
「直島」と「江之浦測候所」とを繋ぐ場所ー 直島に誕生する「杉本博司ギャラリー」とはどんなギャラリーなのか?
直島に2つの新たなギャラリー「杉本博司ギャラリー 時の回廊」「ヴァレーギャラリー」が2022年3月にオープンすることが発表された。
記者発表には杉本博司も登壇し、30年にわたる自身と直島との関わりについて語られた。この新たなギャラリーは、杉本にとってどのような場所なのか?また、その見どころと合わせて見てみよう。
▍杉本博司と直島の関係

The work originally created for LE STANZE DEL VETRO, Venice by Pentagram Stiftung
直島では、李禹煥、横尾忠則、安藤忠雄につづく、作家名を冠した4つめのギャラリーとなる「杉本博司ギャラリー」。今回の会見には、ベネッセアートサイト直島代表の福武總一郎も参加したが、杉本は「福武氏との付き合いが人生に多大な影響を与えた」と語った。
杉本と直島の関わりは30年前にさかのぼる。1992年、杉本はベネッセハウスミュージアムが完成した際のグループ展に参加し、美術館の外壁に「海景」シリーズの写真作品 ≪タイム・エクスポーズド≫ を展示した。直射日光にさらされることで色あせていくことを想定し「諸行無常」というテーマで屋外に設置された作品は、今も色あせることなく瀬戸内海の水平線を見つめている。
その10年後、島内の神社をアートとして再建すべく、「家プロジェクト」の作品として≪護王神社≫を制作。当時、杉本に「建築家」という意識はなかったというが、本作品がMOA 美術館やIZU PHOTO MUSEUMの設計など、建築との関わりへの入り口となり、建築家・榊田倫之との「新素材研究所」の創設へつながっていったという。

さらにその15年後、アート的な建築の集大成であり、杉本が自身の「遺作」として位置づける ≪江之浦測候所≫ を小田原に創設。建築と作庭を中心とした壮大なランドスケープの作品だが、一方で、その場自体が建築とアートが”一体化”したような施設であるため、自身の作品をそこに展示するという意識はあまり生まれなかったという。

自身の作品を展示できる場所が欲しいと思っていた中、2018年のベルサイユ宮殿で展示を行った≪硝子の茶室 聞鳥庵(もんどりあん)≫において福武と対話を行った結果、杉本の代表的な写真や彫刻作品を継続的かつ本格的に鑑賞できる展示施設として「杉本博司ギャラリー」を開館することとなったという。
▍杉本博司ギャラリーのみどころは?
直島と江之浦測候所をつなげるような位置づけとして構想された「杉本博司ギャラリー 時の回廊」だが、そこにはどのような作品が展示されるのか見てみよう。
≪硝子の茶室 聞鳥庵(もんどりあん)≫

全面が無色透明な硝子で出来た一辺約2.5mの立方体の茶室。2014年のヴェネツィア建築ビエンナーレ関連展のために制作された後、2018年にベルサイユ宮殿、そして2020年に京都と旅を続け、直島が永住の地となる。
ラウンジ&ボードルーム

ホテル「ベネッセハウス」内のラウンジ&ボードルームも、杉本率いる「新素材研究所」のデザインによって一新する。中心となるのは、4000年前の神代杉や樹齢1000年の屋久杉など、長時間を生きてきた木材を使った彫刻としての家具だ。改装に当たっては、安藤忠雄の建築のディテールを保全しながらすることを意識しており、「(安藤との)合作と言っても良いものができた」と杉本は語っている。
写真作品群

杉本の写真作品のなかで転機となったような作品も展示されている。そのひとつは、1977年の ≪華厳の滝≫ だ。水を撮影することに注目した最初の作品であり、杉本の代表的なシリーズ「海景」のきっかけとなったという。
また、2018年の≪optics≫は、それまでモノクロームの撮影を続けていた杉本が初めて色を取り入れた作品だ。

Koyanagi
このほか、直島には、先に述べた1992年からミュージアム外壁に設置された ≪タイム・エクスポーズド≫ や、「家プロジェクト」の≪護王神社≫などもあり、島をめぐりながら杉本の多岐にわたる活動に触れることができる。
▍もうひとつの新施設「ヴァレーギャラリー」とは
「杉本博司ギャラリー」と同時に、直島で9つ目の安藤忠雄建築となる「ヴァレーギャラリー」もオープンする。こちらは、李禹煥美術館向かいの山間、その名の通り”谷間”に位置するが、春になるとツツジが咲き乱れ、極楽のような場所になるという。
祠をイメージして作られたという半屋外建築で、建築とその周辺の屋外空間を含めた一帯が「ヴァレーギャラリー」となっている。

建物は地形にあわせた台形のような形状をしており、二重構造のコンクリートの壁、切り込みの入った鉄板の屋根を持ち、その開口部から建物内部に雨や風、光といった自然の呼吸をそのまま取り入れる構造となっている。安藤忠雄は「小さくとも結晶のような強度を持つ空間を作ろうと考えた」という。
こちらには、草間彌生と小沢剛の作品が展示される予定だという。
草間彌生 ≪ナルシスの庭≫

Copyright of Yayoi Kusama, courtesy of Ota Fine Arts
多数のミラーボールを敷き詰めたインスタレーション。1966年、ベネチアビエンナーレでの会場でゲリラ的に展示を行い世界的な注目を集めた作品であり、草間彌生にとっても記念すべき作品だ。
小沢剛 《スラグブッダ 88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた 88 体の仏》

直島の歴史に残る88箇所の仏像をもとに、豊島に不法投棄された産廃を焼却処理した後のスラグでつくった像。2006年より恒久展示されていたが、今回、一部改変した形で改めて展示がなされるという。
今回の新ギャラリー設置について、ベネッセアートサイト直島代表・福武總一郎は、「混沌とした今、とてつもない大きな時代の変化が起こっている中ではありますが、この美しい自然の中で茶室の中に入って本当に大事なものは何かを真剣に考え、対話する空間ができればという意味合いで作りました。世界を変えていく発想や思想が、この直島から生まれる可能性も多分にあると期待しています。」と述べている。
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文:ANDART編集部