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浮世絵に魅せられた3人のアーティストを解説。よく耳にするジャポニスムとは?

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江戸時代初期から大正時代にかけて、当時の風俗を反映し様々な題材で描かれた「浮世絵」は、日本が世界に誇る絵画ジャンルである。長い美術史の中でも重要な位置付けがされており、その影響は時代や国境をも超える。中でも、特に浮世絵から影響を受けた3人のアーティストと作品をピックアップして解説。

ジャポネズリーとジャポニスムとは?

まず、浮世絵などの日本文化が海外、特にヨーロッパに与えた影響を語る時に押さえておきたいのが「ジャポネズリー」と「ジャポニスム」である。

1854年の開国後、日本の文化はヨーロッパへと次第に流れていき、1867年にパリ万国博覧会が開催。その頃からパリを中心に日本ブームが広まり、見慣れない外国文化への関心から、浮世絵などの日本的なモチーフが当時のフランス美術に取り入れられるように。これを「ジャポネズリー(日本趣味)」という。

一方で「ジャポニスム」とは、ジャポネズリーが日本文化への興味・関心に留まっているのに対し、日本美術の構図や色彩、造形などを研究し、新しい表現を追求したことである。ジャポニスムは絵画だけでなく、工芸品、彫刻、写真など多岐に渡ったジャンルに影響を及ぼした。最近はジャポネズリーを含めて、まとめてジャポニスムとして説明されることも多いが、意味を理解しておくと作品の見方がより深まる。

浮世絵に影響された3人のアーティスト

フィンセント・ファン・ゴッホ

ひまわりの絵で知られるオランダ生まれのポスト印象派の画家、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)は、浮世絵に強く影響を受けた代表的な人物のひとりである。

当時の西洋画とは違った色彩、輪郭線のある構成、影のない風景や大胆な構図に魅了されたゴッホは、1886年にパリへと移り、弟のテオと一緒に500点から600点以上浮世絵を買い集めたと言われている。浮世絵から影響を受けて制作したもので、特に有名なのは以下の3つの作品。

《タンギー爺さん》(1887年)
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

《タンギー爺さん》は、ゴッホが通っていた画材屋のオーナー、ジュリアン・タンギーをモデルにした肖像画。背景の浮世絵は、ゴッホ自身がコレクションしていた浮世絵を参考に描かれたと言われている。

《花魁(英泉を模写して)》
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

花魁を描いたこの作品は、江戸時代後期に活躍した浮世絵師、渓斎英泉(1791-1848/けいさい えいせん)の美人画《雲竜打掛(うんりゅううちかけ)の花魁》が左右反転して印刷された、1886年5月号の『パリ・イリュストレ』(日本特集号)の表紙を模写したもの。色彩はゴッホのオリジナルで、背景に書き込まれた鶴とカエルはフランス語で「売春婦」という意味の俗語だったそう。

《ジャポネズリー:梅の開花(広重を模して)》(1887年)
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

《名所江戸百景 亀戸梅屋舗》(1857年)
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

江戸時代の浮世絵師・歌川広重(1797-1858)の連作の浮世絵名所絵《名所江戸百景 亀戸梅屋舗》を模写した作品。原作よりも力強い色彩で、左右縦に文字を描き込んでいるのが特徴。平面的な色彩で描かれる浮世絵だが、油彩で模写されると立体感が生まれ、また違った味わいの雰囲気になる。

タイトルにもあるように、以上の作品は「ジャポネズリー」として捉えられるが、ゴッホの隠れた浮世絵の影響が現れたジャポニスムの作品が《アルルの寝室》である。

クロード・モネ

画像引用:https://www.wikiart.org/

次に挙げられる人物はフランスの印象派を代表する画家、クロード・モネ(1840-1926)。モネが描いた連作「睡蓮」に出てくる橋は、浮世絵に出てくる日本の太鼓橋がモチーフされたことは有名だ。

《日本橋と睡蓮》(1899年)
画像引用:https://www.posterazzi.com/

《名所江戸百景 亀戸天神境内》(1856年)
画像引用:https://www.ndl.go.jp/

しかし、モネはゴッホとは少し違って、浮世絵から受けた影響を明らかな形で自らの絵画に落とし込むことをあまりしなかった。

例えば、《オンフルールのバヴォール街》は、手前に広く広がった道が奥に向かって細くなり、右に消えていく。この構図は、モネがコレクションしていた歌川広重の《名所江戸百景 猿わか町よるの景》とよく似ている。また、《船遊び》は川面を少し上からの視点で捉え、船の半分を切り取った大胆な構図は浮世絵からヒントを得ていると考えられている作品。

《オンフルールのバヴォール街》(1864年頃)
画像引用:https://www.wikiart.org/

《名所江戸百景 猿わか町よるの景》(1856年)
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

《船遊び》(1887年)
画像引用:https://ja.wikipedia.org/

《ラ・ジャポネーズ》は、モネの最初の妻・カミーユモデルに着物を着せて描いたもの。ジャポニスム寄りの制作志向が見えるモネだが、これはモネが制作した唯一のジャポネズリーの作品である。

《ラ・ジャポネーズ》(1876年)
画像引用:https://www.wikiart.org/

ジュリアン・オピー

画像引用:https://www.operagallery.com/

時代は19世紀から現代へ。1958年ロンドン生まれのアーティスト、ジュリアン・オピーも同じく浮世絵に影響された人物。オピーが浮世絵(日本)から受けた影響が如実に出ている作品が、美しい日本の景色を現代の映像技術を用いてアップデートした《日本八景》シリーズ。オピー自身が富士山周辺を旅した経験が元となり、歌川広重が描いた浮世絵の風景画を彷彿とさせる作品だ。

《「日本八景」より国道五十二号線から南部橋をのぞむ》(2007年)
画像引用:https://www.julianopie.com/

こちらの作品は、川面と花が風に揺れ、山梨県にある橋の上の自動車は現実の時間経過と同じ速度で往来する仕掛けが施されている。

《「日本八景」より真鶴半島の上の月》(2007年)
画像引用:https://ocula.com/

神奈川県足柄下郡真鶴町にある半島を描いた作品。水面に映る光が揺めき、飛行機がライトを点滅させながら左右に置かれた画面をまたいで飛行する。これらの映像作品は車が走る音、風の音や騒音などの「音」も組み込まれていて、絵画とは一味違ったアート鑑賞ができる。

また、この2007年の映像作品シリーズに続いて2009年にプリントシリーズも制作。アルプスの山々が映える作品は、池の雑草を手前に持ってきて、背景にそびえるアルプスの山との対比を強めた構図で描かれている。これは《名所江戸百景 亀戸梅屋舗》にも通じた構図であり、オピーが歌川広重から受けた影響を垣間見ることができる。

《「日本八景」より日本アルプスサラダ街道から見る南アルプス連峰》(2009年)
画像引用:https://www.myartbroker.com/

浮世絵が世界のアーティストに与えた影響を少しでも感じ取ることはできただろうか。他のアーティストや作品を挙げ始めたらキリがないくらいに、浮世絵及び日本文化は世紀を超えて愛されている。人種や国などの垣根を超えて受容され、より美しさを求めて洗練されていくところがアートの素晴らしいところであり、面白いところ。これから先、次世代のアーティストに浮世絵はどんな影響を与えるのだろうか。アートが紡いでいく歴史に注目したい。

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文:千葉ナツミ