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アート鑑賞

写真の“物質性”を2.5D印刷で“再現”する。横田大輔個展「Alluvion」レポート。

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写真家・横田大輔の個展「Alluvion」が、銀座の三愛ドリームセンター内「RICOH ART GALLERY」で開催されている。従来の写真というメディアの在り方を超えた独自の写真表現を追求する横田が、リコー独自のアートプロジェクト「StareReap」とコラボレーションした新作を含む18点による展覧会の様子をレポートする。

横田大輔個展「Alluvion」展示風景
横田大輔個展「Alluvion」展示風景

▍写真フィルムの物質そのものを描き出す 横田大輔の写真

横田大輔は、2010年に「 第2回写真 1_WALL 展」グランプリを受賞、2018年にはテートモダンでのグループ賞「SHAPE OF LIGHT」に参加し、2019年には第45回「木村伊兵衛写真賞」を受賞するなど、国内外で高い評価を受ける写真家だ。

今回の展覧会では、横田の「Color Photographs」シリーズの新作が並ぶ。

横田大輔個展「Alluvion」展示風景

このシリーズは、写真フィルムを熱湯により熱現像をすることで溶けたものを積層したり、フィルムの表層をカッターナイフで削り取ったり、また、その削った破片を別のフィルム上に積層するなど、物理的にフィルムの上に像をつくりだし、それをスキャナで読み取ったものをプリントしている。通常、カメラで写真を撮影する時のように写真フィルムに上に「光」で像を造り出すのとは異なり、写真フィルムの物質そのものでイメージを作り出している。

横田大輔個展「Alluvion」展示風景
横田大輔個展「Alluvion」展示風景

記録する媒体であったはずのフィルムが記録される側に立ち、また、銀塩の写真フィルムを用いながら最終的にはデジタルでイメージが形成されるなど、従来の「写真」というメディアの在り方を変える方法でつくられた作品群だ。

▍2.5D印刷「StareReap 2.5」で実現する ”地層”のようなプリント

こうしてつくられた横田の作品は、平面の写真プリントでも立体感が感じられるのだが、今回の展覧会ではこれらをリコーの2.5D印刷「StareReap 2.5」で仕上げている。

横田大輔個展「Alluvion」展示風景
横田大輔個展「Alluvion」展示風景

「StareReap 2.5」は、インクジェット技術を活用し、1層が髪の毛の半分ぐらいの厚み程である23ミクロンの樹脂を何層も重ねて印刷することで、人の手では再現できないような微細な凹凸を表現する技術。

≪Untitled≫ / 横田大輔(部分)
≪Untitled≫(部分) / 横田大輔

インクジェット技術を活用した技術ではあるが、今回のプリントの方法は、インクジェットによる通常の写真プリントとは大きく異なる。ある1点の色がそのままインクの混色で再現されるのではなく、異なる色のインクが積層されている。

たとえば、熱湯現像した際に写真フィルムに付着した水もそのままスキャナで取り込んだ作品では、巻き込んだ水の層がそのままクリアーな樹脂の層として、”積層”するかたちで再現されている。それは、銀塩写真ともインクジェットプリントとも違い、どちらかといえば絵画に近い表現方法といえるかもしれない。

≪Untitled≫ / 横田大輔(部分)
≪Untitled≫ (部分)/ 横田大輔

今回の個展タイトル「Alluvion」 (沖積層)というのは、「StareReap 2.5」のこうした方法からとっているだけでなく、これまでの制作において、写真というメディアを超えた表現を模索し積み上げてきた横田が、この技術によって新しい段階に入る可能性を示唆する。

Alluvion(沖積層)といのは、古い地層のうえに
最終氷期以降 ( 約 18,000 年前より新しい時代 ) に堆積した地層をさします。
新しい技術によって、元の画像を変成させ、積み上げていくイメージでつけたタイトルです。
― 横田大輔

≪Untitled≫ / 横田大輔(部分)
≪Untitled≫(部分) / 横田大輔

横田自身、「StareReap」とのコラボレーションによって新たな変容を遂げた作品について、以下のように語っている。

厚みを出していくとき、半立体的な状態を「再現する」、
それは元のモチーフを再現するというイメージがあったのですが、
実際は画像を元にまったく厚みのない平面な状態から形を起こしていくものでした。
シミュレーションとして高さを加えていくことに面白さを感じました。
それは再現性を追及するものでなく、そこには正解がないのです。
― 横田大輔

「StareReap」の技術者たちと繰り返しやりとりをしながら仕上げたという今回の新作は、横田の「写真」でありながら、完成した作品は「写真」ともいいきれない、新しい表現方法といえるのかもしれない。

横田大輔個展「Alluvion」は、2021年7月10日から8月7日まで。予約制で開催中。

展覧会情報

横田大輔 個展「Alluvion」

展覧会webページ:https://artgallery.ricoh.com/exhibitions/alluvion
会場:RICOH ART GALLERY
会期:2021 年 7 月 10 日(土)~ 2021 年 8 月 7 日(土)
時間:12:00 ~ 19:00 ※最終日 18:00 終了
休廊日:日・月・祝
※ 新型コロナウイルス感染防止に伴う政府・東京都の方針により、営業時間・会期は前後する可能性がございます

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文:ぷらいまり。