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アート鑑賞

今チェックしたい 注目の若手作家3名の個展が六本木で同時開催。小林健太 個展 / NAZE 個展 / スクリプカリウ落合安奈 個展 をレポート。

アート鑑賞

六本木にあるコンプレックスビル「ANB Tokyo」で、今注目の若手作家3名の個展が開催されている。小林健太、NAZE、スクリプカリウ落合安奈が、1人1フロアの空間で新しい展開を試みる展示だ。

この記事では、「ANB Tokyo」で2021年9月15日〜10月3日に開催される3つの展覧会を紹介する。

6F 小林健太 個展 「#smudge」

カラフルなストローク(筆致)による抽象画のようなイメージが壁面を覆い、そのストロークの一部が現実空間に飛び出してきたような立体が空間に浮かぶ。アーティスト 小林健太の個展「#smudge」の展示空間だ。

小林健太 個展 「#smudge」 展示風景

小林健太は1992年生まれのアーティスト。彼が扱うメディアは写真であるが、一般的な「写真」の扱い方とは少し異なる。「写真」は「真実を写す」と書くが、彼はイメージをゆがめたりエフェクトを入れたりといった編集の痕跡をわかりやすく残すことによって、本当は目に見えるままではない「写真」と「真実」の間にあるものを見せている。

本展のテーマとなるのは、小林のイメージ制作における代表的なプロセスである「smudge」。「smudge(指先ツール)」は、Photoshopで色味や輪郭を修正する際に用いる基本的なツールだが、小林はこのツールによって過剰に画像を引き伸ばし、写真の中の光をまるでパレット上の絵の具のように扱いながら、そのストロークを残している。そのストロークは、トラックパッド上で指を動かした軌跡を残しているものであり、デジタル表現の中に身体性が取り入れられた表現でもある。

小林健太 個展 「#smudge」 展示風景

今回、小林はそれらの作品を、「写真プリント」、巨大な「壁画」、「映像」といったメディアで展開するほか、最近の新たな試みとして、ストローク部分を抽出した「立体」、そして「レンチキュラーシートを用いた作品」へと展開している。レンチキュラーシート上にプリントされた炎は、角度を変えてみることで揺らいで見え、奥行きも感じさせられる。写真と映像と立体、その間にあるようなアプローチで、現実にある物質とは違った質感が表れる。

レンチキュラーシートを使った作品 ≪Dual Image ◐≫(左), ≪Dual Image ◑≫(右) / 小林健太

写真の風景に編集を加えることで、目に見えるままの風景を捉えるのとは違ったアプローチで写真と向き合い、現実の風景にはない空間を作り出してきた小林だが、今回はその空間が”真”となって目の前に現れるような新しい展開を感じさせられる展示だ。

小林健太 個展 「#smudge」 展示風景

4F NAZE 個展 「URAGAESHI NO KURIKAESHI」

キャンバスや板、布に描いたドローイング、フィギュアやアンティーク小物を組み合わせた立体作品など、まずはその物量に圧倒される。60点を超える作品が壁面を覆い尽くし、床面にもチョークで絵や文字が描かれている。1989年生まれのアーティスト NAZEによる個展「URAGAESHI NO KURIKAESHI」の展示空間だ。

NAZE 個展 「URAGAESHI NO KURIKAESHI」 展示風景

NAZEはグラフィティカルチャーをベースとした作品を制作するアーティスト。今回の展覧会では、初期作品から最新作までを分け隔てることなく展示している。壁面のグラフィティは、数日間展示室に滞在し、直接壁に描いて仕上げられたという最新作だ。

壁の一部には大人ひとりがやっと入れるほどの壁の穴が開けられている。かがみ込んで穴をくぐり抜けると、その中はまるで「秘密基地」。触覚的な筆致で描かれるドローイング、スプレーやコラージュを用いたペインティングや、廃棄物を使ったオブジェ、テキスタイルワークなど、彼の多岐に亘る制作を一度に見渡すことができる。

NAZE 個展 「URAGAESHI NO KURIKAESHI」 展示風景

まるで茶道の「にじり口」のような入り口について、NAZEは「シンプルにどんな人でも同じような経験をしてから部屋に入って欲しかった。皆地面に手をつかないと入れない穴。(NAZE twitterより)」と記している。

NAZE 個展 「URAGAESHI NO KURIKAESHI」 展示風景

パフォーマンス集団・contact Gonzoのメンバーとしても活動する彼の作品には、身体性が表れている事も特徴だ。今回展示されている主に2021年に制作された大判のキャンバスの作品群は、まず、スプレーを使ってキャンバスにストロークを描いていき、そのストロークの中からイメージを見つけ出して、アクリル絵の具で描き足すことでイメージを完成させたものだという。

