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ウォーホルの「マリリン」が約2億ドルで落札された理由とは?更新した3つの記録と新しい技法

2022年5月9日、クリスティーズオークションでアンディ・ウォーホルの《Shot Sage Blue Marilyn》が約2億ドル(約253億円)で落札され、世界各地で大きな話題を呼んでいる。そこで改めてこの作品が更新した3つの記録と、なぜ約2億ドルもの値段がついたのか?その理由を解説する。

andy warhol

《Shot Sage Blue Marilyn》(1964)
出典:https://news.artnet.com/

2億ドルのマリリンが更新した3つの記録

1:ウォーホル史上最高

クリスティーズ

出典:https://www.theguardian.com/

今回の落札を受けて、ウォーホルのオークションレコードを8年ぶりに更新。落札したのはメガ・ディーラーであるラリー・ガゴシアンだった。クリスティーズが発表した落札前の推定価格に2億ドル。これは、2017年11月のクリスティーズに出品されたレオナルト・ダ・ヴィンチの《サルバトール・ムンディ》の推定価格1億ドルを超えたこともあり、オークション前から多くの注目を浴びていた。

最終的に《サルバトール・ムンディ》は約4億5000万ドル(当時約510億円)で落札されたため、ウォーホルの《Shot Sage Blue Marilyn》はアートオークション史上で2番目の落札価格となる。

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レオナルド・ダ・ヴィンチ《サルバトール・ムンディ》(1500年頃)
出典:https://ja.wikipedia.org/

2:20世紀作品で最高

2つめに更新した記録は、20世紀の美術品としての最高落札価格である。7年ぶりに更新する前は、2015年のクリスティーズで約1億7940万ドル(当時約215億円)で落札されたパブロ・ピカソの《アルジェの女たち(バージョンO)》がトップだった。

パブロ・ピカソ

パブロ・ピカソ《アルジェの女たち(バージョンO)》(1954-1955)
出典:https://www.pablopicasso.org/

3:歴代アメリカ人アーティストで最高

最後の3つめは、これまでにオークションで落札されたアメリカ人アーティストの最高落札価格だ。それまで記録を保持していたのは、ウォーホルとも深い親交があったジャン=ミシェル・バスキアの作品《Untitled》だった。2017年のサザビーズにて、前澤友作氏が《Untitled》を約1億1050万ドル(当時約123億円)で落札し、当時のアメリカ人アーティストの最高落札価格を更新した。これは同時にバスキアの最高オークション落札価格にもなり、今もまだ破られていない。

バスキアuntitled

《Untitled》(1982)
出典:https://www.sothebys.com

詳しいバスキアのTOP10はこちら

2億ドルがついた3つの理由とは?

以上の3つの記録をみれば、《Shot Sage Blue Marilyn》が美術史において重要な作品であることが分かる。では、なぜここまでの価値がついたのだろうか?美術品の価格データバンクである「Artprice.com」は、クリスティーズがこの作品に2億ドルという見積りをつけた理由を解説している。

1:最高に達したウォーホルの市場

2021年、ウォーホルのオークション売上高はパブロ・ピカソ、ジャン=ミシェル・バスキアに続き、世界で3番目となり成功を収めた。2021年11月に開催されたサザビーズ「The Macklowe Collection」の目玉の一つとなった《Nine Marilyns》は約4700万ドル(当時約54億円)で落札され、2021年のウォーホルのオークション最高価格を記録。

落札された作品数は1586点、総落札額は約3億4800万ドル(当時約386億円)に達し、6年ぶりに3億ドルを超えたことからも、ウォーホルの市場の再興を示している。

