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なぜウールマーク? TARO NASUのジョナサン・モンク展でフェミニズムや美術史の再考を促す新作を展示

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六本木のギャラリー「TARO NASU」で2021年9月4日(土)から、ジョナサン・モンクの個展が開催されている。メッセージ性の強い言葉を機械編みで織った作品を通じて、美術の歴史やフェミニズムに言及したという本展をレポートする。

今回、展示されているのはジョナサン・モンクが手がけてきたニット・ペインティングのシリーズ「Wool Piece」の6点の新作。それぞれ「FEAR」「DRNK(Drunk、母音は省略されている)」「RIOT」「HAAH(SNSのスラングで「笑」と同意)」「AMOK(荒れ狂う、逆上するなどの意味。ダブルミーニングとして「I am ok」。受け取り方は鑑賞者に委ねられる)」の単語が織り込まれている。

ジョナサン・モンクは、1969年イギリス・レスター生まれの作家。学生時代に「アートの『完全なオリジナル』をつくることは、ほぼ不可能」という考えにいたり、既存作品の模倣や引用、見立てなどを用いた制作を行っている。これまでにソル・ルウィット、アンディ・ウォーホル、デイヴィッド・ホックニー、エド・ルシェ、河原温といった、自身が尊敬する現代美術の巨匠の作品を引用し、読みかえて見せることで美術の再解釈を行なってきた。「Deflated Sculpture(2009)」シリーズでは、ジェフ・クーンズの風船型の金属彫刻《ラビット(Rabbit)》を、空気が抜けた状態に再構成した作品を発表している。

《Deflated Sculpture V”》(2009)
©︎Jonathan Monk Courtesy of TARO NASU

今回、モンクが引用したのはクリストファー・ウールの作品だ。そのため、個展のタイトルがウールマークのロゴとなっている。しかし、TARO NASUのHPの個展情報に、クリストファー・ウールの記載はなかった。まずはブリティッシュ・ジョークで、一発かまされるとは……。ウィットと皮肉に富むモンクの作品をこれから見られることに期待が高まる。

アメリカ人アーティストのクリストファー・ウール(1955〜)は、80年代前半のストリートグラフィティに影響を受けた作家だ。モンクが「Wool Piece」で引用したのは、テキストを黒のステンシル文字で大型のキャンバスに描く、ウールの代表的なシリーズ。カラフルでスタイリッシュなポップアートから距離をとるウールのペインティング作品は、いかにも男性的でいかつい。

ウールがステンシルでテキストを描く作品の制作を始めたのは1980年代後半。文字はグリッドで分割され、角ばったオブジェクトとして画面上に配置される。「DRNK」のように、母音が省略された作品もある。

対してモンクは、テキストの境界線やエッジが強く出るステンシル作品を、織物の柔らかいマテリアルと、目の荒いウールで柄を織り込む工程で柔らかに再構築した。

Jonathan Monk《Wool Piece Ⅷ》(2021)

また、本展の新作では全て4文字の言葉の作品が選ばれている。TARO NASUでは2014年にもモンクの個展「The Reader」で「Wool Piece」シリーズが1点発表されているが、テキストとしては長い。今回は意味を持ちながら、文字を規則的に配置するためにはおそらく最短であろう4文字の言葉が、画面に大きく配置された作品となっている。

《Wool Piece II》(2014)
©︎Jonathan Monk Courtesy of TARO NASU

さて今回は、モンクのフェミニズムの言及について、過去作を編み直して提示することで、より時代性が強調されることに着目したい。

まず、モンクが織物を使った点だ。例えばウールを使った作家に、工業用織物機を使ってニット作品を手がけたドイツ人アーティストのローズマリー・トロッケルがいる。トロッケルは80年代後半から女性的なものとされる織物を使って男性的なモチーフなどを織る、ニット・ペインティングを制作した。女性や女性を取り巻く社会をテーマにするトロッケルに限らず、ケイラ・マッツ、ローラ・ロカスといった女性アーティストが、織物を意図的に用いている。当時、女性アーティストが織物をメディアに用いることは、女性が抑圧される社会への批判だった。

モンクはたびたび、巨匠と呼ばれる現代アーティストのオマージュ作品を手がけてきた。美術史の文脈を更新したアート作品も、いずれ過去のものとなり、美術史は更新されていく。過去の作品を時代を経て引用し再構成を行うことで、モンクの作品には当時の時代性とアクチュアルなテーマ性という二つの側面が両立している。

過去の男性的な作風の作品のコンセプチュアルな部分を抽出し、フェミニズムを追求してきた女性作家たちの代表的な手法を用いて制作することで、男性作家であるモンクがフェミニズムにつきまとう当事者性を軽やかに交わしながら、現在のジェンダーロールも追求できるのである。

現在、男性中心で欧米先行だった美術業界の中で認知されずにいた女性作家を再評価する動きが起こっている。本展はそういった現代アート史を再考するための新しい視座が得られる展示にもなっているのではないだろうか。会期は10月2日(土)まで。

展示情報
TARO NASU ジョナサン・モンク個展

会期:2021年9月4日(土)〜10月2日(土)
住所:東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル4F
営業時間:火〜土、12:00-18:00
休廊:日月祝
http://www.taronasugallery.com/exhibition/current/

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<参考URL>
・http://www.taronasugallery.com/artists/jonathan-monk/
・https://gagosian.com/artists/christopher-wool/
・https://www.dw.com/en/knitted-pictures-hot-plates-and-pigs-artist-rosemarie-trockel-defies-categorization/a-41353789
・https://i-d.vice.com/jp/article/ev8j5z/weaving-art-womens-work

文:石水典子