
ルールの世界にもついに転換期が到来!?「ルール?展」レポート
法律や規則、当事者間の契約・合意、文化的な背景に基づいた規則やマナーまで、世の中に存在している、あらゆるルールについて多角的な視点から紹介する展覧会「ルール?展」が、東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTにて開催されている。
本展は、法律家の水野祐、コグニティブデザイナーの菅俊一、キュレーターの田中みゆきの3名のディレクターチームがタッグを組んで企画されたもの。
昨年のコロナを機に社会の構造が大きく変化している今、ルールもまた大きな転換期を迎えている。そのような中で開幕以来、20代の若い世代を中心に連日盛況という本展の魅力とはいかに??本展の見どころをピックアップしてご紹介したい。
本展鑑賞の際にも早速適用される、2つのルール
会場の入り口付近には早速、ルールについて考えさせられるような展示《鑑賞のルール》が設置されている。こちらは「好きなスタンプを2つ選び、そこに記載されているルールに従って展覧会を鑑賞してみましょう」と、これまでにない体験を促す仕掛けになっている。

スタンプには、例えば「3びょうかん 目を閉じてから 作品をかんしょうしなければならない」、「きほんてきに えがおで いなければならない」など、ユニークな決まりごとが入っている。
本作は、鑑賞にささやかなルールを持ち込むことによって、展覧会という小さな社会のあり方に揺さぶりをかけようとする試みによって生まれたものだという。
自分なりのルールを決めて展覧会を鑑賞してみたら、どんな新しい体験が待っているだろう。ルール展をより楽しむための最初のフックとして、ぜひチェックしたい内容である。
まちを見渡せば実は無数にある「#これもルールかもしれない」
会場に入ると、「#これもルールかもしれない」という大きなパネル展示が目に入る。中央には街中のほんの一コマを写したに過ぎない写真があるが、よく目を凝らして見ると、まちには予想以上にたくさんの標識が存在していることに気づく。
地下鉄の駅の標識からアンテナに関するルール、工事現場に関するルール、歩道における自転車の交通に関するルールまで、実はこんなにも多様なルールによって、まち=公共の場が成り立っているのだ。

また近くには、水野祐と菅俊一が企画構成した「ルールのつくられ方(法令の場合)」が展示されている。こちらは、ルールがどのようなプロセスでつくられているのか?ということを、日本の法令を例に図解したもの。
法律とは一般に、一度決まったらなかなか変えることができないというイメージがあるのかもしれない。しかし法律案の原案がつくられる部分に焦点を当てた内容を目にすることで、私たち国民が法律案に関与できる可能性があるということ。またそれとともに、法律とは本来、不断に見直されたり調整されるべきものである、ということが見えてくるだろう。

民主主義の決定プロセスを疑似体験できる、《あなたでなければ、誰が?》
続いてのセクションでは、ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコトル)+田中みゆき+小林恵吾(NoRA)×植村遥+萩原俊矢×N sketch Inc.による作品、《あなたでなければ、誰が?》(2021)が展示されている。
こちらは鑑賞者自らが統計を構成する一員となることで、民主主義の決定プロセスを疑似体験できるという、“参加体験型”の展示であるのが特徴だ。
展示室では、日本人の深層意識を揺さぶるようなテーマから社会の仕組み、現代のインターネット社会における問いに至るまで様々な問いが投げかけられる中で、鑑賞者はイエス・ノー、あるいは賛成・反対で自らの意見を選択していく。

しかし回答した後にスクリーンに映し出される内容は、各質問に対する意見のパーセンテージ、無機質な統計数字の結果に過ぎない。

民主主義の決定プロセスの手法としては、現状、多数決が広く普及している。しかし新型コロナウイルスをはじめ社会環境が変化する中で、目下、最終的な意思決定のプロセスという点においては様々な課題が浮き彫りになりつつある。
そうした状況を踏まえ、現状への問題提起を投げかけるだけでなく、より良い合意形成のあり方を探ることを提示する意味で、法律やルールについて深く考えさせられる機会となるだろう。
《規制によって生まれる形》と《企業が生むルール》
続いての展示、《規制によって生まれる形》では、ドローンから航空法、ビール系飲料から酒税法や食品衛生法、(法律ではないが)ビールの表示に関する公正競争規約などを取り上げて、私たちの日常の法を含むルールがプロダクトの造形やデザインなどにひそかに影響を与えている事例を紹介している。
例えばドローンだと、航空法の規制がかかるため、人や家屋が密集している地域の上空での飛行は禁止されているが、重量が200g未満の場合は航空法上の取り扱いが異なるなど、タイムリーな例をピックアップ。