※「2021 Global Art Market Report」の数値を元に作成
詳しい2021年のアートオークション市場についてはこちら

Nine Marilyns

《Nine Marilyns》(1962)
出典:https://www.sothebys.com/

2.:価値ある制作期【1960年代】

1960年代はウォーホルが最も創造性を発揮した期間だといわれている。ウォーホルの代表作であるマリリン・モンローやキャンベル・スープ、「Flower」シリーズ、コカ・コーラなどの作品が生まれた時代であり、1962年はウォーホルが写真によるシルクスクリーン印刷に制作スタイルを転向した転換期である。また、今回の《Shot Sage Blue Marilyn

》を含むウォーホルの落札価格トップ5の作品全てが1960年代に制作された作品だ。オークションの落札価格にも、この時代がウォーホルのキャリアにおいて特に重要な期間であることが窺える。

silver car crash

落札価格2位の作品《Silver Car Crash》(1963)
出典:https://www.sothebys.com/

詳しいTOP10はこちら

3:秀逸なエピソード

市場価格の高騰、重要な制作期間に加えて大切なのは、この作品の背後にあるエピソードである。1962年、ウォーホルはマリリン・モンローの死後間もなく、主演映画だった『ナイアガラ』のスチール写真を使って制作を始めた。そして1964年の秋、赤、オレンジ、ライトブルー、セージブルー、ターコイズを使って、それぞれ1枚ずつ計5枚のモンローのポートレートを制作。そのうちの1枚が《Shot Sage Blue Marilyn》である。5枚の作品はウォーホルのスタジオ「ファクトリー」に保管されていた。

同じ年のある日、ファクトリーの写真家だったビリー・ネームの友人で、パフォーマンス・アーティストのドロシー・ポドバーがファクトリーを訪れた。完成したばかりの積み重ねられた作品を見たポドバーに、「撮影してもいいか」と尋ねられたウォーホルはそれを快諾する。するとポドバーは、鞄から小型のリボルバーを取り出して、絵の額を打ち抜いてしまった。ポドバーがウォーホルに聞いていたのは、「撮影してもいいか(shoot)」ではなく「撃ってもいいか(shoot)」だったのだ。その時、たまたまターコイズブルーの背景の絵はその中にはなく、傷をつけられることはなかった。その後、撃たれた穴は修復され、この作品たちは「Shot Marilyns」と呼ばれるようになったという。

Shot_Marilyns

「Shot Marilyns」と呼ばれる異なる色のマリリン・モンロー
出典:https://ja.wikipedia.org/

実は新しい技法で制作されていた

この「Shot Marilyns」は、ウォーホルの代名詞的技法である「シルクスクリーン」において、実は新しい技法で制作されていたことをご存知だろうか。

1962年から1964年にかけて制作されたポートレートでは、2層の黒のインクの間にその他の色が塗られていたため、3つの層を正確に並べることが難しかった。そのため「ゴーストイメージ」と呼ばれる黒の層から色がはみ出してしまい、イメージがぼやけてしまうことがよくあったのだ。しかし64年半ばになり、ウォーホルは「ポジ」(被写体の明暗、色彩が逆転せずに表現された写真のこと)をシルクスクリーンで使用するフィルムに印刷したものを下絵としてキャンバスにトレースし、より精密に、そして正確に部分的に色を乗せることを可能にした。

しかし、せっかちで有名だったウォーホルにとっては時間がかかりすぎたため、この複雑で新しい技法は放棄された。ある意味、ウォーホルがテーマとした大量生産とは対極にあった技法だったということである。2022年、新たな歴史を作った《Shot Sage Blue Marilyn》は、この技法を用いて制作された少ない作品の一つなのだ。

andy warhol
出典:https://mastered.jp/

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現在、アンディ・ウォーホルの作品は全8作品を取り扱い中。ウォーホル以外にも奈良美智やバンクシー、KAWSなどの人気アーティストを取り扱っていますので是非ご覧ください。

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文:ANDART編集部

参考
The 6 Interesting Facts About Andy Warhol’s Marilyn Monroe Portrait
Artmarket.com: a Warhol at $200 million explained by Artprice in five points 
An Art History Of Andy Warhol
https://www.christies.com/en/lot/lot-6369449