
新拠点のGallery COMMONこけら落とし。河村康輔個展レポート
今年11月に東京都・神宮前に移転したGallery COMMON。そのこけら落とし展示となる、河村康輔による個展「TRY SOMETHING BETTER」。今回はその展示の模様をご紹介する。
河村康輔
1979年に広島で生まれ、高校卒業後に上京、東京のクリエイティブ・コミュニティに参加し、グラフィックデザイナーとして活動後、2000年代前半よりアーティストとしてキャリアをスタートした河村康輔。 adidas、G-shock、ユニクロ、ガンダム、エヴァンゲリオン、AKIRAなどとのコラボレーション、デザインの仕事と併せて、国内外で展覧会を開催、以来彼による独特なコラージュスタイルは文化発信地である原宿でも広く認知されるようになる。

Gallery COMMONの新拠点は、入り口から階段を降りていったところの地下にある。ストリートな雰囲気でどこか隠れ家にきたかのような気持ちになるギャラリーに、これまたストリートな香りが漂う河村の作品が展示されている。
河村の代表的な作風といえば、雑誌など既存の素材をコラージュし、再構築する表現が特徴的。今回の展示では、全作品がモノクロで、シルバーの光沢がある素材が使用されているため、光に当たると鋭く輝いていた。

遠くから見ると、いくつかのキャンバスに跨って人物モチーフが形成されているような作品が多いが、近づいてみると、素材がシュレッダーにかけられ細く切り刻まれ、元の位置から少しずれた状態で配置されている。
それはまるで古びたデジタルの画質が粗い画像を見ているかのような気持ちになるが、絵画作品というアナログなメディアでデジタルの片鱗を見ることができるのは面白い。近づいて凝視すると、元の素材のプリントの粒が目に飛び込んできて、ゲシュタルト崩壊を起こすかのような、視界が支配される感覚に陥った。もちろん見る人によって見え方は異なるだろう。

今回の展示に際し、作家は「一般的に芸術的価値を見出されず、見過ごされるような素材を選び、光を当てることで、 新しい価値観を生み出したい。 そして、ライブ感を大切にしている。 それは影響を受けてきた音楽やカルチャー(70~90年代のパンクロック、ヒップホップ、スケートカルチャーなど)から学び、今の自分自身を形成してきた。」と話している。
彼の作品に使用されているモチーフは、確かに元を探ると取り止めもなく、普遍的な物ばかり。雑誌などで見かけたら、きれいとか、おしゃれと一瞬は思うかもしれないが、多くの人はすぐに忘れてしまうのかもしれない。しかし、ひとたび彼の作品に昇華されると、そこにある空間を支配するほどの存在感がある。
今回展示されていた作品の中には、1つのメディアをモチーフにしたものの他に、様々なメディアから引用したと思われる作品もあった。特に印象的だったのは、2人の人が見つめあっているようなシルエットが12個並んでおり、その中に様々な映画の1シーンから引用したようなシチュエーションが切り取られてコラージュされている作品。シルエットとなっている2人のドラマチックな人生を投影しているかのようにも見える。コラージュされているメディアは様々で、一部しか見えないことから、余計に想像が掻き立てられる。こういった作品の中で選択するメディアの振り幅の広さも、作家自身が影響を受けたっと話す多くのカルチャーが投影されているのだろう。


ギャラリーの雰囲気、神宮前というファッショナブルな土地柄も手伝い、ギャラリーのリニューアルオープンという新たなカルチャーの発信地の誕生にふさわしい刺激的な空間と展示だった。ぜひ皆さんも足を運んでみてほしい。
展覧会概要
TRY SOMETHING BETTER
会期:2021年11月20日〜2021年12月19日
時間:12:00〜19:00
会場:Gallery COMMON
※月、火 休廊
※国や自治体の要請などにより、日程や内容が変更になる可能性があります。
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文・写真:ANDART編集部