また《企業が生むルール》では、昨今社会の中に急速に普及している「QRコード」を例に挙げて紹介。企業が新しいシステムやサービスを生み出すことでユーザビリティが改善される一方で、一旦標準として社会に普及すると様々な選択肢を選び難くなる状況が生まれる側面についても触れている。
社会に存在しているルールとは国の法律だけでなく、企業が生むものもあり、社会的責任という意味において企業もまた重要な役割の一端を担っているということを、改めて認識させられる内容だった。
一人一人がまちを作る構成員となる未来を示す、「シビックテック」の可能性
一般社団法人コード・フォー・ジャパンの展示、《のびしろ、おもしろっ。シビックテック》も、これからの新しい社会のあり方やその可能性を探るという意味で、ぜひ注目したい内容だ。
こちらでは参加型のまちづくりにおいて、市民がテクノロジーを活用して地域課題を解決する取り組みとして今注目を集めている「シビックテック」の導入事例の一端を、ピックアップして紹介している。

現状の代表制や多数決による意思集約において、いかに少数異見を反映させていくかは民主主義の重要課題ではあるが、シビックテックはその一つの解決策となりうると、期待されている。事実、2021年に新設されるデジタル庁では、シビックテックを活用した「デジタル改革アイデアボックス」が、すでに稼働しているという。
オープンソースのプラットフォームを活用することで民意がフラットに反映される社会は、そう遠くはない未来に実現する可能性を秘めているのかもしれない。
多様な価値観が受け入れられる中で、婚姻という契約はどこへ向かうのか?
同性婚やそれに類似する法律を巡って、近年重要なテーマとなりつつある婚姻について、新たな可能性を示唆する遠藤麻衣の《アイ・アム・ノット・フェミニスト!》にも注目。
こちらでは、恋愛関係を抜きにした関係でありながらも、信頼関係で深く繋がった二人がどのような議論を行い婚姻契約を結ぶのか。合意に至るまでのプロセスを映像で紹介するとともに、実際の婚姻契約書が展示されている。
価値観が多様化する社会において従来型の婚姻のあり方や契約内容が見直されつつある今、「契約によって結ばれた関係性とは何か」ということについて、考えせられる内容である。
テクノロジーの進化によって変わりつつある、「死」の概念
婚姻とならび、どんな人生のライフステージにも必ずやってくる「死」というテーマを扱った、Whatever Inc.の《D.E.A.D. Digital Employment After Death》では、死の概念が覆されるような体験をするかもしれない。
日本では現状の法律では、人が亡くなった場合、所有権などの財産的な権利は相続される。しかし肖像権やプライバシーといった「一身に専属した」人格的な権利は相続されないことになっている。(海外ではこうした個人に属する人格的な権利が相続されることが適用されている国もある)
しかし現代の急速なデジタルテクノロジーの発達によって、例えば故人の発言をAIに学習させてキャラクターを生成したり、声を生成してあたかもその場に生きて存在しているかのようなシステムが生まれたりと、生前の個人データを利用して故人を疑似的に復活させることが、少なくとも技術的には可能になっている。

そうした意味で、昨今の死にまつわるテーマは、個人に帰属する情報がもはや死後の世界にまで及ぶ、ということを示唆的に表している証と言えるだろう。
倫理の観点から多くの議論を巻き起こしてはいるものの、実際に活用される日も来るのかもしれない。
この他にも、早稲田大学 吉村靖孝研究室による《21_21 to “one to one”》が会場の至るところに設置されている。この作品は安藤忠雄が手がけた21_21 DESIGN SIGHTが、どのような建築ルールに則ってできているか?ということを作家が考察し、解説したものとなっている。



まとめ
法律や組織の規則をはじめ、言葉ではっきり明示されていないものも含めて、私たちは日頃から様々なルールに従って生きている。
そして、もし社会にルールというものが存在しなかったとしたら、途端に秩序は失われ混乱を招いてしまうことになるだろう。
しかし、だからといって「ルールは守るべきもの」となった瞬間、束縛感や窮屈さを感じて、ルールから逃れたいと思う人たちもいるかもしれない。そして仮にそのような受け身な態度の中でしか守られないルールであったとしたら、個々の自発性・創造性が発揮されるようなクリエイティブな社会が生まれてくることもないだろう。
本展は、これまでの社会の構造をわかりやすく紐解きながら、これからのルールのあり方について、来場者一人一人に問題提起する機会を与えてくれるような構成になっている。
社会が大きく変革し、ルールのあり方もまた大きく変わろうとしている今、ルールに向き合い、主体的に関わっていくためにはどうしたら良いのか?ということへの新たな道筋を示してくれるような示唆的な展覧会である。
展覧会情報
「ルール?展」
展覧会Webページ:http://www.2121designsight.jp/program/rule/
会期:2021年7月2日(金)〜11月28日(日)
時間:平日 11:00 ~ 17:00 /土日祝 11:00 ~ 18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日(11月23日は開館)
※本展は事前予約制のため、来館の際には必ず下記より手続きの必要があります。
http://www.2121designsight.jp/reservation.html
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取材・文/ 小池タカエ