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「オリジナルとは何か?」を問う“キューピー人形”が登場!?森洋史の個展をレポート

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東京の銀座 蔦屋書店にて現在、アーティスト・森洋史による個展「MORYGON KEWPIE」が開催されている(~12月8日まで)。

森洋史といえば、古典やポップ・アートの名画、さらにアニメやマンガ、ゲームからの引⽤といった既存のイメージを組み合わせてパロディを仕掛けた作品を多く制作しているアーティスト。それらの表現を通して「オリジナルとは何か」というテーマを追求している。

そんな森が新しく手がけたモチーフが、愛らしいキューピー人形」。今回彼にとって初の試みとなる立体作品がお披露目となった、本展の見どころをご紹介したい。

森洋史 プロフィール

1977年生まれ。2013年東京藝術大学大学院美術研究科油画技法・材料修士課程を修了。ポップアート等の美術史上の名画と、アニメやゲームから引⽤したイメージをリミックスした作品を制作。アニメ調に描かれたキッチュなイメージや、レトロゲームのドット絵を彷彿とさせるイメージの数々は、最新の⼯業テクノロジーを⽤いた独⾃の技法を駆使して制作され、緻密さと⾼い精度によって、特有の質感を持つ作品へと仕上げられている。

誰もが知っている名画など既存のイメージを作品に取り入れ大胆に変換させるシミュレーションアートやアプロプリエーションアートのコンテクストを引用し、鑑賞者が既視感を覚えるとともに、共感や反感など某かの化学反応を起こすことを狙いとしている。1980年代に起こったポップアートのシミュレーション作品を中心に新作を展開した個展「MOSHA」(2020年4-5月に銀座 蔦屋書店にて開催)は、盛況に幕を閉じた。

の初の試みとなる立体作品のモチーフは、なんと「キューピー人形」

会場に入って、感動のあまり声を上げてしまったのが、「カワイイ!」という第一声。

愛くるしい顔と出で立ちで、長年親しまれてきた人気のポップアイコン「キューピー人形」がキラキラと光を放つフィギア姿を一目見た瞬間、きっと多くの人は思わず目を奪われてしまうのでないだろか。

その魅力の正体こそ、本展の最注目――森洋史が手がけた今回初の試みとなる立体作品、その名も「MORYGON KEWPIE」(モリゴンキューピー)だ。

あらゆる方向から光を受け止め、光の反射や見る角度によって異なる表情を見せてくれるMORYGON KEWPIEの立体作品には、その表面に「ポリゴン」という多面体のヴァーチャル・リアリティに用いる技術が採用されているという。

本プロジェクトを始めるにあたって森は、これまで平面作品で使ってきた技術も取り入れつつ、キューピー人形の持ち味をうまく表現できないだろうか?と考えてたどり着いたのが、このポリゴンの技術だったのだそう。

「MORYGON KEWPIE」は、一番大きいシルバーの立体を含めて、全5色展開されている。

ちなみに「MORYGON KEWPIE」のモリゴンとは、森洋史の「モリ」と、今回使った技法のポリゴンの「ゴン」を掛け合わせてできた造語だという。

どこかミラーボールを思わせる、鏡面多角形の集合体によって立体化されたキューピー人形は、本来のキュートさという持ち味をしっかりと踏襲しつつ、ヴァーチャルな世界あるいは近未来からやってきた「進化系」キューピーを思わせる、不思議な雰囲気を醸し出している。そんな相反する二面性を宿しているのも、MORYGON KEWPIEならではの魅力なのではないだろうか。

左目と右目にはそれぞれ文字が、ピットで刻まれている。

立体作品だけでなく、版画、映像と多彩なメディアに展開!

また本展では、これら立体作品の他にも、MORYGON KEWPIEの版画作品、さらにNFTにも展開されるという映像作品が展示されている。

版画作品は、レッド、ブルー、ピンクと全15色のカラーバリエーションで展開されているが、これらは元となるMORYGON KEWPIEのデジタル作品から、ジークレープリントによって再現されたものだという。ビビットな色の特徴を生かした絶妙な発色が高い精度で生かされながらもどこかレトロでノスタルジックな雰囲気が漂っている点に、版画作品ならではの良さ、あたたかみが感じられた。

発色は美しく、さらにレトロ感も感じさせる版画作品。

さらに今回注目の映像作品では、MORYGON KEWPIEが画面の中でクルクルと回転している姿、「動くキューピー」を目にすることができる。

こちらは回転するごとに色が変わっていくため、まるで実在するキューピーを見ているように、リアリティをもって楽しめる感覚を味わえるかもしれない。

デジタルアートフレーム付きでの販売のほか、NFT作品として販売予定の、MORYGON KEWPIEの映像作品シリーズ。

NFT市場にも、いち早く参入した映像作品の魅力も体感できる

なお、こちらの映像作品とともにぜひ注目したいのが、すぐ近くに展示されている日本画とアニメ絵を組み合わせた「Japanesque」シリーズを映像化した作品だ。

本作はMORYGON KEWPIEのNFT作品と同様、株式会社FRMのマーケットプレイス「XYZA」にて展開される予定だという。

「Japanesque」シリーズ《Seasonal Revolutions – Harvest moon》 左はデジタルアートフレーム付きでの販売のほか、NFT作品としても販売される予定。

NFTは現在アート業界でも最注目のキーワードの一つであるが、実際のところは国内で参入しているアーティストはごくわずか、というのが現状である。(海外ではすでに事例も多く、ダミアン・ハーストは有名である)そんな中、森は国内アーティストとしては、いち早くNFT市場に参入した人物として知られているのだ。

これらの作品がNFT市場でどのように価値を生み、広がっていくのかという点も、今後目が離せない。

さらに会場では、森のスタイルを特徴づける「ドット絵」を彷彿とさせる新作も展示されている。これらの作品は歴史的名画とサブカルチャーを絶妙にリミックスさせる技のすごさを目の当たりにすることになるだろう。

作品の撮影写真からは決して伝わってこないドットの手の込んだ技法もさることながら、色彩の微妙なグラデーションも楽しめる内容となっており、改めて森の表現の幅の広さと圧倒されてしまった。

ドット絵を思わせる新作は、MORYGON KEWPIEとはまた一味違った魅力を楽しめる。

まとめ

日本人にとってもなじみ深いキャラクターである「キューピー人形」との思いがけぬ出会いから、立体、版画、映像と複数のメディアで多様に展開し、表現の可能性を進化させた森洋史。

そんな森がこれまで蓄積してきた磨き上げられた技術と最先端の技法が結集した本展は、新たな表現の幕開け「MORYGONシリーズの第一弾」という意味で、必見の内容である。

デジタルと立体、オンラインとオフラインの往還を楽しみつつ、またNFT作品の魅力にも触れる中で、森が一貫してテーマとしてきた「オリジナルとは何か」ということについても、ぜひ思いを巡らせてみてほしい。

展覧会情報

森洋史 個展「MORYGON KEWPIE」


会場:銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUM(GINZA SIX 6F)
会期:2021年11月27日(土)~12月8日(水)
時間:11:00~20:00
展覧会特設サイト:https://store.tsite.jp/ginza/blog/art/23382-1702111112.html

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文:小池タカエ