
TERRADA ART AWARD 2021の審査員賞が決定。ファイナリスト展をレポート。
新進アーティストの支援を目的とした現代アートアウォード「TERRADA ART AWARD 2021」の審査員賞が2021年12月10日に発表され、同日より「ファイナリスト展」もスタートした。
「TERRADA ART AWARD 2021」は美術品保管を主軸に展開する「寺田倉庫」の主催するアートアウォード。作家としての展示経験歴が1年以上10年未満であることを条件とした公募展で、平面、立体、インスタレーション、映像、パフォーマンスなど、全てのメディアを対象としている。
今回、応募総数1346組の中からファイナリストとして、持田敦子、山内祥太、川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈の5名がファイナリストとして選ばれ、その新作が寺田倉庫 G3-6Fに一堂に会している。
この記事では、現在開催中の「TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展」で展示中の5名の作品を、審査員のコメントとともに紹介する。

▍展示空間全体で1つの絵画を作り上げる新しいチャレンジ | 川内理香子(寺瀬由紀賞)

会場に入ると、ピンク色の絨毯の敷かれた空間の中に置かれた、油彩のペインティング、針金の半立体、ネオン管の彫刻といった作品が目に入る。食への関心を起点に、食事・会話・セックスといったコミュニケーションの中で見え隠れする、身体と思考、自己や他者、それらの相互関係の不明瞭さを表現しているアーティスト・川内理香子の展示空間だ。
今回、川内は、床の色を染め、展示空間全体で1つの絵画を作り上げるという新しい試みにに挑戦している。また、多様なメディアでの表現を通じ、様々な”線のあり方”を探っている。空間の中に立体の”線”を描いたような空間だ。

審査員賞を与えた寺瀬由紀は、「川内から紡ぎ出される線の集合体が、ダイアログを持つ術を見つけたことで、今後どのような展開を見せるのか、ますます楽しみである。」と評している。
▍人間とテクノロジーの恋愛模様を描く パフォーマンス・インスタレーション | 山内祥太 (金島隆弘賞)

巨大なディスプレイの中で舞う巨大なゴリラの映像。VRや3DCGなどテクノロジーをベースに制作した映像作品やインタラクティブな装置と身体パフォーマンスや粘土彫刻といったプリミティブな行為の融合を行う山内祥太の作品≪舞姫≫。
ダンサーが自身の身体と「皮膚の服」にセンサーを取り付け、それらを着脱しながら舞うことで、「皮膚の服」を通じてひとつになろうと試みる「人間」と「テクノロジー」の、愛と依存性を表現するパフォーマンス・インスタレーション作品だ。パフォーマンスは1日3回、13:00〜13:30 / 15:30〜16:00 / 18:00〜18:30 に実施されるので、是非時間をあわせてご覧頂きたい。

審査員賞を与えた金島隆弘は、「山内さんはいわゆるデジタルネイティブ世代の人だが、テクノロジーに対して冷静で客観的に向き合い、今あるテクノロジーを組み合わせている。パフォーマーの人の要素を取り入れたり、人間の複雑な感情を組み合わせながら絶妙なバランスで作品を成立させている。」と評した。
▍見慣れた風景を彫刻作品に転換 | 持田敦子 (片岡真実賞)

天井まで届く、仮設の足場材で絡み合うように組み上げられた多数の螺旋階段。既存の空間や建物に、仮設の壁面や階段などの「異物感」の強い要素を挿入し、日常の「あたりまえ」にゆらぎを与えるような作品を国内外で発表している持田敦子の作品 ≪Steps≫ だ。
螺旋階段のモチーフは、持田が2013年から手がけてきたものだが、今回は屋内外問わず、傾斜地や崩壊地も含めた空間にも展開可能なシステムを目指し、新たな手法での設置を試みたという。単管パイプを用いた階段は、工事現場で見かけるものだが、それを三次元的にカーブさせることによって、ひとつの彫刻作品として仕上げている。
無機質な仮設の階段ながら、二重螺旋をイメージさせるようなカーブや、周囲の環境に合わせてフレキシブルに組み立て直しが出来る様子からは、有機的な印象も感じられる。

