
日本は世界7位の売上約244億円【2022マーケットレポートまとめ】
世界の美術品オークションのデータバンクであるArtprice社が2022年のアート市場レポート「The Art Market in 2022」を発表。そのなかからポイントを「売上」「落札トップ3」「大富豪たちのコレクション」「アジア」に絞って内容をご紹介。(記事内のドルは全て1USD=132円で計算)

【売上】
史上4番目 約2兆1780億円
世界のファインアートオークション売上高は165億ドル(約2兆1780億円)に達し、2011年185億ドル、2014年180億ドル、2021年170億ドルに次ぐ、史上4番目の年間総売上高を記録した。

出典:The Art Market in 2022
国別:2022年ファインアート/NFTオークション売上高
1:アメリカ 73億ドル(約9636億円)
2:中国 39億ドル(約5148億円)
3:イギリス 21億ドル(約2772億円)
4:フランス 9億9100万ドル(約1308億円)
5:ドイツ 3億7900万ドル(約500億円)
6:イタリア 1億9000万ドル(251億円)
7:日本 1億8500万ドル(約244億円)
8:スイス 1億5400万ドル(約203億円)
9:韓国 1億3900万ドル(約183億円)
出典:The Art Market in 2022より
苦戦続く中国。アメリカは過去最高
アジア市場の中心である中国は、パンデミック以降ゼロコロナ政策による苦戦が続き、22年は34%減、20億ドル減の39億ドル(約5148億円)に止まった。中国の年間アートオークション売上高が40億ドルを下回るのは10年ぶりだという。
一方で、アメリカは26%増、15億ドル増の73億ドル(約9636億円)の史上最高額を記録。アメリカが成功をおさめた要因は、最も高値がついた作品が主にニューヨークで落札(5000万ドル以上の値がついた29件のうち25件)されたこと。また、取引件数としても世界の22%(15万8000件以上)を占めたことが挙げられる。
イギリスは21億ドル(約2772億円)を売り上げ、パンデミック前の水準へと戻る結果に。22年のアートオークション市場は、未だパンデミックの影響が残る中国とアメリカとで歴然な差が生まれた結果で終了した。
【落札トップ3】
成長を続ける「絵画」トップはウォーホルのマリリン・モンロー
22年は、100万点以上の作品(対21年で12%増)がオークションに出品された。絵画(Painting)、彫刻(Sculpture)、版画(Print)、そして写真(Photography)とNFTは過去最高の取引件数を記録。なかでも、絵画と版画が過去最高の売上高を記録した。

出典:The Art Market in 2022
特に絵画は22年の売上高の70.9%を占めた(取引件数はわずか37%)。アート市場において最も重要な位置にある絵画は、過去10年間で73%増と成長を続けている。22年のベスト25の作品は全て絵画で、セザンヌやゴッホ、ゴーギャンなどのヨーロッパの作家と並び、アメリカ美術の代表的人物であるアンディ・ウォーホルがトップを飾った。
2022年落札価格トップ3
1:アンディ・ウォーホル《Shot sage blue Marilyn》(1964)
約253億円($195,040,000)

2:ジョルジュ・スーラ《Les Poseuses, Ensemble (Petite version)》(1888)
約197億円($149,240,000)

3:ポール・セザンヌ《La Montagne Sainte-Victoire》(1888-1890)
約182億円($137,790,000)

