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【ART✕Tech Vol.2】 ”ホンモノ”の美術品をどう見抜く? 進歩する 真贋判定 のテクノロジー。

先日、サザビーズのオークションに出品されたジャコメッティの作品が贋作であったとして、サザビーズは落札者たちに返金した上で、販売委託元に8億円近い損害賠償を求めた。※1

また、NFTの新興企業が「”最初の”印象派NFT」としてモネの作品のNFT販売を開始したが、もととなる物理的な作品自体の真贋が問われている。※2

2020年の世界の美術品の市場規模は501億ドルといわれているが、※3 そのうち贋作の市場規模については専門家の間でも意見が分かれているものの、2014年にスイスの美術専門家協会が発表したレポートによれば、流通している美術品の半分以上が偽物 (!) であるとも推定されているという。※4

こうした真贋の判定には、プロの目利きや鑑定書だけでなく、科学技術をつかったアプローチも行われている。プロは”ホンモノ”をどのように見抜いているのか? 最近のアプローチの事例を見てみよう。

絵画のクラック形状も真贋判定の要素のひとつ 画像引用:https://news.artnet.com/

▍時代錯誤の「素材」を見破る!

広く行われている方法のひとつは、蛍光X線分析やラマン分光法、質量分析などによって作品中に含まれる素材を分析する方法だ。

インディアナ美術館の美術品保存科学研究室 写真:Richard McCoy via Wikimedia Commons 画像引用:https://www.futurelearn.com/

ロンドンとニューヨークに拠点を置き、科学的手法で美術品の鑑定をサポートするArtDiscovery社では、美術の中での技術史と科学的な分析手法を組み合わせたアプローチを行っている。

例えば、その時代に存在していなかった顔料が絵の具の中に含まれていたり、古いはずの絵画に引っかかった絵筆が合成繊維で作られていたり、キャンバスにポリエステルやナイロンなどの合成繊維が含まれていたり、といった時代にミスマッチな素材を見つけることができれば、それは贋作であったり、後年に修復が施されたものであることが示唆される。※4

顔料のイメージ 画像引用:https://unsplash.com/

例えば、ハワイのギャラリーで販売されていたダリの版画が、ダリが版画へのサインをやめた後の時代に製造された下地紙が使用されていたことから贋作であることが判明した例がある。

これまでは複雑で分析しづらかったタンパク質の分析手法も進歩している。絵画の中には、塗料、接着剤、コーティング剤など、複数のタンパク質成分が含まれることがあるが、ペプチドマスフィンガープリント(PMF)という手法によってタンパク質を特定することで、地域や時代を判別したり、同じアーティストの年代の近い作品と素材が一致するかを確認することができるという。※5

なお、第二次世界大戦後に制作された作品は、元素分析によってはっきりと分かるという。1945年の核の時代開始以降に制作された美術品は、自然界にはほとんど存在しない放射性同位元素であるセシウム137とストロンチウム90が含まれているためだ。※4

▍AIはプロの目利きに勝てるか?

人間の目利きにかわり、AIによってその真贋を判断しようという研究もすすめられている。例えば、人間の脳の神経細胞の仕組みを模した「ニューラルネットワーク」を使った機械学習によって、レンブラントの絵画を学習させた例がある。※6

ここで気になるのは、こうした機械学習には膨大な「教師データ」が必要となるはずだが、レンブラントの絵画であれば現存するものは500点あまりと言われており、圧倒的にサンプル数が足りない点だ。これに対し、1枚の作品をAIが解析しやすいサイズ・形態のタイルに分割することによって、1枚の画像から複数の学習用のサンプルを作成し、データ数を増やしている。

レオナルド・ダ・ヴィンチの≪サルバトール・ムンディ≫を複数のタイルに分割した様子(レンブラントの解析を行ったのと同じ研究者による検討) 画像引用:https://spectrum.ieee.org/

当初は、レンブラントと画風の全く異なるアーティストを見分けることが出来たが、類似した作風の絵画や贋作を見分けることは出来なかった。しかし、学習データを工夫することによって、最終的にはレンブラントとその弟子や贋作者を90%以上の精度で見分けることに成功したという。

レオナルド・ダ・ヴィンチの≪サルバトール・ムンディ≫にニューラルネットワークを適用した結果。色が濃く示されている部分は、画家が描いたものである可能性が高いとAIが判断した領域 画像引用:https://spectrum.ieee.org/

