(11%)
5. アモコ・ボアフォ (Amoako Boafo), 1984年生

ガーナ出身、ウィーン在住の画家であり、ビジュアル・アーティストであるアモコ・ボアフォ。彼の描く肖像画は、魅力的な明快さを持つ。その背景は絵筆で描きながら、人物の部分は最終的に指で描き出しているのだ。筆跡は太く、身体の輪郭は抽象的に描かれている。
黒人の喜び、黒人の主観をテーマに描きだすボアフォ。2019年初頭、まだ黒人アーティストへの注目が遅れているメインストリームのアート界で急成長を遂げ、市場で高い人気を博した。
彼の作品は、個人および公的なコレクターや機関に広く収集され、最近では、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館、ルーベル美術館、マリエルイズ・ヘッセル・コレクション、CCSバードカレッジ・ヘッセル美術館などにも収集されている

2021年5月のクリスティーズ香港では、≪Justine Mendy≫(2018年)が約1.2億円 (877万HKD) で落札され、最大見積額の6倍近い価格となり、彼の作品の変わらぬ人気ぶりが示された。
※ 2021年上 落札総額:約5.5億円(500万USD)
※ 2021年上 地域別売上構成:ロンドン(35%)、ニューヨーク(33%)、香港(32%)
若手アーティストの市場の動向は?
Artmarket.comの分析によれば、2020年に没後2年足らずのマシュー・ウォンの作品がはじめてオークションにかけられその作品価格が高騰したことは、1980年以降に生まれた同世代のスーパースターたちの価格にも作用している様子だ。サルマン・トゥール、エイブリー・シンガー、アモアコ・ボアフォといったアーティストの出世ぶりは驚異的な速さであり、数ヶ月のうちに、彼らの作品は国際的なアートマーケットで避けては通れないものとなった。才能に恵まれ、現代を象徴するかのような彼らの作品は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのコレクターたちから同時に熱視線を受けている。
こうしたなか、日本人アーティスト・ロッカクアヤコの市場はこの潮流からはやや外れていることが分かる。彼女のカラフルなアクリル作品は、アジアでハイペースで流通しており、2021年上半期には44点の絵画がオークションにかけられ、平均価格は17万ドルだった。アムステルダムを拠点とするDelaiveギャラリーが最初に流通させた彼女の傑作群は、香港(40%)、東京(35%)、台北(11%)と、ほとんどがアジアでオークションにかけられている。
各アーティストの地域別の売上構成を見ると、香港がロンドン,ニューヨークと同等以上であることも多いことが見て取れる。先日、クリスティーズは、アジア市場の拡大に合わせて香港にアジア本社を移転し、現在の4倍以上の規模のギャラリーやサロンを設置することを発表したが、今回の結果からも、アジアのマーケットの勢いが感じられる。
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