審査員賞を与えた片岡真実は、「行き先のない階段をつくることによって、先行きの不確実性、ぐるぐるとまわってどこに行くか分からないような「今」を象徴している。また、長らく自宅にいてフィジカルな体験ができないなか、具体的な体験によってスケール感のダイナミズムが生まれている」と評している。
※ 今年の秋、持田敦子の発表した回転扉の作品の様子はこちらの記事に▼
▍膨大なリサーチの中から独自の映像と装置で物語を紡ぐ | 久保ガエタン (真鍋大度賞)

今回の会場のある「天王洲アイル」の場所への綿密なリサーチをもとに制作されたのは、「記憶の遠近法」と呼ぶ調査を行うことで、地球の裏側、過去から未来、現実と神話などをリンクし、独自の装置によってそれらを考察した久保ガエタンの作品。
「天王洲」の地名の由来や、会場周辺に残る「鯨」との関わりの痕跡、羽田空港新飛行ルートとして会場の頭上450mを航空機が通過する現在の様子など、一見つながりのないものごとが、映像の中でリンクしていく。
また、その映像を音声変換したスペクトログラム、および鯨の鳴き声を会場外にある桟橋に転送して海中スピーカーによって音を流し、海中マイクによって海の中の音を会場に転送するなど、会場の内外を作品で繋ぐという意欲的な試みも行っている。

審査員賞を与えた真鍋大度は、「今はインターネットで検索をする際、どうしても自分のバイアスがかかっていて、そこから最適解を見つけることが当たり前になっている。久保さんの作品を通じ、本当はもっと楽しいことやセレンディピティが生まれるはずの所を、自分でバイアスをかけすぎて狭いところに考えが留まっているのではないかと感じた。もっと自由に情報を結びつけて新しいものを作る可能性を探っても良いのでは無いかと考えさせられる作品だ。」と評した。
▍自身のアイデンティティと普遍的な問題を映像で繋ぐ | スクリプカリウ落合 安奈 (鷲田 めるろ 賞)

小さなモノクロームの海の写真が掲げられた入り口を通って展示室に入ると、目の前いっぱいに巨大な海の映像が広がる。日本とルーマニアの2つの母国に根を下ろす方法の模索をきっかけに、「土地と人の結びつき」というテーマを持ち、丁寧なリサーチに基づいた作品を発表してきたスクリプカリウ落合安奈の作品だ。
≪骨を、うめる – one’s final home≫ は、「鎖国と国際結婚」をテーマに、平戸で行ったリサーチに基づく映像作品だ。2つの母国を持つ落合自身のアイデンティティとも結びつくような作品である一方、誰もがコロナ禍で移動を制限されている現在のもどかしさともつながって感じられるのではないだろうか。
鑑賞者を取り囲むようにしたスクリーンと、物語の展開される静的なスクリーンの2つの映像を見るために展示室の中央に身を置くと、様々な方向から音が聞こえ、カーテンは鑑賞者の方になびき、それに伴って海の映像も揺らいで見える。映像体験としても印象的な作品だ。(15分のループ作品。毎時00分、15分、30分、45分開始)

審査員賞を与えた鷲田 めるろは、「様々なものをそぎ落としながらシンプルな形でまとめ上げられたインスタレーションだ。作家自身のアイデンティティを問う問題から出発しているが、それを普遍的な問題に広げられている。」と評した。
※ スクリプカリウ落合安奈の個展「わたしの旅のはじまりは、 あなたの旅のはじまり」でのインタビュー▼
まさに今注目の若手アーティスト5名の新作が一堂に会する展覧会。テーマやメディアは異なるが、いずれも空間そのものをひとつの作品に変換するような作品だ。是非、会場でご覧になっていただきたい。
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【展覧会情報】
TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展
展覧会URL:https://www.terradaartaward.com/finalist#exhibition
会期:2021年12 月10日(金)~2021年12月23日(木)
会場:寺田倉庫 G3-6F(〒140-0002東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号)
開館時間:11:00~19:00(最終入館 18:30)
入場料:無料 ※日時指定予約制
アクセス:東京モノレール羽田空港線天王洲アイル駅中央口 徒歩5分、東京臨海高速鉄道りんかい線天王洲アイル駅B出口 徒歩4分
入場予約:https://www.terradaartaward.com/finalist
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文・写真:ぷらいまり