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バンクシーから夏休みのサプライズ!新作9点のメイキング映像公開

バンクシーの新作9点がイギリスで一気に出現し、注目を浴びている。

イギリス・ブリストルを拠点に活動する正体不明のストリート・アーティスト、バンクシー。社会風刺的かつユーモラスな作品を発表し、たびたび話題をさらってきた。今年3月には、医療従事者を称賛する作品《Game Changer》がクリスティーズでオークションにかけられ、バンクシーの過去最高額となる1675万8000ポンド(約25億円)で落札されたことも記憶に新しい。


そんなバンクシーが8月13日(金)、公式Instagramに3分16秒の動画を投稿。

バンクシーのInstagramより


動画にはバンクシーらしき人物が映っており、スプレー缶などを運びながらキャンピングカーで移動し、各地に作品を生み出していく。動画の中で制作されている9作品の画像が、公式ウェブサイトのトップページにも掲載された。

これら9つのアートは、イギリスで先週次々と発見され、「バンクシーの作品かもしれない」と噂されていたものだった。噂が事実だと判明したことで、地元の人々から喜びの声があがっている。白いペンキで塗りつぶされている作品が見つかったこともあり、保護シートを貼ったり警備員が巡回したりなど対策が急がれているところだ。

「夏休み」を描いた新作9点、海岸沿いの町に出現!

まずは、今回公表された9つのアートを見てみよう。

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

バンクシーの絵によく登場するネズミ。パラソルを立ててビーチチェアに座り、優雅にカクテルを飲んでいる。ちょうど絵の上に排水管の出口があり、カクテルグラスに排水が注がれているようだ。(サフォーク州ローストフト、ノース・ビーチ)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

ゴミ捨て場に降り立つ巨大なカモメ。動画では、本物のカモメが道に捨てられた食べ物の箱に群がる様子と合わせて登場する。(サフォーク州ローストフト、カトウェイク・ウェイ)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

壁に描かれた巨大なクレーンゲームのアーム。下のベンチに人が腰掛けると、まるでクレーンゲームの景品になったように見える。バンクシーが自分の作品だと認める前、「Emo」という人物によって6体のテディベア人形が描き足されているのが見つかった。(ノーフォーク州ゴールストン)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

海沿いの壁に描かれたヤドカリたち。1匹だけが殻をかぶって「Luxury Rentals Only(高級賃貸物件のみ)」の看板を掲げている。コミカルな表現だが、広がる経済格差を示唆しているようにも受け取れる。(ノーフォーク州クロマー)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

100年以上前に設置されたキングズ・リンの元市長フレデリック・サヴェージの像に、舌とソフトクリームが付け足されている。動画には、工事現場などに置かれるカラーコーンをカットし、ソフトクリームのコーンに仕立てる様子が収められている。(ノーフォーク州キングズ・リン)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

砂の城の後ろに描かれた少年。砂の城をつくっているように見えるが、スコップではなくバールを手にしている。バンクシーの専門家であるボーンマス芸術大学のポール・ゴフ教授は、1968年にパリで起きた五月革命で学生たちがスローガンにした「Sous les pavés, la plage!(舗装路の下には、ビーチが!)」を参照しているのではないかと考えているという。(サフォーク州ローストフト、ロンドン・ロード・ノース)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

この作品のためにバンクシーが選んだ場所は、実際の馬小屋ではなく、ミニチュアの馬小屋。田舎町全体をミニチュアで再現したモデルヴィレッジの中に置かれているものだ。正面には大きく「BANKSY」、側面には「Go big or go home(派手にやれ、さもなきゃ帰れ)」の文字が書かれており、立てかけられた車輪の上にはネズミが乗っている。写真だと大きく見えるが、グラフィティも他の作品に比べ小さいサイズとなっている。(ノーフォーク州グレート・ヤーマス、メリヴェール・モデルヴィレッジ)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021) 
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

紙の帽子をかぶってボートに乗る3人の子どもと、「We’re all in the same boat(私たちは同じ船に乗っている)」の文字。廃材でつくられたボートは沈みかけており、子どもの遊びを描いただけでなく、気候変動を警告するメッセージを込めているようだ。(サフォーク州ローストフト、ニコラス・エヴリット・パーク)

≪A Great British Spraycation≫ / バンクシー (2021)
画像引用:https://www.banksy.co.uk/

バス停の上で踊る男女とアコーディオン弾き。3人の人物が等身大で描かれており、人知れず素早くグラフィティを仕上げるバンクシーの技量が表れている。バス停の屋根がダンスフロアに変わったかのように見え、楽しげな音楽が聞こえてきそうだ。(ノーフォーク州グレート・ヤーマス、アドマイラルティー・ロード)

ステイケーションならぬ「スプレイケーション」?