こうしたAIによる目利きは、実用でもその能力が認められ始めている。スイスのArt Recognition社は、ファン・ゴッホの第一人者である学者から、一連のファン・ゴッホの絵画に対するAI分析を依頼され、ゴッホの数百枚のオリジナル画像と、偽造品の画像とを学習させた。※7

鑑定にかけられたゴッホの≪自画像≫ 画像引用:https://art-recognition.com/

真贋判定をした中には、長年にわたって真贋を問われていたオスロのノルウェー国立博物館所蔵の「自画像」があったが、結果的にAIはその作品を97%の確率で本物と分類した。その後、ノルウェーのオスロ国立美術館と、オランダ・アムステルダムにあるゴッホ美術館による調査の結果、「間違いなく」本物であるとお墨付きが与えられた。

このAIでは、アルゴリズムの評価を視覚的に示し、AIが真贋の判定にどこを注視したのかをマッピングで示すことができるという。それは人間が最終的な決定を与える際にも重要な意味を持つだろう。

Art Recognition社のAIが作成したヒートマップ。色の濃い部分が判定に強く寄与している部分。 画像引用:https://art-recognition.com/

▍今後生まれる作品の真正を担保するためには?

では、すでに真正が確認されたものや、これから生まれる作品の真正を将来的に担保するのには、どのような技術を使うことができるのだろうか?

こうした真正性を担保するものとしては、ブロックチェーンが思い浮かぶ。デジタル作品には、すでにブロックチェーン技術を活用したNFTが積極的に活用されている。

画像引用:https://unsplash.com/

ブロックチェーンは、削除・改ざん・複製などを防止した「証明書」への展開も可能だ。その情報と物理的な作品とを紐付けるのが難しいが、例えば、日本のスタートアップであるスタートバーンは、作品本体に直接貼付するICタグを使用して、「作品」と「情報」の強固な紐付けを実現しているという。※8

このほか、物理的な作品に「タグ付け」をする方法は様々に検討されており、近年では合成DNAを作品に埋め込むことが検討されている。実験室で合成されたDNAは、環境条件や改ざんの影響を受けることもなく、DNAを解読したりコピーしたりすることも困難だという。アーティスト個人のDNAではなく、合成品を用いることによってアーティストのプライバシーにも触れることがない。※9

画像引用:https://unsplash.com/

ロンドンを拠点としたスタートアップ企業Tagsmart社では、すでにこうした「合成DNA」ラベルと、鑑定書、デジタルパスポート(出所履歴)の3つを組み合わせたサービスを展開している。※10 同社は、この製品をアーティスト、ギャラリー、遺産、財団などと協力して製品を開発してきたため、普及が期待されている。※11

▍まとめ

贋作を見破るための技術は日々進歩している。その一方で、それを偽造する側の技術も高まり、鑑定する側は複数の技術を組み合わせてその判定を行っているという。

大手オークションハウスは、出品前に美術品の真贋を科学的に検証するための専門知識を購入したり、社内で開発したりして、専門家である鑑定士の意見を補強している。さらに、例えばサザビーズでは、オークションに出品された作品が本物でないことが判明した場合、5年間の返金保証もしている。

アートは決して安い買い物ではないが、折角購入した後に ”ニセモノ” に惑わされないためには、私たちにとっては、信頼の出来る場所から作品を購入することが最良の手段なのだろう。

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※ 参考

※1 Florida Couple Sold Allegedly Dubious Diego Giacometti Works Through Sotheby’s (ARTnews)

※2  Auction of Monet NFT Spurs Questions About Authenticity and the Future of Art (Defiant)

※3 The Art Market 2021 (Art Basel)

※4 Art attack: spot the forgery(ENIGINEERING AND TECHNOLOGY)

※5  Is the Art in an Estate Authentic? (Wealth Management.net)

※6 THIS AI CAN SPOT AN ART FORGERY (IEEE Spectrum)

※7 Art Recognition

※8 スタートバーン株式会社

9 These Four Technologies May Finally Put an End to Art Forgery (Artsy)

※10 TAGSMART

※11 Can Giving Paintings Their Own DNA Stop Art Forgery? (Smithonian MAGAZINE)

文:ぷらいまり