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世界3大オークションハウスの2021年を総括。新たな1年に向けて振り返る

新型コロナウイルスの影響がまだ残るなか、2021年が終わりを告げて数日。同年のアート界はNFTの熱狂的なブームが巻き起こり、アジア市場の拡大、数々の著名アーティストのオークション記録更新など話題に事欠かない1年だった。そこで、新たな年である2022年に迎えて、今一度2021年のアート市場、特に世界のセールスを牽引する主要オークションハウスのサザビーズ、クリスティーズ、フィリップスの総括を5つのポイント「売上高」「オンライン」「NFT」「アジア」「記録」で振り返る。

▍サザビーズ

出典:https://www.sothebys.com/

売上高

2021年の売上高は73億ドル(約8,400億円)を達成。その内、オークションの売上は60億ドル(約7,000億円)、プライベートセール13億ドル(約1,500億円)でサザビーズ創業277年の歴史のなかでも好調な成績を残した。

セールに参加した入札者は過去最多を記録し、その内の44%は新規顧客だった。500万ドル〜5,000万ドルで取引されるロット数は、2020年の91件から2021年には158件へと増加。特に、1,500万ドル以上での落札が例年より多い年となり、市場に出回る作品の質が向上したことを表す結果と言えるだろう。

オンライン

Sothebys.comへの訪問者数は1,320万人、オンラインカタログへの訪問者数は650万人に昇り、オンラインでの入札は総入札額の92%の20万件以上となった。新型コロナウイルスの強い影響により、インターネット上での売買の一般化が加速。2021年のサザビーズのオンラインの売上高は8億ドル(約920億円)に達成する記録的な年となった。

NFT

急激な成長を遂げるNFTは、もはやアート界を構成する欠かせない要素の一つである。サザビーズでも、これまでにデジタルアートシリーズの「Crypto Punks (クリプトパンクス)」の作品が約1,180万ドル(約13億円)で落札されたことが話題を呼んだ。

《Larva Labs》(2017年)
出典:https://www.sothebys.com/

そして10月15日、サザビーズは独自のNFTプラットフォーム「サザビーズ・メタバース」を開設。入札者の78%がサザビーズの新規、そしてその半数以上が40歳未満であったことから、テクノロジーに関心のある若いコレクター層を新しい顧客としての取り入れに成功した。

出典:https://bittimes.net/

アジア

サザビーズの全オークションにおいて、入札額の3分の1をアジアのコレクターが占め、500万ドル以上のロットでは46%が入札、または購入する結果に。特に11月のニューヨークのセールでは、奈良美智ゲルハルト・リヒターバンクシーなどの高額作品への入札の20%がアジアのコレクターによるものだったことからも、非常に意欲的な姿勢でアジア市場の拡大が進んでいると言える。

記録

サザビーズの主要セールにおいて、特に重要視されるアーティスト達が記録を更新し、その数は125にもなった。サザビーズで特に話題になったのは、バンクシーの《Love is in the Bin》が1,858万ポンド(約28.9億円)で落札され、バンクシーのオークション最高落札価格を更新。これもアジアのコレクターによる落札だった。

《Love is in the Bin》(2018年)
出典:https://bittimes.net/

▍クリスティーズ

出典:https://www.countryandtownhouse.co.uk/

売上高

2021年の売上高は、前年比54%プラスの71億ドル(約8,173億円)を達成。その内、オークションの売上は54億ドル(約6,216億円)、プライベートセールは17億ドル(約1,975億円)で、これはクリスティーズの過去5年間で最高となり、新型コロナウイルスが蔓延する前より高い水準に戻った。

オンライン

クリスティーズのオークションの約半数がオンラインで開催されており、その売上高は43%プラスの4億4,500万ドル(約512億円)と継続した増加を見せている。平均ロット価格は2016年には6,100ドルだったのに対し、2021年は23,400ドルで終了。2021年、クリスティーズで購入した全ての顧客の35%が新規、その約3分の2がオンライン経由で入ってきていた。

NFT

主要オークションハウスとして、初めてNFTを出品したのがクリスティーズであり、2021年は100以上のNFTが販売され、取引額は1億5,000万ドル(約173億円)近くにもなった。3月はデジタルアーティストBeeple(ビープル)の《Everydays – The First 5000 Days》が約6,935万ドル(約75億円)で落札され、存命アーティストのオークション記録第3位とデジタルアート作品の過去最高額を叩き出した。

《Everydays: the First 5000 Days》(2021年)
出典:https://caribbean.loopnews.com/

そして、NFTを購入した75%はクリスティーズの新規で、平均年齢は42歳。全体の新規顧客を見ても、32%をミレニアル世代が占めた。オンライン、NFTをきっかけにアートを購入する若手コレクターが増えており、新たな市場が生まれた年になった。