【大富豪たちのコレクション】
3カ国分以上の売上に匹敵
中国以外の市場で126億ドル(約1兆6632億円)という記録を達成したのは、個人が所有する優れたコレクションの売却が大きな要因である。
22年、1億ドル以上の値をつけて落札された6作品全てがクリスティーズが開催した個人のコレクションセールから出品された作品だった(ポール・G・アレンのコレクションから5件、トーマス&ドリス・アマンのコレクションから1件)。これは、ドイツ、イタリア、日本の美術品オークションの年間売上高を合計した額よりも高い、総額8億900万ドル(約1068億円)の売上に相当する。
最終的にクリスティーズは、22年のアートオークション総売上高の41%をわずか3つの個人コレクションから創出。22年はクリスティーズにとって非常に豊作な年だったといえるだろう。以下はクリスティーズが開催し、成功を収めた個人のコレクションセールである。
トーマス&ドリス・アマン 約419億円
スイス人の姉弟でアートディーラーだったトーマス&ドリス・アマンのコレクション。その中には22年の落札価格トップになったアンディ・ウォーホルの《Shot sage blue Marilyn》を含む。22年に開催されたファインアート/NFTセールのなかで5番目の売上を記録した。
アン・H・バス 約479億円
続けて4番目のセールは、アメリカの投資家/コレクターだったアン・H・バスのコレクション。マーク・ロスコの絵画に6680万ドルの値をつけ、3億6300万ドル(約479億円)を達成。
ポール・G・アレン 約2141億円
そして22年で最も売り上げたセールが、ビル・ゲイツとともにマイクロソフト社を創業したポール・G・アレンのコレクション。16億2200万ドル(約2141億円)を達成し、個人のコレクションの売却としては初めての10億ドル以上を獲得した。
サザビーズを牽引したマックロウ・コレクション
サザビーズは22年という区切りではクリスティーズに及ばなかったが、21年11月と22年5月の2回にわたって開催したセール「マックロウ・コレクション」で総額9億2200万ドル(約1210億円)を売り上げた。これはニューヨークの不動産開発者/投資家のハリー&リンダ・マックロー夫妻によるコレクション。21年11月開催だけで6億7610万ドルを記録した際は大きな話題となった。

【アジア】
中国/香港
22年の北京の売上高は20億ドル(約2540億円)、香港は11.6億ドル(約1531億円)だった。苦戦が強いられる中国全体ではあるが、依然としてアジアのアート市場の中心地である。特にアジア最高である2500万ドル以上の落札を樹立した香港は、より国際的な市場へと成長を加速させている。
各オークションハウスが立て続けに香港に拠点を構えたことは、ここ近年でも注目のニュースだった。22年、世界のアートオークション売上高のうち香港で競り落とした割合は、クリスティーズ8%、サザビーズ12%、フィリップス13%だった。この三つを合わせると10億ドルを超え、香港の22年の総売上の90%に相当するという。この数字を見ればいかに香港がポテンシャルを秘めた場所であるかが分かる。
香港で人気が高いジャンルは現代アートで、特にアメリカの若手アーティストが注目を集めているという。例えば、1983年生まれのロイ・ホロウェルの《Lick Lick in Orange and Blue》は、わずか3年で13万7500ドル(19年9月クリスティーズ・ニューヨーク)から約7倍の96万3500ドル(22年4月サザビーズ・香港)まで評価を高めている。今後若手アーティストにとっては、香港で人気が出るかどうかが活動の道を拓く鍵になりそうだ。

《Abstraktes Bild》約33億7052万円($ 25,534,233)
出典:https://www.sothebys.com/

出典:https://www.sothebys.com/
日本
22年、日本は年間オークション売上高で世界第7位となり、11%増の1億8500万ドル(約244億円)の新記録を達成。減少した取引件数を価格帯の高さがカバーする結果となった。つまり、日本のコレクター間で強い競争心があったこと、需要の高さが伸びてきていることを示している。

出典:The Art Market in 2022
草間彌生、ロッカクアヤコ、奈良美智など日本を代表するアーティストが売り上げを牽引するとともに、22年の日本のトップを飾ったのもウォーホルであった。3月、羽田空港で開催されたシンワオークションにて、《Silver Liz Ferus Type》が約25億円で落札。国内オークションでの最高落札価格を記録した。

出典:The Art Market in 2022
韓国
22年、韓国のアートオークション市場は1億3900万ドル(約183億円)で終了。21年に売上高が約5倍に増加し、アジア市場の新しいハブとして台頭した韓国だったが22年は減少。しかし、パンデミック前の2019年以降では140%増という成長を見せている。

出典:The Art Market in 2022
オーストラリアでは1億1800万ドルを生み出すのに、1万8000件以上の販売が必要だった。それに対し、韓国は約3000点の作品だけで1億3900万ドルを生み出し、世界のアートオークションの年間売上高ランキングでは9位となった。
韓国で特に人気なのは草間彌生で、草間彌生の年間オークション売上高のほぼ10%は、ソウルで開催された売り上げに依存しているという。また、アートフェア「Frieze」の初開催、ペロタンやペースなどのギャラリーが新しいスペースを開設するなど、世界のアート市場のなかでも存在感が強められており、今後アジアの重要都市としての注目が強まる。
文:ANDART編集部