一連の作品は、どれも楽しげな夏休みの様子をユーモラスに表現したものだ。イギリスでは徐々にロックダウンが緩和されているものの、まだまだCOVID-19の行く末が読めず、行動の制限も多い。そのような状況下で、バンクシーは、工夫しながら夏を満喫しようとする人々の気持ちを見事に描き出した。

Instagramの投稿に添えられたタイトルは《A Great British Spraycation》。「Spraycation(スプレイケーション)」は、近場で休暇を過ごすことを意味する「Staycation(ステイケーション)」をもじった造語だと考えられる。

作品が描かれた場所は、イギリスの5つの町で、リゾート地として知られるイングランド東部の海岸沿いに集中。COVID-19の影響で海外旅行を諦めステイケーションを選択した人々が詰めかけ、例年以上の賑わいを見せている。バンクシーもこの地を訪れ、スプレー缶片手に「スプレイケーション」を楽しんだようだ。

バンクシーのグラフィティの特徴のひとつは、ある場所の風景やもともと置いてあるものを利用し、サイトスペシフィックな作品をつくりあげるところにある。今回、発表の場としてステイケーションに人気の地を選んだのは、自粛生活に疲れた人々を応援したいという気持ちからではないだろうか。だまし絵的な表現もあり、見つけたらクスリと笑って愉快な気持ちになれそうだ。

社会に向けて発信されるメッセージ

しかしながら、単なるジョークでなく、真剣なメッセージが読み取れる作品もある。

3人の子どもが乗るボートは、大きく傾いて沈みかけており、左端の子がバケツで水を汲み出している。そして後ろには、「運命共同体」を意味する「We’re all in the same boat(私たちは同じ船に乗っている)」というメッセージ。

近年現地では豪雨による被害が続いており、作品が描かれた場所の地面もぬかるんでいる。なお、絵の下部に廃材の鉄板でつくられてたボートが設置されていたが、排水路をふさいでいるという理由で、行政によって一時的に撤去されている。

ボートが撤去された後の様子
Photo by Justin Tallis/AFP 画像引用:https://news.artnet.com/

バンクシーはこれまでにも、《Season’s greetings(季節の挨拶)》(2018年、ウェールズ)、《I don’t believe in global warming(地球温暖化なんか信じない)》(2009年、ロンドン)」など、環境問題をテーマにした作品を発表している。

今回発表されたボートの作品からも、地球温暖化に対する警告が発せられている。これからの未来を担う子どもたちが、沈みかけた船に乗り、必死に前に向かう様子からは、絶望と希望が同時に感じられないだろうか。気候変動やパンデミックなど、年々深刻化するグローバルな課題について、地球という船に乗ったつもりでひとりひとりが責任を持たなければならない。そんなバンクシーの想いが聞こえてくるようだ。

ユーモアたっぷりに人々を楽しませながらも、その裏にある社会課題にハッと気づかせる、バンクシーらしいアート。日本から現地を訪れることは難しい状況だが、ぜひ動画をチェックして雰囲気を味わってみてほしい。また、本記事で紹介した新作の”その後”については、こちらの記事で紹介している。

「バンクシーって誰?展」開幕!

「バンクシーって誰?展」キービジュアル 画像引用:https://whoisbanksy.jp/

世間を賑わす刺激的な作品を発表し続けながら、匿名性を維持しているバンクシー。彼の活動からはこれからも目が離せない。

8月21日(土)から、バンクシーの謎に迫る展覧会「バンクシーって誰?展」が、東京都・天王洲の寺田倉庫G1ビルで開催される。単にビジュアルを楽しむだけでなく、作品をきっかけとしてさまざまな問題に考えを巡らせてみたい。

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出典
https://news.artnet.com/art-world/banksy-confirms-string-of-british-murals-1998682
https://news.artnet.com/art-world/banksy-hits-coastal-towns-england-1996764
https://www.bbc.com/news/uk-england-norfolk-58145220

文:稲葉詩音