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【ART✕Tech Vol.1】 美術館もデータドリブンの時代へ?ビッグデータは展覧会に影響を与えるのか。

ビッグデータを活用して顧客体験価値を向上させる試みは、多くの業界で実践されている。それではアートの世界ではどうだろうか? 近年、美術館が展示にビッグデータを活用している事例を見てみよう。

▍平均的な鑑賞時間はわずか4〜5秒?「カメラ」で来館者の関心を測定。

パンデミック後に再開したイタリアの美術館で、ユニークな試みが行われている。 作品の近くにカメラを設置し、その作品を見る人数やその行動、鑑賞時間や作品からの距離などのデータを蓄積していくというものだ。*1

国の研究機関であるENEAによって開発された「ShareArt」というシステムによるもので、鑑賞者のプライバシーを損なうことなく、鑑賞者がどのくらいの時間、どのように作品を鑑賞しているかを集計できるという。

絵画の横に設置されたShareArtのデバイス 画像引用:https://www.bloomberg.com/

ENEAの研究者によると、美術館を訪れた人が15秒以上その場に「釘付け」になる作品はほとんどなく、平均的な鑑賞時間はわずか4〜5秒だったという。かつて、1990年代には「美術館の観客はビデオアートや解説映像に2分で飽きる」と言われ、2016年には「美術館で平均的な鑑賞者がアート作品を見るのに使う時間は1作品につき約17秒である」とされていたが*2、今回の検討結果はそれよりもはるかに短い時間となっている。

このほか、ある2枚組の作品では、鑑賞者の多くが真っ先に片方の絵画に注意を引きつけられた一方、もう片方の作品はほとんど見ないまま立ち去っている様子なども分かったという。

14世紀のVitale degli Equiの2枚組作品の横に置かれたShareArtのデバイス 画像引用:https://www.bloomberg.com/

今後、こうしたデータを解析することにより、絵画や彫刻をより見やすく、アクセスしやすくするための照明、演出、配置などの改善につなげていける可能性があるという。

例えば、美術館が「目玉」と考えて展覧会の最後に配置していた作品が、実際にはあまり鑑賞者に見られていないことなども分かった。”最後を飾るのにふさわしい”と考えた配置が、逆に鑑賞者が見落としやすくなってしまっていた可能性が示唆されているという。展示を効果的に見せるための施策の結果も、データとして可視化されるようだ。

▍データサイエンティストとともに、広大なミュージアムの人流を分析。よりよいオペレーションの提供へ。

データサイエンティストを雇用し、比較的早い段階からビッグデータの活用に取り組んでいたのが大英博物館だ。2017年の時点では、世界の約55,000のミュージアムのなかでデータサイエンティストを直接雇用している博物館は大英博物館だけだったという。*3

大英博物館は世界で2番目に訪問者の多いミュージアムであり、毎年600万人以上の人々が訪れるが、約57,000平方メーターもの広大な館内で人々がどのように館内を探索しているかは分からなかった。そこで、来館者の約10%が使用するという音声ガイドから位置データを取得。来場者が移動するルートと混雑状況を可視化し、来場者の行動をいくつかのパターンに分類することができたという。*4

大英博物館 画像引用:https://news.microsoft.com/

また、2018年にはマイクロソフトとのプロジェクトで、音声ガイドやWi-Fiホットスポットから匿名の情報を収集し、来館者が特定の展示物にどれだけの時間を費やしたか、どのデバイスを使って情報にアクセスしたか、どの言語でアクセスしたかなどを明らかにした。*4

こうした検討により、来館者への情報提供に対して、どのような方法が効果的かどうかを検証し、来館者が必要とする情報をより適切な場所、適切な時間、適切な言語で得られるような工夫を行っているそうだ。

▍来館者のロイヤリティを高めるために、データをどのように活用するか?

世界一の入場者数を誇るルーブル美術館もまた、同様にビッグデータの活用に乗り出している。2019年には、訪問者の行動とニーズを分析する3つのビッグデータ研究プログラムを実施し、携帯電話のBluetoothを追跡することで、大英博物館と同様に人流のデータを取得する検討を行った。*5

このデータを解析する上で、ルーブル美術館は、来館者の多くが観光客を中心とした”ルーブル美術館を初めて訪れる来館者”であるという特徴に着目している。

ルーブル美術館 画像引用:https://louvre-museum.tickets-paris.fr/

来館者の特徴を長時間滞在者と短時間滞在者に分けた際、その行動ルートには意外にも大きな差は見られなかったものの、短時間滞在者には明確にルートの「最適化」という指針のもとで動いている様子が見られたという。

短時間しか滞在できない観光での来館者にとっては重要な要素であろう「時間節約」といった観点は、これまで館内の案内の戦略のなかでは十分に考慮されていなかったという。*6

初めて美術館を訪れる人の行動を理解し、彼らあわせたサービスを提供することはリピーターとなってもらうために不可欠であり、逆に、リピーターに対してはそれとは異なったアプローチが必要となる。異なるタイプの来館者に適したアプローチを提案し、ユニークな顧客体験を提供することが、満足度とロイヤルティのを高める結果につながるとしている。

データを活用することにより、鑑賞者個人のニーズに合わせたホスピタリティを提供し、来館者のロイヤルティを高めるOne to Oneマーケティングの手法は、美術館にも取り入れられ始めているようだ。

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※ 参考

*1 Italy’s Art Museums Are Open Again, and Big Data Is Watching (Bloomberg)

*2 ≪Panderer(Seventeen Seconds)≫ / Gary SETZER 作品解説より (文化庁メディア芸術祭)

*3 Data-Driven Museums (Digital Curation Centre)

*4 The British Museum is using big data to help visitors learn more about history (Microsoft)

*5 Rethinking the customer experience in museums with (Big) data (IntoTheMinds)

*6 Krebs, A. (2019) Musée et “mégadonnées” : partenariats de recherche au musée du Louvre. Grande Galerie, Hors-Série, pp 10-17.

(文:ぷらいまり)