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アート鑑賞

バレエ好きなら必見!ピエール=エリィ・ド・ピブラック「CATHARSIS」展をレポート

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東京・銀座にあるギャラリー「THE CLUB」にて、2021年10月16日〜12月11日の期間、パリを拠点に活動するアーティスト、ピエール=エリィ・ド・ピブラックによる「CATHARSIS」展が開催されている。本記事では、展覧の様子の一部をお届けしたい。

ピエール=エリィ・ド・ピブラック
パリ生まれ。写真家のポール・デ・コードンを祖父に持つ。ソルボンヌの MSG と EDHECビジネススクールを卒業した後、2009 年から本格的に作品制作に取り組み、2010年には初の大規模シリーズ「American Showcase」をニューヨークで制作、写真集を出版した。2013 年から 2015 年にかけてはパリ・オペラ座のバレエ団を追った、大規模な展覧会と書籍「In Situ:dans les coulisses de l’Opéra de Paris」を制作。高い評価を得て、パリフォトをはじめロサンゼルス、マイアミ、キューバ、2020 年には東京の CHANEL NEXSUS HALL、京都のKyotography にて展示された。また同年、日本での新たなプロジェクト「Hakanai Sonzai」での撮影を行った作品は、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーとパリのギメ美術館にて展示されることが決まっている。彼の作品はローザンヌのエリゼ美術館、フランス国立図書館、アパチャー財団をはじめとしたコレクションに収蔵されている。

ダンサーたちから溢れ出す、圧倒的なエネルギーとオーラが立ち込める空間

©THE CLUB

今回、THECLUBで展示されているのは、2013から2015年にかけてピエール=エリィ・ド・ピブラックがパリ・オペラ座のバレエ団を密着して撮影した三部作プロジェクト「In Situ」のひとつ、「CATHARSIS」である。

白と黒が織り成すシックで洗練された空間で目にできるのは、ピエール=エリィ・ド・ピブラックの珠玉の作品集にとどまらない。なぜなら、そこには物理的な写真作品を「鑑賞する」という意味を超えて、バレエダンサーたちが醸し出す気配――どこかオーラのようなものが立ちのぼっているからだ。

それは通常、舞台鑑賞の際には肉眼でははっきりと捉えることができない、“エネルギー”といってもいいかもしれない。

会場は、モノトーンを基調とした2種の壁紙で構成されている。これらの背景色はおそらく、写真の素材を最大限に引き立てるために凝らされた工夫なのだろう。

©THE CLUB
©THE CLUB

舞台で華麗に舞うダンサーたちは、人々に圧倒的な感動や喜びを与える、一人一人がバレエという華やかな舞台芸術をつくり上げるプロフェッショナルである。しかしその華やかさの一方で、ストイックなまでに日々鍛錬を積み、心身ともに鍛え上げて最高の美を表現するという宿命を背負う。

ダンサーたちは、ひとたび舞台に踊り出ればその一挙手一投足にそこにいる全観客の視線が注がれる。華やかに・しなやかに舞い、最高のステージを作り上げるということは、そのような緊張やプレッシャーからは決して逃れられないーーまさに緊張と弛緩は表裏一体ということなのだろう。

だからこそ、そうした緊張感はオーラとなって、またそれと同時に逆の向きに放たれる弛緩はしなやかな動きを伴い軽やかな舞いとなって、私たちの心に確かになにかを訴えかけてくるのだ。そしてそんな一見アンバランスにも思える緊張と弛緩の拮抗が解き放たれた瞬間に、ある種の「CATHARSIS」(カルタシス )としての浄化が起こるのかも知れない。それは見る者(観客)にとっても、そして見られる者(ダンサー)にとってもーー。

ピエール=エリィ・ド・ピブラックが、真に記録したかったもの

ピエール=エリィ・ド・ピブラックは、本シリーズの撮影において第一に、ダンサーたちのあいだに慎重に溶け込むことを心がけたという。そこで様々なふるまいを観察しながら、オペラハウスとバックステージでの生活を共にし、この「In Situ」を完成させた。

緊張感漂う現場に溶け込み、撮影を行うことは並大抵のことではなかったことは容易に想像できる。しかしその一方で、ダンサーたちばかりでなく作家である彼自身もまた息を呑むほどの圧倒的な現場を目にし、ただならぬ空気を感じ取ったからこそ、そのオーラの結晶をかたちに、フィルムに捉えるという偉業を成し得えた、ともいえるだろう。

その彼は本作に込めた思いを、こんな言葉で綴っている。

「Catharsis」はダンスに対するきわめて私的で抽象的なアプローチを反映しています。斬新なビジョンとユニークな技法により、ダンサーが舞台で発揮するエネルギーが、周りの空間へと広がっていくさまを捉えようとしました。バレエ演目が私に与えてくれた強い感情や衝動、発見や幻想を、写真的な観想へと置き換えようとしたのがこの作品です。それはどこか幼いころの記憶にも似ています。こうして生まれた力強いイメージは、自ずと表れた抽象性を通じて、様々なストーリーを生み出したのです。写真の前に立てば、そこから伝わってくるエネルギーと感情が少しずつ沁み込んでくるでしょう。そして、それをどう捉えるかはひとりひとりの心に託されているのです。(ピエール=エリィ・ド・ピブラック)

本文からも、ピエール=エリィ・ド・ピブラックがダンサーたちの踊りだけでなく、一流のバレエダンサーたちが纏う本物の輝き、舞台上に立ちのぼるエネルギーを映し出そうという明確な意図があったことがわかる。

私たちは、日常の中でふとなにかに心を動かされ、その琴線にふれるような体験をしているが、その感動の源泉とはひょっとしたら本物のエネルギーやオーラに触れた時なのかも知れない。そんなことをふと思わせてくれる展覧会である。

通常の視覚体験では捉えられないもの、その美しさの奥に潜むものの気配を、ぜひ会場で直に感じ取ってほしい。

©THE CLUB

展覧会情報

ピエール=エリィ・ド・ピブラックーー「CATHARSIS」展


会場:THE CLUB  東京都中央区銀座6丁目10−1 6F (GINZA SIX 6F)
会期:2021年10月16日(土)〜12月11日(土)
時間:12:00 ~ 19:00
展覧会公式サイト:http://theclub.tokyo/ja/exhibitions/pierre2110/

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文:小池タカエ