アジア

アジアのコレクターによる入札額は16.8億ドル(約1,934億円)となり、2019年対比では32%増加した。クリスティーズの全オークションにおける割合は、上半期の売上高の39%、通年では31%を占める。香港を会場としたオークションの売上は、2021年秋に10億3,000万ドル(約1,186億円)に達した。クリスティーズは、2024年に新しい香港本社の開設を予定している。

記録

2021年、クリスティーズは多くの貴重な作品に恵まれ、2021年のオークションで落札された最も高額な作品のうち、二つの記録を保持することになった。

1位になったのは、1億341万ドル(約113億2,500万円)で落札されたパブロ・ピカソの《Femme assise près d’une fenêtre (Marie-Thérèse)》。2位は、約9,310万ドル(約101億円)で落札されたジャン=ミシェル・バスキアの《In This Case》である。

《Femme assise près d’une fenêtre (Marie-Thérèse)》(1932年)
出典:https://www.artsy.net/

《In This Case》(1983年)出典:https://www.artsy.net/

また3月には、バンクシーの代表作の一つにも挙げられる《Game Changer》がチャリティー作品として最高額である1,675万8,000ポンド(約25億円)で落札。そして、12月、日本を代表するアーティスト草間彌生《Pumpkin(LPASG)》が6,254万香港ドル(約9億円)で落札され、存命する女性アーティストのオークション落札価格で最高額をマークした。

《Game Changer》(2020年)
出典:https://www.cnn.co.jp/

▍フィリップス

出典:https://www.phillips.com/

売上高

2021年の売上高は、12億ドル(約1,381億円)を達成。その内オークションの売上が9億9,330万ドル(約1,143億円)、プライベートセールが2億820万ドル(約240億円/12月20日時点)となり、2019年比では32%増加で終了。全セールにおける販売率は91%で、業界最高水準を誇る結果となった。

オンライン

ライブオークションにおいて、オンラインで参加した顧客へ販売された作品が2019年は全体の32%だったのに対し、2021年は50%へと上昇。オンラインのみの販売合計は、2019年から417%、2020年からは68%増加し、オンラインチャネルの需要の深まりが窺える。

フィリップスでは、2021年を通じて44,000の新規オンラインアカウントが作成され、オンラインとライブオークションを合わせた全顧客の50%がフィリップスでの新規購入者だった。

NFT

フィリップス初のNFTオークションに参加した入札者の88%は新しい顧客だった。また、オンラインオークション、ライブオークションともに全てのNFTが完売し、販売率の高さの底上げに一役買った。

フィリップスが販売したNFTで特に話題になったのは、カナダ人アーティストのマッド・ドッグ・ジョーンズの《REPLICATOR》が約414万ドル(約4.5億円)で落札されたこと。これは存命するカナダ人アーティストとしては最高額である。

《REPLICATOR》(2021年)
出典:https://news.artnet.com/

アジア

フィリップスの全オークション売上高の36%をアジアが占める結果に。2021年にフィリップスが販売した上位10ロットのうち、5つのロットの作品がアジアのコレクターに渡っており、アジアを拠点に活動するコレクターの層の厚さを物語っている。

香港で開催されたオークションの売上は2億7000万ドル(約310億円)を超え、前年のほぼ倍の結果を達成した。2022年秋には、香港に新しいアジア本部の開設を予定しており、フィリップスはアジア地域へのコミットメントを今後さらに強化していく姿勢だ。

出典:https://www.phillips.com/

記録

2021年フィリップスが販売した上位10ロットの9つをアート作品が占め、フランシス・ベーコンや奈良美智、ゲルハルト・リヒターなどがランクインした(詳しいランキングはこちら)。下のゲルハルト・リヒターの作品は、3位の1億197万香港ドル(約14.8億円)で落札された。

《Kerzenschein (Candle-light)》(1984年)
出典:https://www.phillips.com/

カテゴリー毎のオークションでは、「Editions(エディション)」セールにて、アンディ・ウォーホルの代表作であるキャンベル・スープをモチーフにしたプリント作品《Campbell’s Soup I (F. & S. 44-53)》が約103万ポンド(約1.6億円)が落札。バンクシー等のアーティストを抑えてトップになった(その他カテゴリーのトップはこちら)。

Campbell’s Soup I (F. & S. 44-53)》(1968年)
出典:https://www.phillips.com/

※オークションの落札価格は手数料込みで当時のレート、各オークションハウスの売上は2021年12月31日のレート(USD=115.11円)に統一して計算。

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参考URL
https://www.sothebys.com/en/press/2021-historic-year-in-review
https://www.christies.com/presscenter/pdf/10337/Christie’s%20EOY%202021%20Press%20Release_10337_1.pdf
https://www.phillips.com/press/release/2021-marks-phillips-most-successful-year-in-company-history

文:ANDART編集部