
シリコンバレーのビジネスエリートたちが語る「投資」以上のNFTの価値とは?
NFTの市場は、2021年に400億ドル(約4.6兆円)以上に急増。投機的なバブルとも捉える批評家もいるなど、その価値については議論が続いている。こうした中、テクノロジーと金融の両面に長けたシリコンバレーのビジネスエリートたちは、NFTをどう見ているのだろうか?
結論からいうと、こうしたビジネスエリートたちの中にも積極的にNFTを収集する人たちがおり、彼らは「投資」のためだけではなく、影響力を誇示する手段としての価値、アートとしての価値、さらに、人脈形成の手段としての価値を感じてNFTを購入しているようだ。
「FINANCIAL TIMES」誌によるシリコンバレーの経営者たちへのインタビューから、その価値について見てみよう。(記事中のレートは1ドル115円で換算)
影響力を表現する手段としての価値
2021年初頭に、NFT作品「CryptoPunk」の1つを750万ドル(約8.6億円)以上で売却したのは、デザインソフトウェアグループ「Figma」の最高経営責任者であるDylan Fieldだ。同作品は、NFTが大きな話題になる数年前に彼が約1万5,000ドル(約173万円)で購入したものだというのだから、その投資としての魅力は大きい。
彼はテクノロジーの知識と金融の知識を組み合わせて、さまざまなアーティストのNFTを600点ほど集めたポートフォリオを構築しているが、それらは「投資」以上の価値を持つものであると彼は感じているという。

彼は、作品を収集して利益を得るだけでなく、作品を展示することもあれば、ツイッターのプロフィール画像(PFP)としても使用している。こうすることで、特定のアーティストやコレクションへの忠誠心を示したり、富や地位、オンライン上の影響力を示すことができるという。
また彼は、NFTによって、伝統的なアートの権力者たちに頼らない新しい種類のアート市場を確立しているのだと主張している。
アートとしての価値
「自分の純資産のほとんどを漫画、猫、猿 (のNFT作品) に投じた。」と語るのは、Twitter上でSchmryptoという名前で活動しているシリコンバレーのコレクター (現実世界のアイデンティティは非開示) だ。彼女は、NFTの作品にアートとしての価値を感じているという。
「NFTは、伝統的な芸術作品が持つすべての機能を備えており、その上で、手のひらの中で鑑賞できるという点で、より優れています。それに、物理的なアートにはない、色域、動き、来歴があります。」と、そのアートとしての価値を語る彼女は、自身のNFTコレクションをオンライン上で鑑賞できるバーチャル美術館まで作っている。

また、NFTの技術やソーシャルメディアのインフラによって、アーティストとのメッセージのやり取りが容易になり、NFTはアートの民主化に効果的であると主張する人もいる。
ブロックチェーン企業「Dapper Labs」の共同創業者兼最高事業責任者であるMikhael Naayemは、「コミュニティとアーティストが直接つながることで、キュレーターではなく、コミュニティが人気のあるアーティストを選ぶことができるようになり、アートやアーティストの多様性が生まれます。現実の世界で独裁国家や封建国家から民主主義国家へと移行したのと同じことが、デジタルの世界でも起こっているのです」と言う。
このように、NFTを新たなアートと捉えて投資する動きは、伝統的なアート業界からは反発を受けることもあり、「NFTはコピー可能で無価値なJPEGであり、偽の希少性によって市場を活性化しているだけだ」という批判もある。しかし、このような価値の問題や、マネーロンダリング、市場操作、詐欺など、NFTの問題点として挙げられがちな不正行為は、伝統的なアート市場にもかねてから存在しているものだとNFTの擁護者は主張している。

人脈形成の手段としての価値
「NFTの世界に飛び込んだことで、お金だけでなく、友人も手に入れることができました。」と語るのは、セキュリティソフトウェア企業「Nira」の共同創業者であり最高経営責任者であるHiten Shahだ。彼は、昨年の夏に初めてNFTに本格的に投資を始め、今では1,000個ものNFTコレクションを保有している。「NFTを通じて、私は信じられないほど多くの人間関係を築くことができました。私にとってはそれが何よりも良かったことです。」
NFTといっても様々なジャンル・作品があるが、特にメジャーなものは、「プロフィール画像(PFP)」と呼ばれる、猫やペンギン、猿などの顔をかたどった画像だ。これらのコレクションの多くには、メッセージアプリ「Discord」や「Telegram」のプライベートチャットルームへの招待や、限定パーティーやミートアップへの参加権といった、特別なコミュニティに参加できる特典が付いている。

また、最も有名なコレクションの1つである「Bored Ape Yacht Club」のユーザーたちは、このNFTを最低でも数千万円単位の金額で購入すると、Twitterで「aped up」と書いたり、ハッシュタグ「#apefollowape」を使うことによって、フォローし合ったりしてつながりをつくっている。こうして仲間意識が強くなるのだ。
これは今までにない、新しくて強い人脈形成手段になるようだ。
また、NFTという言葉が有名になってもまだ幅広く流通していないのは、NFTの購入は面倒で、技術的な知識が必要となる点がネックになっている。さらに、NFTを鋳造または購入するために必要な「ガス料金」と呼ばれる予測不可能な取引手数料があり、需要に応じて変動するなど、ややこしい部分もある。
それゆえ、一定の知識と資金力を併せ持つ人にしか入れないコミュニティとも言えるだろう。こうしたややクローズドな部分も、ビジネスエリート達にとっては魅力となるのかもしれない。
もちろん、皆が手放しにNFTを賞賛しているのではなく、シリコンバレーのNFTコレクターの中にも、NFTの危険性について警鐘を鳴らす人はいる。彼らは、自身がNFTをコレクションしながらも、NFTには技術と金融両面の知識が必要であり、まだ、消費者保護も確立されていない世界に参入することには多くの危険があることを伝えている。
技術と金融の両面の知識が必要で、まだ参入の障壁も高いNFT。それでも、シリコンバレーのビジネスエリートたちを引きつける十分な魅力を持っているようだ。
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文:ANDART編集部
参考)