
西武渋谷画廊『モダン→ポストモダン展』レポート。KAWS、ダニエル・アーシャムらによる「白の世界とカラフルな世界」
『モダン→ポストモダン展』が、6月22日から7月18日まで西武渋谷店の8F美術画廊で開催された。2011年から定期開催される同展は、20世紀以降のモダン(近代)からポストモダン(脱近代)へのアートの変容を辿るもの。今回はファッションにも影響を与えるストリートアーティストとしてKAWSやダニエル・アーシャム、ジュリアン・オピーらをピックアップしたものとなっていた。

真っ白な2体のピカチュウがお出迎え
ダニエル・アーシャムの白い彫像をカラフルなKAWS作品が囲む
会場に一歩足を踏み入れると、古代彫刻を思わせる真っ白な彫像が、アニメのようなカラフルでポップな色使いのペインティング作品によってぐるりと囲まれている。一見全く異なるアプローチで作られたこれらの作品は、ファッション界からのオファーが絶えない注目のアーティスト、ダニエル・アーシャムとKAWSによるもの。彼らが今回の主役だ。

まず目につくのは、ダニエル・アーシャムが制作した2体の真っ白なピカチュウ。所々、風化して崩れたように穴が開いているが、よく見るとその内部には結晶のようなものが顔をのぞかせている。これは2020年にアーシャムがポケモンとタッグを組んだポケモン初の現代アートプロジェクト「Relics of Kanto Through Time」で制作された彫刻作品。1000年後の西暦3020年にこれらがカントー地方で発掘されたという設定だという。
きっと1000年後の人はピカチュウなんて知らないはずだ。本来の意味や文脈から切り離され、白く化石化したRelics(遺物)としてのピカチュウの中で、それを形作っていた「何か」が結晶化され成長している。果たして結晶化したモノの正体は一体何か、考えさせられる。


フィクションとしての考古学
アーシャムの作品の根底には「フィクションとしての考古学」というコンセプトがある。私たちの身の回りにあるモノが朽ち果てて風化し、未来にとっての遺物として発見されるのだ。会場にはピカチュウのほか、クマのぬいぐるみやキティちゃん、ギリシャ彫刻の女性の頭部、カメラなどを象った作品が並ぶ。(ちなみにピカチュウ以外はユニークピース=一点物で、本物のクリスタルなどが埋め込まれている。まるで本当に結晶が生じているよう)。
興味深いのは、すでに発見され、現代の私たちにとって遺物であるはずのギリシャ彫刻(を象った作品)の内部でも、美しい結晶化が起こっていること。1000年後の未来では、1000年前(現代)のモノも3000年前(ギリシャ時代)のモノも、人間の創造物は同様の変化を遂げていることを示唆しているのかもしれない。

人気キャラクターとアートを介して遊ぶ
私たちはKAWSの共犯者なのか!?
壁に目を移すと、ずらりとKAWSの作品。左側にはミシュランのキャラクターをモチーフにした作品が色違いで並んでいる。目にはおなじみの「××」。彼は以前、フリーランスのアニメーターとしてディズニーのスタジオで働いていた経験があり、そこで著作権に抵触しないギリギリのラインでアニメキャラクターを描く術を習得したそう。ほかにもミッキーマウスやセサミストリートのキャラクターに似たキャラクターがよく登場する。
人気キャラクターに似ているからこそ鑑賞している私たちは楽しくなってしまうのだが、その時点で私たちはKAWSの共犯者といえる。彼の作るポップで洗練されたアートを介し、まるで拡張現実のようにアニメの世界と現実世界をオーバーラップさせながら子どもの頃から親しんだキャラクターたちと遊ばせてもらっているのだ。

何が描いてある!? 超クローズアップ
中央奥の壁には「THE NEWS」という、ひと際色鮮やかなシリーズ。絵の具をまき散らしたような表現はまるで抽象画のよう。これまでのKAWS作品と異なり、一目では何が描いてあるのか分からない。…がよく見てみると、何と「目玉」や「手元」などの超クローズアップ。「これは一体何が描かれているのだろう?」と、一点ずつ見えない部分まで想像しながら鑑賞することもこの作品の楽しみ方といえるのではないだろうか。

自分に由る世界を拡張させたクリエイション
アーシャムは生まれつきの色盲。彼の作る漂白された未来遺跡のような世界は、自分が見ている世界を足掛かりにフィクションを築き、それを拡張したものといえる。一方、KAWSは自分が幼い頃から目にしたキャラクターを現実世界に拡張させることで独自のフィクションを築いた。白の世界とカラフルな世界。一見相対する表現も、自らに由る世界を拡張させたクリエイションだという点で共通する。そしてアートと同様、二人のフィクションで遊ぶもう1つの方法こそ身近なファッションアイテムなのかもしれない。
7月16日からは、国内初のKAWSの大型展覧会「KAWS TOKYO FIRST」が森アーツセンターギャラリーで開催される。初期の作品から最新作まで150点以上が並ぶというからこちらも要注目だ。
展示概要
『モダン→ポストモダン展』
会期 2021年6⽉22⽇(火)~7⽉18⽇(⽇)
時間 10:00~20:00
会場 西武渋谷店B館8階 美術画廊

ダニエル・アーシャム、KAWS作品のオーナー権を購入する
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