
模索が続く、美術館とNFTの関係構築。今後NFTを扱う美術館は増えるのだろうか?
勃興してから未だ冷めない熱を見せ、多くのコレクターの元へ届いているNFTアート。世界主要オークションハウスの2021年の総括では、NFTをきっかけに新規ユーザーが増えたとの実績もある。ところで、物理的な作品を所蔵・展示する美術館はNFTをどう捉えているのだろうか?アート市場の中枢とも言える美術館とNFTの現在の関係性、美術館がNFTを扱う上で考えられる問題点を探ってみる。
積極的か消極的か。分かれるNFTの考え方
ダミアン・ハーストや村上隆など大物アーティストがNFT作品を発表するなか、同様に大きな話題を呼んでいるのが美術館・博物館のNFT参入のニュースだ。
2021年9月、世界3大美術館と称されるロシアのエルミタージュ美術館がレオナルド・ダ・ヴィンチやフィンセント・ファン・ゴッホなどの作品をデジタルコピーしてNFT化するプロジェクト「Your token is kept in the Hermitage」を発表。暗号通貨取引所の「Binance(バイナンス)」でオークションを開催し、売上総額の44万4,000ドル(約4,800万円)が同館の活動費に充てられた。

また、世界で最初の公立の国立博物館として名高い大英博物館もNFTプロジェクトを発足。フランスのブロックチェーンプラットフォーム「LaCollection」と提携して、同年9月に浮世絵師・葛飾北斎のデジタル画像、2022年2月にはイギリスのロマン主義の画家・J.M.Wターナーの絵画作品をNFTとしてオンラインで販売を開始した。
このことを受けて、大英博物館のライセンシングマネージャーのクレイグ・ペンドルは、「博物館として常に新しい市場に適応し、従来のチャネルでは到達できなかった人々にアプローチする新しい方法を見るけることは非常に重要です」と、NFTに対して好意的な姿勢を示している。

ニューヨークの「Intelligencer」によると、ある大手美術商の一人は「私たちは新しい世代を取り込もうと何年も挑戦をしている」ため、そのフックになるNFTに期待していると言う。しかし、「もし絵を飾れない家に住んでいても、NFTコレクションをドライブに保存すれば良いのです。“悲しいことに”20代、30代の人たちの興味を引くにはこれしかないのです」と大英博物館とは反対に、NFTに頼るのは本意ではないことを滲ませた。(参考)
大英博物館のように新しい世代にリーチする方法としてポジティブに捉えて積極的に取り入れるか、非物理的なアートへの違和感を感じる人や新しい価値が生まれている、この急速な変化に追いつけない人もいる。NFTに対しては、文字通りに賛否両論が続いている現状だ。
美術館が悩む二つの問題点
今後、美術館はNFTとどのように向き合い、扱っていくのだろうか。現時点で、美術館がNFTを扱う際に注意したい問題点は二つ考えられる。
不確定な判断基準
まずは、作品価値の判断基準が少ないこと。通常の美術品の場合、鑑定士はアーティスト、制作年、類似作品のコレクションなど様々なデータを照らし合わせながら作品を評価するが、NFTは初期段階にあるため、その数がまだ圧倒的に少ない。鑑定会社間では、この価値を正しく判断できる方法論を確立すべく競争が繰り広げられている。つまり、判断基準の確立や方法の統一は実質まだ先であり、NFTの価値自体をどう捉えて良いのか、多くの美術館がまだ困惑しているのである。
セキュリティ面の不安
二つ目は、ハッキングや詐欺など、NFTの保管においてのセキュリティ面の危惧。ブロックチェーン上で発行されたNFTは改ざん不可能であることと、取引履歴を閲覧することができる透明性がNFTの優良な点とされているが、ハッキングされてNFTそのものを盗まれてしまう可能性はゼロとは言い切れない。
実際に2021年12月末には、ニューヨークのロス+クレイマーギャラリーのオーナー、トッド・クレイマーの《Bored Ape Yacht Club》コレクションの4作品を含む、220万ドル相当(約2億5,500万円)の15個のNFTがハッキングにより盗まれる事件が起きた。やはり、このセキュリティ面を一番の懸念と考える美術館は多いのでないだろうか。

《Bored Ape Yacht Club, #9410》(2021)
出典:https://www.artnews.com/
NFTの保管方法を巡り、NFTを物理的に保管する取り組みを始めた企業もある。NFTアート作品の鑑定を行う「アプレイザル・ビューロー」とセキュリティ会社「マルカ・アミット」の協同のプロジェクトだ。それは、デジタル資産を切断されたハードディスクに保存し、金庫に保管。それを売却する際は、直接デジタル資産を取り出す必要を所有者に対して設けるというものだ。いずれにせよ、美術館はデジタル上か物理的か、どのように保管するのか。その方法を十分に考慮に入れる必要がある。
「美術館×NFT」今後は?
そうした問題点も抱えつつ、NFTに特化した美術館が相次いでオープンしている。2021年11月に徳島県にある「鳴門ガレの森美術館」が「NFT鳴門美術館」と改名してリニューアル。これは、日本初のNFTの販売、流通に特化した美術館となった。そして2022年1月には、アメリカ・シアトルに「シアトルNFTミュージアム(SNFTM)」が開館。”特化”とまでいかなくても、通常の美術館の営業形態にNFTをプラスしていく美術館はこれから増えていきそうだ。


出典:https://www.seattlenftmuseum.com/
もしかしたら、まだNFTに踏み込んでいない美術館は今後のNFT参入に向けて、すでにNFTを販売した美術館の結果の分析や、先駆けてオープンしたNFT美術館の様子をまだ伺っているのかもしれない。伝統を重んじる傾向が強いアート界において、NFTをポジティブに捉えて積極的に取り入れ、扱うべきか否か。これはまだまだ意見が分かれそうだ。
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文:ANDART編集部
参考URL
・https://www.theguardian.com/technology/2021/sep/24/british-museum-nfts-digital-hokusai-postcards-lacollection
・https://nymag.com/intelligencer/2022/01/how-museums-are-trying-to-figure-out-what-nft-art-is-worth.html