左から≪SUGUSOKONI ARUMONO≫, ≪NAZEbear≫, ≪VENUS≫ / NAZE

「眠りに着く直前の、夢と現実の間で見たイメージを描き起こした時に、NAZEじゃない自分が描きたいものがある気がした。」

NAZE 個展 「URAGAESHI NO KURIKAESHI」ステートメントより

今回の展示のステートメントの中には、自分が意識している「描きたい対象」とは違う、新たなステージを探るような文章が見える。ストロークからイメージを抽出するという方法は、自身の意思だけではない、無意識の中に描き出したいものを取り出すという新しい試みなのだろうか。

3F スクリプカリウ落合安奈 個展 「わたしの旅のはじまりは、 あなたの旅のはじまり」

白壁の落ち着いた展示空間に、音のない映像、モノクロームの写真が整然と並ぶのは、スクリプカリウ落合安奈の個展「わたしの旅のはじまりは、 あなたの旅のはじまり」の展示空間だ。

スクリプカリウ落合安奈 個展 「わたしの旅のはじまりは、 あなたの旅のはじまり」 展示風景

スクリプカリウ落合安奈は、日本とルーマニア、2つの母国を持つ美術家。「土地と人の結びつき」というテーマを持ち、国内外各地で土着の祭や民間信仰などの文化人類学的なフィールドワークを重ね、インスタレーション、写真、映像、絵画などのメディアで作品を制作している。

今回の展示では、母親であり、写真家である落合由利子の写真と、自身の写真作品をあわせて展示する初の試みとなる。

スクリプカリウ落合安奈 個展 「わたしの旅のはじまりは、 あなたの旅のはじまり」 展示風景 落合由利子の作品(左)と、スクリプカリウ落合安奈の作品(右の2点組の作品群)が並ぶ

写真家・落合由利子の作品は、ベルリンの壁崩壊から東欧の激動、ルーマニアの地方の牧歌的な生活、そして日本とルーマニアの往復といった、自身の人生の「旅」が繊細なモノクローム写真で収められており、鑑賞者はその「旅」を追体験するようになっている。

≪別れ、時はたえることなく≫ / 落合由利子

一方、スクリプカリウ落合安奈は、自身のルーツであるルーマニアを訪れた際に撮影した写真と、ルーマニアから持ち帰ったものを日本の朝日の下で撮影した写真を2点組にしたシリーズを9点展示している。

今回、彼女は自分に正面から向き合った作品を制作するにあたり、母親であり一人の表現者である由利子から「話を聞く」のではなく、共同で作品を展示することによって「作品で対話する」という方法をとったという。このため、この空間は、スクリプカリウ落合安奈と落合由利子の2人展の会場でありながら、展示室全体がスクリプカリウ落合安奈が自身と向き合ったひとつの大きな作品でもあるような展示となっている。

≪わたしの旅のはじまりは、あなたの旅のはじまり≫ / スクリプカリウ落合安奈

「今だからこそできることと」して、今までの人生全てを振り返ってかたちにしたという本展は、スクリプカリウ落合安奈の作品の中でもひとつの転換点となりそうな展示だ。

(本展については後日、インタビュー記事を掲載予定。)

▍ANB Tokyoという場で、多様な価値観と出会う

今回同時開催されている3つの個展は、それぞれが全く違ったテーマ・表現方法での制作を行い、展示室ごとに強い個性が表れた展示空間となっている。

この3名は、ANB Tokyoのオープニング展「ENCOUNTERS」展 (2020年) に参加した26人のアーティストの中から特に注目度の高かったアーティストとして選ばれたという。

ANB Tokyoディレクターの山峰潤也に話を伺うと、今回はわざと全く違ったタイプの3名を選出したという。それは、各展示を訪れる鑑賞者が全く違ったタイプであり、別のフロアを訪れることによって、訪れた人たち自身の本来の興味とは全く違った展示・魅力と出会うことを意図しているという。

多様な価値観同士が出会うことによって、セレンディピティーが生まれるのだろうか。是非、3つのフロアを通して体感してもらいたい展示だ。

なお、2021年9月25日は本展示のアーティストトークがオンラインで開催される。気になった方は是非こちらも合わせてチェック。


配信日時|9月25日(土) 18:30〜予定
参加作家|スクリプカリウ落合安奈、NAZE、小林健太
モデレーター|山峰潤也(一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表/ANB Tokyoディレクター)

※本イベントは視聴無料です。
※配信URLは後日ANB TokyoのNEWSページにて公開いたします。

▍展覧会情報

▍小林健太 個展 「#smudge」

▍NAZE 個展 「URAGAESHI NO KURIKAESHI」

▍スクリプカリウ落合安奈 個展 「わたしの旅のはじまりは、 あなたの旅のはじまり」

会場:ANB Tokyo(港区六本木5丁目2-4 )*六本木駅から徒歩3分
会期:2021年9月15日(水)~10月3日(日)
開館時間:12:00~18:00
休館日:月・火曜日(祝日の場合は開館)
入 場 料:一般/1000円 大学生/500円(全フロア共通チケット)/中・高校生 入場無料
※価格は全て税込 ※学生は受付にて学生証要提示

オンライン予約ページ

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文・写真:ぷらいまり